軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第349話 上の空

デザートにノーマンさんお手製のプリンもいただき、全員が大満足で食事を終えた。

クリスさんに続き、異世界の料理のレベルの高さを示すような形になったけど、ヴェレスさんはその中でも段違いで良い反応を見せてくれた。

今はぼーっと上の空になっており、泣き腫らした目も相まって少し心配になってくる。

最初は召喚のされ方に加え、“堕天使”という肩書きからとんでもない方だと思っていただけに、今のこの姿は想像もできなかった。

蓮さんたちもきっと驚くだろうし、私の気持ちが分かってくれるであろう4人には早く報告したい。

「それで、ヴェレスはここで何をするんじゃ? 農作業できるのかのう?」

「農作業はやったことがありませんが、佐藤様のお役に立てるよう、1から覚える所存です」

上の空だったヴェレスさんは表情を作り直すと、心臓に拳を当ててそう言った。

農作業はいくらでも人手がほしいし、ヴェレスさんが手伝ってくれるなら嬉しいけれど……少しもったいない気もしている。

靴を直したあの力を使えるのであれば、そちらの方面で活躍してもらったほうがメリットが大きいからね。

もっとも、その直す力が気軽に使えないのであれば話は別だけど。

「靴を直してもらったときのような力は、いつでも使えるのでしょうか? もし常に使えるのであれば、ヴェレスには農作業ではなく、そちらで力になってもらいたいと思っています」

「申し訳ありませんが、膨大な魔力を必要としますので、いつでも使える力ではありません。週に一度ほどと考えていただければ幸いでございます」

「週に一度でも十分大きいですよ! その力を使えるようにしておいてもらえるだけで助かりますが、ヴェレスはどうお考えですか?」

「力は使えるようにしておきつつ、農作業もやらせていただきます。このご恩は命を賭してお返しすると決めておりますので」

魔力を貯めることに専念してもらうだけで十分なんだけど、自ら働きたいと進言してきたヴェレスさん。

行き過ぎた社畜のような考えであり、本気で命を賭してきそうなところが恐ろしい。

「命までは賭す必要はありません! それでは、ほどほどに手伝っていただけたら幸いです」

「分かりました。全力でお手伝いさせていただきます」

「全力は駄目です。ここの方針は“ほどほどに頑張る”ですからね。ルールを破って働きすぎたら追い出しますよ」

私はヴェレスさんの目を見て、しっかりと忠告する。

働きすぎは悪であり、ヴェレスさんが望んでいたとしても止める責任が私にはある。

たとえヴェレスさん自身が良いと思っていても、他の人へのプレッシャーになりかねないことを私はよく知っている。

私の会社にも、早朝から深夜まで自ら働いていたAさんという方がいたのだが、上司は何かにつけて「Aさんは頑張っているのに」とプレッシャーをかけてきた。

結果として、無理やり頑張らされ続けて1年の間で新入社員の半数以上が退職。

そして、Aさんも1年を過ぎた辺りで精神を病んで退職。

サービス残業だったし、本当に会社以外は誰も得をしないLose-Loseの状況だった。

「追い出されるのは……困りますね」

「でしたら、きちんと休むときは休んでください。食事以外にも娯楽はありますし、他の方との交流もいいと思いますよ」

「佐藤様がそう仰るなら、他の方との交流もさせていただきます。ひとつお伺いしたいのですが、ヤトさんはここで暮らさないのですか?」

急に話を振られ、固まったヤトさん。

以前はここで暮らしたいとゴネていたみたいだけれど、最近はそんな様子は見られない。

ヤトさんは次の龍王ということもあって、色々と忙しそうにしているからね。

「…………ここで暮らしたいところじゃが、今のわらわにはやることがあるのじゃ!」

「そうなんですか。ヤトさんとなら、すぐにでも交流できると思ったんですが……」

「ただ、やるべきことが終わったら、わらわはここで暮らすのじゃ! アシュロスと父上と話して、そう決まっておる!」

「そうなんですか? そのことは私も初めて聞きました」

「もう少し先の話じゃからな! 龍王としての資格が備わったと判断されたら、父上が龍王の座を降りるまではここで暮らしていいということになっておる!」

初めて聞く話に驚いたけれど、ゴネなくなった理由が分かり、私は非常に嬉しかった。

イベントには参加してくれているけれど、遊びに来る頻度は減っていたし、少し寂しいと思っていたからね。

ここで暮らすために頑張っているのだとしたら、私も諸手を挙げて応援したい。

「それは楽しみですね。そのときは、一緒に佐藤様の素晴らしさについて語り明かす会をしたいです」

「それは嫌なのじゃ!」

誘いを即座に断られ、しょんぼりしているヴェレスさん。

私としても、そんな会は絶対にやめてほしいから、きっぱり断ってくれてよかった。

その後、私はヤトさんとヴェレスさんと他愛もない話を、深夜まで続けたのだった。