作品タイトル不明
第351話 緊急事態
ヴェレスさんやロッゾさんとも仲良くやりつつ、料理大会+仮装パーティーの細かな詳細を決め、イベント当日まであと3日。
平和な日常を過ごすだけだと思っていた中――緊急事態は唐突にやってきた。
激しく扉を叩く音で、私は飛び起きるように目を覚ます。
辺りはまだ真っ暗で、一瞬、変な夢を見て目覚めたのかと思ったけど、すぐにシーラさんの声が聞こえてきて、夢ではなかったことが分かった。
「佐藤さん、急いで出てきてください!」
「お、起きました。すぐに出ます!」
いつも冷静なシーラさんの慌てた声音を聞き、緊急事態であることをすぐに察した私は、寝間着のまま部屋の扉を開けた。
扉を開けた先にいたシーラさんは、完全な戦闘準備を整えており、トラブルの原因が戦闘関連であることを察した。
「佐藤さん、深夜に申し訳ありません! 先ほどヘレナがやってきまして、魔物が襲撃に来ているとの報告を受けました!」
「魔物が……襲撃ですか? ここに向かっているということでしょうか?」
「はい! なので、佐藤さんはすぐに王都に逃げてください! アッシュは用意してもらっています!」
この慌てっぷりからも、弱い魔物の襲撃ではないことは分かる。
私は戦力にならないし、ここは指示に従って逃げるのが最善策なのは分かっているけど……。
「シーラさん、すみません。私もここに残ります」
「はい! すぐに逃げ――え? に、逃げてください! 危ないんですよ?」
「危ないことは分かっています。ただ、私にしかやれないことがありますので、ここでみんなを置いては逃げられません」
「…………………」
完全に想定外の返答だったようで、顎に手を当てたまま固まってしまったシーラさん。
わがままを言ってしまった形ではあるけど、私にしかできないことがあるというのは事実だ。
私自身には力はないけど、NPを使って応戦することができるからね。
今後のことを考えるなら、防衛にNPを割きたくはないところだけど、全てが破壊される事態を招くようなら、貯めていた全てのNPを使って対抗するつもり。
「シーラさん、残らせてください」
「…………分かりました。できれば佐藤さんには逃げてほしかったですが、佐藤さんの意思を尊重します。詳しい話を聞きに行きますので、すぐに準備を整えて外に出てきてください」
「分かりました!」
シーラさんとは一旦分かれて、私は急いで準備を整える。
突然の襲撃に激しく心臓が鳴っているけど、なるべく平静を保って支度を終えた。
1階に降りると、既にルーアさん、ブリタニーさん、ジョエル君、ポーシャさん、ロイスさんが集まっていた。
全員が武具に身を包んでおり、表情は普段とは違って非常に怖い。
「佐藤、逃げずに残る決断をしたのか。私としては逃げてほしかったが心強い」
「正直、見直したよ。気が弱そうに見えるけど、佐藤も男だね」
シーラさんとブリタニーさんが嬉しい言葉をかけてくれる。
わがままを言ったこともあり、申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど、幾分か救われた気持ちになった。
「それにしても、急な襲撃って怖いですね! どれくらいの規模なんでしょうか?」
「さあね。ただ、こうして全員が集められたくらいだから、相当危険なことに間違いないと思うよ」
弱い魔物であれば、クロウやスレッドだけで対応できるからね。
私もブリタニーさんと同じく、相当危険な魔物が迫ってきていると思っている。
「私は元軍人。ようやく100%の力で、佐藤に恩返しできるというものだ。緊急事態なのに申し訳ないが、意外とワクワクしている」
「私も同じだよ。未到のダンジョンで経験を積んできたしね。ド派手に暴れさせてもらうつもり」
「凄く心強いです。本当にありがとうございます」
緊急事態にも関わらず、好戦的な目で笑っている2人が非常に心強い。
ただ、ジョエル君だけは違うようで、眉を下げて困り顔になっている。
「正直言いますと、僕は怖いです! どうせなら、3日後のイベントの時に襲撃してきてくれれば良かったのに、という考えばかり頭をよぎっています!」
「その気持ちが普通だと思いますよ。私も全く同じことを考えていましたから」
イベントの3日前ということもあって、今日は来訪者が誰もいない。
3日後であれば、ヤトさんやアシュロスさん、ローゼさんにイザベラさん。
それからベルベットさん、ドニーさん、ミラグロスさん。
さらにさらに、蓮さんたちも来る予定だったからね。
国家戦力を超える戦力が揃っていたと思うし、私もジョエル君と同じく、「3日後だったら良かったのに」と思ってしまう。
「ないものねだりをしてもしょうがないよ。私たちだけで守り抜くしかないからね」
「私たちだけでなく、佐藤さんの従魔もいるから大丈夫だと踏んでいる。特にライムは驚くほど強いからな」
確かに、ライムだけでも相当戦えるのは間違いない。
今挙げた方たちが参加した模擬戦大会で、堂々の優勝を果たしたぐらいだからね。
ルーアさんの言葉に、「いけるのでは」と私が思い始めたそのタイミングで――別荘に誰かが帰ってきた。
帰ってきたのはシーラさんとヘレナであり、ここから襲撃者について詳しく話を聞くことになりそうだ。