軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 不可視の処刑と、未来からの死神

木々が鬱蒼と生い茂り、一般客の目から完全に遮断された死角。

私は歩みを止め、一つ大きな溜め息をついた。

「――ついてくるなら、もう少し足音を殺したらどうだ? CIAの野犬ども」

私が振り返ると同時に、前後と右方の茂みから、三人の男たちが音もなく姿を現した。

彼らの手には、すでにサプレッサー(消音器)が装着された軍用拳銃が握られ、正確に私の急所を狙っている。

「……気づいていたか、ミスター・カミタテ。さすがはイージスのCEOだ」

リーダー格の白人男性が、冷酷な目で私を睨みつけた。

「だが、これでチェックメイトだ。悪いが、少し眠ってもらう。その後で、君の美しい奥さんと可愛いお嬢ちゃんにも、大人しく我々のバンに乗ってもらおう」

私の家族に触れると、そう口にした。

その瞬間、私の中で張り詰めていた「父親」としての糸が切れ、絶対零度の「怪物」へのスイッチが完全に切り替わった。

「チェックメイト? ……滑稽だな。お前たちは、自分がすでに『すり潰されるだけの実験動物』の檻の中にいることすら理解していない」

私が指を鳴らした、次の瞬間だった。

――カチッ。

男たちの背後の茂みから、迷彩服に身を包んだ屈強な男たちが、亡霊のように六人、音もなく姿を現した。ヴィクトルが統括する我が社の 暗殺部隊(シャドウ) だ。

彼らの手には銃ではなく、奇妙な『黒いトランク』が握られていた。

「なっ……!? 伏兵だと!? 撃てッ!!」

リーダーが叫び、私に向けて引き金を引こうとした。

だが、それよりも早く、部下たちが手にした黒いトランクが開かれた。

ブゥン……という、数十万の羽音が重なったような不気味な低周波音が周囲に響き渡る。

「ヒィッ!? な、なんだこれは!!」

「虫……!? いや、機械か!?」

トランクから溢れ出したのは、黒い煙のような群れ。

一つ一つがスズメバチほどの大きさしかない、極小の『自律型マイクロ・ドローン群』だった。数千機のドローンが、一つの巨大な意志を持った生命体のように空中を蠢き、男たちを完全に包囲した。

これが、Dr.クリス・ウォーカーが私の未来の理論を元に開発した第一の悪魔。

2040年代のアメリカ軍が何兆円を費やしても実用化に難航していた、『完全自律型スウォーム(群生)兵器』だ。2013年の現在において、こんなものが存在すること自体が物理法則への反逆である。

「く、来るな! うおおおおっ!!」

パシュッ! パシュッ!

工作員たちがパニックに陥り、ドローンの群れに向かって発砲する。

しかし、AIによって完璧な三次元機動を行うドローン群は、飛来する銃弾の軌道を瞬時に計算して避け、あるいは数十機が自ら犠牲となって盾となり、群れ全体の進行を一切止めない。

「アッ!? ぎゃああああああああっ!!」

一人の工作員が、悲鳴を上げて銃を落とした。

群れの一部が彼の手首に群がり、超極小のマイクロ・レーザーカッターで、神経と腱を正確に焼き切ったのだ。

銃という現代の武器が、未来のオーパーツの前では文字通り「石ころ」以下の無力なゴミと化した。

「ひぃっ、助け……! 俺の足が……目がぁぁぁぁッ!!」

残る二人も、次々とドローンにまとわりつかれ、筋肉の繊維を、急所を外した血管を、ミリ単位で正確に切り刻まれていく。

致死量には至らない。だが、彼らの脳髄には、人類が経験したことのない圧倒的な『未知への恐怖』と『激痛』が直接叩き込まれていた。

「あ、悪魔……! お前は、なんなんだ……ッ! こんな技術、地球上のどこにも……!」

全身を切り刻まれ、血だるまになって地面に這いつくばったリーダーが、涙と鼻水を流しながら私を見上げた。

超大国のエリート諜報員としてのプライドなど、そこには微塵も残っていなかった。

「私はただの父親だよ。家族の休日のピクニックを邪魔する害虫を、駆除しているだけだ」

私は彼を見下ろし、冷酷に告げた。

「あの世でペンタゴンの上司に伝えておけ。神盾宗一に手を出した代償は、いずれアメリカという国家そのもので支払わせると」

私が手を振ると、ドローン群が一斉に彼らの頸動脈と延髄へと殺到した。

短い痙攣の後、三人の工作員は完全に絶命した。

アメリカが誇る諜報員たちが、銃の引き金を引くことすら許されず、赤子のように蹂躙されたのだ。

「……ヴィクトル」

『はい、ボス。死体は特殊な酸で処理し、跡形もなく消滅させます』

通信機越しにヴィクトルが応える。

「ああ。周囲の血痕も土ごと回収しろ。結衣たちに、血の匂いを嗅がせるわけにはいかないからな」

私はドローン群が再びトランクの中へ収容されていくのを見届け、スーツのシワを軽く払った。

そして、冷酷な復讐者の顔から、休日の良き父親の顔へと、完璧な笑顔を貼り付ける。

「さて、麦茶を買って戻らないと。サチが喉を渇かせてしまう」

木漏れ日が差し込む平和な遊歩道を、私は鼻歌交じりに歩き出した。