作品タイトル不明
第350話 意外な組み合わせ
ヴェレスさんが越してきてから、1週間が経過した。
特に直してもらいたいものがないこともあり、ヴェレスさんには農作業を手伝ってもらっている。
少し変わった方ではあるけれど、能力は非常に高いようで、すでに慣れた手つきで作業をこなしている。
ただ、能力が高すぎるせいか、何かさせてほしいというアピールが凄まじい。
睡眠も基本的に3時間ほどで十分らしく、体力も人間の数倍はあるようだ。
シーラさん曰く、戦闘能力も桁違いで、ドラゴンの姿になったヤトさんに匹敵するほどの力を持っているらしい。
ヴェレスさん自身も以前、直すより壊す方が得意と言っていたくらいだし、そんな方に農作業をさせているのは宝の持ち腐れだと思うんだけど……。
自ら志願して、ここに移り住んできたからには、無理に止める理由もない。
この周辺の見回りを任せるのも一つの手だと思うけど、この辺りは比較的安全で、クロウだけでも十分事足りている。
色々と考えてはみたものの、結局これといった案が思いつかないまま、こうして1週間が経過してしまった。
「佐藤さん、難しい顔をしていますけど、何かありましたか?」
「いえ、ちょっと考えごとをしていただけですよ。ご心配いただき、ありがとうございます」
「考えごとですか? ……あっ、もうすぐ行われる料理大会と仮装パーティーのことでしょうか?」
花が咲くような笑顔でそう言ってきたシーラさん。
ヴェレスさんのことで頭がいっぱいだったけど、言われてみれば、そろそろ料理大会の準備を考えないといけない時期。
まあ、料理大会に関しては大規模な準備が必要なわけではない。
ただ、テーマを決めたり、審査基準や審査員を決めたりはしなければならないからね。
他の街から客を呼ぶようなイベントにするなら、さらに工夫も必要になるだろうが……。
今のところは料理大会も仮装パーティーも、内々だけで行う予定だ。
「料理大会のことも考えないといけませんね。シーラさんは今年も参加してくれるのでしょうか?」
「もちろんです! 去年は悔しい思いをしましたので、今年こそは優勝を狙いにいきます!」
「料理は得意でしたもんね。シーラさんの料理、楽しみにしています」
農作業終わりにそんな会話をしながら、シーラさんと一緒に別荘へ帰っていたのだが、その途中でロッゾさんの家に入っていくヴェレスさんの姿が見えた。
ロッゾさん×ヴェレスさんという組み合わせは珍しく、引っ越してきてから2人が話しているところはまだ見たことがない。
本当は別荘に帰って、ゆっくりと大会のルールについて考えたかったのだが……流石に気になってしまう。
私はシーラさんに先に戻ってもらうよう伝え、様子を見に行くことにした。
「ロッゾさん、例のものは用意してきました。本当に譲っていただけるんですか?」
「おお! 仕事がはえーな! もちろん、ちゃんと渡すから安心しろって!」
「では、確認してください。市場には出回らないものだと思いますよ」
ドア越しに聞こえてくる会話は、何やら妙に怪しい。
さすがに違法な取引をしているとは思えないけど、少し心配になった私は、意を決して突撃することにした。
「ロッゾさん、いますか? ……あれ? ヴェレスもいたんですか? 珍しい組み合わせですね」
盗み聞きしていたことを悟られないように、何も知らないふりをして家の中に上がらせてもらった。
もし悪巧みをしているなら慌てるはずだと思っていたが、2人とも嬉しそうな表情を見せている。
「おう! ちょうどヴェレスと取引しようとしてたところでな! 佐藤さんも見てくれ!」
「これは……宝石ですか?」
ロッゾさんが見せてきたのは、黒く輝く美しい石だった。
色のせいで少し不穏な印象を受けるものの、見惚れるほど綺麗な石。
「人間界では“魔王核”と呼ばれているものですね。私が魔王と取引をしていた際に頂いたものなんです」
「何だかすごそうな名前ですね」
「魔力塊のすごいバージョンみたいなもんだ! 俺なりに発電機を開発しててな、魔王核があれば何とかなるんじゃねぇかって思ってたときに、ヴェレスから持ちかけてくれたんだ」
「私は食料があれば十分ですからね。取引の材料になってくれて良かったです」
「そうだったんですね。ちなみにですが……魔王核の代わりに、ロッゾさんは何を渡す予定だったんですか?」
「黄金酒を1樽渡す予定だった! 俺的にもシャークトレードなんじゃねぇかって思ってるけど、ヴェレスから提案してきたんだぜ?」
黄金酒を1樽というのも、今では人気でかなりの価値がある。
それでも、魔王核のほうが圧倒的に高価だと思う。
とはいえ、ヴェレスさんは必要としていないようだし、お互い納得しているなら……まあいいのかもしれない。
「あの美味しいお酒を1樽もらえるのであれば、魔王核なんて安いものです」
「……てことらしいんだわ!」
「分かりました。では、黄金酒は私が用意します。その代わりに、ヴェレスにはおつまみをプレゼントします」
「はぁ? なんで佐藤さんが代わりに出すんだよ!」
「発電機が完成したら、私も嬉しいですからね。投資と考えれば安いものですよ」
「おつまみ……? “おつまみ”というのは何でしょうか!?」
困惑するロッゾさんと、目を輝かせるヴェレスさん。
とりあえずロッゾさんの反応は後回しにして、今にも興奮しそうなヴェレスさんに話を向けた。
「おつまみはお酒のアテになるものです。美味しいものを用意させていただきますね」
「い、いいのでしょうか!? 魔王核ごときで頂けるものではないと思うのですが! 申し訳なくて受け取れません!!」
そう言いつつも、口元からはよだれが垂れ、目は輝きっぱなし。
食べる気満々なのは明らかだ。
それでも、魔王核のほうがずっと価値が高いのだから、おつまみ程度は当然のお礼。
「いえ、ぜひ受け取ってください。今夜にでも晩酌をしましょうか?」
「色々と申し訳ありません! ――ぜひ!!」
こうして、ヴェレスさんとの晩酌が決まった。
ロッゾさんも参加するとのことで、楽しい飲み会になりそうだ。