作品タイトル不明
4-19
エデンでは今日も職員たちが慌ただしく走り回っている。
基地建設にリソースを割かれ、人力での物資運搬を強いられる状態に陥っているのが現状らしい。
台車でもあれば違ったのかもしれないが、そんなアナログなものが今のエデンに残っているはずもなく、こうして日夜職員は建設中の基地へと送る物資や資材をゲート前に運んでいる。
運搬用のドローンやロボットはほぼ全て出払っており、エデン内部を切り詰めるほどに限界ギリギリの突貫工事。
これで間に合わなければ全てがご破算である。
文字通り命懸けで彼らは職務に励んでいる。
自発的に協力する英霊たちもちらほら見かけることからも彼らの必死さが窺える。
斯く言う俺もその一人であり、ある程度物資が集まったところでバイクを出して輸送の手伝いをやっている。
あれだけ使い倒されてまだ自発的に手伝うのだからレイメルの評価も上がっていく。
やはり長く生きた英霊は交渉能力や先を見通す目があるということだろう。
年齢の話はさておき、面白い話を耳にした。
どうやら同期が「対スコール1訓練」なるものをやっているらしい。
以前から対抗意識を燃やしていたのは知っていたが、俺の劣化コピーが出現したことで本格的なものへと変わり、いずれ「スコール1VS他第八期」の対戦カードが実現するかもしれないとのことである。
情報元はいるのかいないのかよくわからない忍者。
普段何をしているのか全くわからない人物だが、時折目の前に現れてはこのように取引をしている。
何処にいるのかエデンですら把握できていないと知った時は驚いたが、隠密特化の英霊だからこそ可能な技術か何かがあるのだろう。
俺としても同期の挑戦には受けて立つつもりでいる。
このスコール1というワンマンアーミーをどのような戦術で攻略しようとするのか?
(これに関しては純粋に興味がある。それに自分が気づいていない弱点を知ることができるなら、今後に活かすことができる)
こんなにもわかりやすいメリットがあるのだ。
拒否したことで同期との関係が悪い方向に変化する可能性を考えれば、断る理由などどこにもない。
というわけで挑戦状を叩き付けられる日を楽しみに待ちながら、今日も第八期のメンバーとのすれ違いを黙って知らぬふり。
一日の物資輸送回数が増えてますますレイメルの株が上がる。
そのレイメルだが……既にコールドスリープを行うだけのポイントは集まったそうだ。
だが今は状況が状況なので、落ち着くまでは見合わせることになっているらしい。
彼女としても急ぐ理由はないので、エデンに余裕ができるまで待つことに異存はなく、それまでは各部署の手伝いに奔走しているとのことである。
できることが少ないので、文字通り走り回ってばかりだとレイメルは苦笑していた。
これが、ここ十日ほどの出来事である。
「……で、そちらはまだまだかかりそうか?」
「見ての通り、完成するまで俺っちはこっち」
物資が運ばれるとそれら全ては除染対象である。
そのためジョニーの仕事がなくなることはなく、中継地点がようやく形になってきたところで、離れることはできないままだ。
とはいえ、今はその除染作業も落ち着いており、こうして俺と飯を食う余裕もでてきている。
「しっかしお前さんとレイメルがねぇ」
どうもあの件は一部で噂になっているようだ。
広まってこそいないが、知っている人は知っている程度にはまことしやかに囁かれている。
所詮は噂なので無視しても構わないのだが、仲間を騙すのも気が引ける。
なのでジョニーには一部を話すことにした。
「レイメルには明確な目的があってな。そのためにポイントが必要だった。あともう少しで目標に届きそうだったのだが、これ以上前線で戦うのはリスクが大きいと判断した。そのため、使い倒した俺のご機嫌取りでエデンと取引をした」
俺はそれに協力してやることにしただけで何もなかったことをジョニーに話す。
それを聞いたジョニーが「もったいねぇなー」と感想を口にする。
「そこは抱いてよかったと思うぜー? 俺っちのところにもいっぱい来てるけど、帰したことは一度もないぜー」
今となってはジョニーの除染能力はエデンにとってなくてはならないものになっている。
俺以上にエデンの救世主をやっているジョニーのご機嫌を損なうような真似をするはずもなく、この件は「まあ、そうだろうな」としか思わない。
そう、うらやましくなんかない。
男二人で下世話な話で盛り上がりたいのはやまやまだが、そういうキャラではないし、エデンに戻れば次の輸送が待っているだろう。
俺が立ち上がると近くにいた職員が空になったプレートを静かに持っていく、最初は止めたのだが「これも仕事です」と言われれば引き下がるしかない。
「またな」
そんなわけで俺はそれだけ言ってエデンへと帰還する。
ジョニーも「おう」とだけ返して残った昼食に手を付け始めた。
このまま何事もなく順当にいけば……そう考えてしまうほどに穏やかな日々。
同時に「でもやっぱり嵐の前の静けさなんだろうな」とも考えしまうのは、立派なフラグ建築なのだろうか?
エデンへと帰還した俺を待っていたのはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるデイデアラ。
最初のセリフが「よう、聞いたぜ」ということからも噂を聞いてやってきた暇人だとわかる。
となると考えるのはどう対処するべきか?
こいつに本当のことを話せばあっという間に拡散されることは間違いない。
ならば取るべき対応は無視である。
「で、どうだったよ?」
肩に手を回して顔を近づけてくるおっさんを払い除け、次の輸送があるかどうかの確認を近くにいた職員に尋ねる。
どうやら今日中に運ぶ物資はもうないようだ。
職員たちの慌ただしさも少し前と比べて落ち着いており、あと数日もすれば輸送も一日一回くらいになるそうだ。
「皆さんが協力してくれたお陰です」
男性職員が深々と頭を下げて礼を言う。
当然それは俺一人のものではない。
なので「その言葉は全員に聞かせるべきだ」と言ってその場を離れた。
「それで、何の用だ?」
視線で「お前は何かやっていたっけ?」と問いかけることで下世話な話などする空気をキッチリとなくしてからデイデアラに問う。
思惑を潰されたデイデアラは「あー」と居心地悪そうに頭を掻き、一つ息を吐いてから仕方なさそうに本題に入る。
「実はな、お前と模擬戦をやろうと思ってた」
その言葉に俺は少し考える素振りを見せる。
「やる気があるのは結構だ」
「ああ、早とちりすんな。まだ続きがある」
頷く俺を遮ってデイデアラは今回の模擬戦の目的を語る。
その内容はつい最近知ることになった第八期が行う対スコール1の実戦テスト。
やはりというべきか理論上は可能でも実際にやるとなれば上手くいくかどうかはわからない。
それの確認を行うのが今回の模擬戦の目的だとデイデアラは説明する。
「以前から何かやっているなとは思っていたが……」
「正直お前のコピーがどれほどかはわからねぇが、本物の相手しとけば対処もできるだろ、って話だ」
この件の始まる理由を語るデイデアラに対し、俺は「雑だな」と一言で返すが、劣化コピーならばその程度で十分かもしれない。
何をしているか知っていたのでポーカーフェイスを維持することは余裕だったのだが、この模擬戦のメンバーには俺も驚きの表情を隠すことはできなかった。
「メンバーは俺様とマリケスにドータ。後はアーシダとエルメシアの五人だ」
「エルメシアが?」
俺が驚いた声で反応するが、デイデアラも同じらしく「だよなぁ」と同意の声を漏らしている。
あの女を引っ張り出すだけの条件を考えてみたが、しっくりくるのが思い浮かばない。
考えてもわからないものは仕方ないと俺は頭を切り替える。
さて、どのような戦術を用意しているのか?
彼らができることから俺への対策を予想する。
基本的に俺は効率重視でやっているため、見せていない手札は多い。
ならばよい機会なのでそれらを見せるのも一つの手である。
問題があるとすれば、実戦に堪え得るキワモノ装備がそれほど多くはないことだ。
「となると五連戦では難しいか?」と思っていたところにデイデアラがニヤニヤしながら一言。
「勿論五対一だ」
「やってくれるよな?」と笑うデイデアラだが、その眼は笑っていなかった。
どうやら本気で勝ちに来るつもりのようだ。
ならば俺が……スコール1が取るべき選択はただ一つ。
「いいだろう。楽しみにしている」
少しだけ頬を吊り上げる俺を見てデイデアラも笑う。
ちなみにチームを組んで戦うのが前提らしく、幾つかのパターンが用意されているとのことである。
まさかとは思うが、その全パターンを試すつもりではなかろうな?
確認を取ったがデイデアラは「どうだろうな」と笑うばかり。
どうやらしばらくは対戦相手に困ることはなさそうだ。