作品タイトル不明
4-20
翌朝、早速対戦カードが組まれたとのメールが送られてきた。
しかも本日の午後からという急なスケジュールである。
相手はデイデアラが予告していた通りの五人組。
どうも本来予定していた対戦がなくなったことでこんなにも早く組まれたようだ。
(暇つぶしにやってる英霊が譲ったのかね?)
地下闘技場はエデンが「死ぬことはない」と言うだけあって、英霊が即死級のダメージを受けても肉体が復元される。
原理はさっぱり理解できないが、それだけの効果を発揮するのだから使用するエネルギーもそれ相応になる。
だからこそ、地上と違い地下の闘技場は対戦カードというシステムで管理されているのだ。
それ故に誰が譲ったのかと気になるところではある。
橋頭堡確保のための中継地点設営で地下闘技場はしばらく使えなかったはずなので、待ちに待った対戦を後回しにする理由が少し気になった。
自意識過剰かもしれないが、俺がどう戦うか興味があったのかもしれない。
そんな訳で午後の予定が決まってしまい、俺は午前中に物資の輸送を終わらせることにする。
幸い現状は落ち着いてきており、一日の輸送回数も着実に減っている。
さくっと輸送を終わらせ、対戦まではゆっくりしよう。
そう思っていたのだが、悲しいお知らせがある。
悲報:今日に限って輸送が多い。
あと数日もすれば一日一回で事足りるようになるという話は何だったのか?
朝から中継地点を二往復することになるとは思わず、少し急がなければ昼食をゆっくりと摂る時間もないときた。
とは言え、全く時間がないわけではなく、物資の確認等で待機時間もある。
折角だから挨拶くらいはしておこうとジョニーを探したところ、際どい水着姿の美女二人を侍らせ日光浴をしており、それはもういい笑顔で手を振ってきた。
これには俺も苦笑で返すしかない。
あれだけ楽しんでいるようならもう心配する必要はなさそうだ。
だから午後にも輸送の予定を組んでやった。
余裕がありそうだったからな、キリキリ働いてくれ。
そんな訳で本日は過密スケジュールとなってしまった。
まったく、ジョニー君にも困ったものである。
「お前はもう少し休んだ方がいいぞ」
二度の輸送を終え、少し遅い昼食を食べる俺の前に現れたのはマリケスだった。
どうやら模擬戦を控えているのに輸送でバタバタと忙しそうにしている俺を見て、ちゃんと戦えるのかと心配してくれているようだ。
「体を動かしていた方が楽な時もある」
「意味がちげぇよ」と対戦まで残り三十分を切っているのに暢気に昼飯を食べる俺を見下ろしマリケスが呆れた声を出す。
「安心しろ、こう見えて万全だ」
一応これまで戦闘記録や映像を見ることで、ある程度は予習している。
俺に予想できる範囲での連携ならば、対処法は既に頭の中でできており、彼らはこちらの予想を上回る必要がある。
楽しみではあるが、不安もある。
どこまで俺の想像を超えて来るか?
情けない姿を見せるわけにはいかない。
既に俺はそういう立場になってしまっている。
一応懸念点としてはデータの少ないドータという存在がある。
何故五人目が彼なのか?
戦闘能力を基準にするならば、ケイあたりを入れるべきだ。
いや、戦術的な目線で見てもその方が応用が利く。
つまりここに何かがある。
その答えを知るためにも俺は立ち上がる。
「待ってるぞ」
律儀に食器を片づける俺を置いてマリケスはそれだけ言って食堂を後にする。
俺もその後を追うように歩き出す。
さて、一体どんな手を考え出してくれたのか?
俺が地下闘技場の控室に到着すると今回の対戦相手である五人は既に揃っていた。
結構ギリギリの時間に来ているので当然と言えば当然だ。
最後に悠々とやって来た俺の前に歩み寄って来るのはデイデアラ。
「しっかし、自分で仕組んでおいてなんだが……五対一を受け入れるとか俺らを舐めてる……ってわけじゃねぇんだよな、お前の場合」
「状況的に必要と判断した」
何か言いたいことがあるのは予想していた。
想定済なので答えはしっかりと用意している。
返事が予想通りだったのか、デイデアラは「はいはい、お前はそういう奴だった」と肩をすくめるだけに終わる。
俺の答えに一応は納得する一同だが、それでも面白くない奴はいる。
「負けると思ってるわけじゃないところが腹立たしいのよねぇ」
溜息を吐くエルメシアに俺は真っすぐに向き直る。
「負けるつもりで戦う気はない。いつだって、俺は勝つために戦い、踏み越えてきた」
「お前は一回立ち止まれ」
そうやって走り続けた生き様を知るが故のマリケスの言葉。
戦いの歩みを止めてやる――言い換えれば「お前は一回負けとけ」である。
ならば俺が返す言葉はただ一つ。
「やってみろ」
そんな俺たちのやり取りを見ていたドータがぼやく。
「若い人らはやる気あって何よりですが、拙僧としては少しくらい手加減してほしいものですな」
「そんな余裕を与える気がないくせによく言う」
ドータの軽口にもしっかり対応した俺は最後にアーシダを見る。
「……良い戦いをしよう」
口数の少ないアーシダはそれだけ言って歩き出す。
俺は彼女の背中に向かって「ああ」とだけ肯定の返事をする。
時間が迫る。
五人は先に控室を出る。
少し待たせることになるが、俺は時間差で控室を出ることにする。
それが「お約束」というものだ。
案の定、遅れて出てきた俺にデイデアラが「遅ぇぞ」と文句を言ってきた。
「連携の確認は不要だったか?」
そっちに気を遣ってのこととしたが、これがダメなら理由は適当に「リロードのし忘れがないかチェックしていた」とかにすればいい。
その心配は杞憂に終わり、対戦相手が出揃ったことでアナウンスが入る。
言ってることは要するに「五対一の同期対決。最高戦力の一人となった俺を追いかける云々」である。
それに対してその通りとでも言いたげなマリケス。
あからさまに嫌そうな口元を見せるエルメシアに「そんなつもりねぇよ」とでも言いたげなデイデアラと三者三様。
アーシダはいつも通り無表情だし、ドータに至っては顔が見えない。
選手紹介が終わったかと思えば、解説が入りだしたところで観客席から「早く始めろ」と怒号が飛び交う。
そんな訳で試合開始となったのだが……戦闘前にデイデアラが一言あるらしく、無防備に一歩前に出る。
「言っとくが、俺様は単にお前が調子に乗ってるからちょっと叩きのめしたい、と思ってるだけだからな」
このツンデレのような物言いに俺は「わかった」とだけ言って頷く。
おっさんのツンデレとか何処に需要があるのか?
(エルメシアが言うならまだアリなんだろうけど……キャラじゃないんだよなぁ)
開幕から仕切り直しかと思ったのだが、このやり取りで俺の意識から外れるのが目的だったらしく、アーシダが攻撃態勢に移っていた。
衣服が弾け飛んだかと思えば、鋭利な刃物となって襲い掛かって来る。
それに合わせるマリケスとドータ。
動きは見えている。
俺は後ろに飛び退くと同時にロケットランチャーを発射する。
まずは爆風でアーシダの攻撃を無効化しつつ全員を巻き込む。
しかしその一手はデイデアラによって防がれた。
ロケットランチャーの弾頭に向かって斧を振り上げたことで、地面に着弾する前に軌道を逸らされたのだ。
まさかの斧パリィに驚愕するが、残念ながらロケランはまだまだある。
別のスロットから取り出したロケットランチャーを即座に発射。
左右から挟み込むマリケスとドータのどちらか片方を止めるのが目的だ。
着弾位置をずらし、俺とドータの間に大きな爆発が起こり分断は完了する。
ついでにアーシダの攻撃も多少は防ぐことができた。
だがその間にもマリケスが迫る。
背中のブレードを抜きマリケスに備えつつ、前に出るデイデアラと詠唱を開始したエルメシアをアサルトライフルで牽制する。
デイデアラは銃弾を回避しつつ、斧でも防いでいたのでノーダメージ。
エルメシアはアーシダの防御でこっちも無傷。
(やはりアサルトライフルではダメだな)
連射力があっても一発の威力が低すぎる。
マリケスの槍をブレードで受け止め、向こうの思惑通りに近接戦闘に引き込まれた。
しかし残念ながらそれは想定内だ。
接近戦だからこそ、俺ができることがある。
(火力要員であるエルメシアを活かすなら、俺がそちらに目を向けないようにさせる)
そのために接近戦で拘束するのはあまりに見え透いている。
なので俺が取るべき対処は苛烈なものとなる。
「死ぬなよ」
俺が発する言葉はこれだけ。
マリケスもこれは予想していなかったのか、一瞬だが表情を変えた。
俺の対応策は単純にして強力――自爆である。
(至近距離なら爆発物を使わないと思ったか? 残念、アーマーで耐えられます)
あれだけデペスを倒していれば俺のアーマーは恐らくカンストしている。
ならば攻撃力が一万に届かない爆雷の直撃など大したダメージではない。
距離を取ろうとするマリケスだが、それより早く俺は爆雷を起爆させる。
だが爆炎に飲み込まれる中、俺は確かに見た。
明らかにおかしな挙動をするマリケスの姿を……俺が見たものに間違いがなければ、マリケスは爆発に巻き込まれる直前に何かを蹴っていた。
(もしかしてあの距離で直撃を免れたのか?)
だとすれば自爆損である。
爆発による煙から出た俺が見たのは有り得ない光景だった。
無数にそそり立つ柱――一目でそれが床材でできたものだとわかる。
これは地形操作によるものだと判断したが、そのケイはこの対戦には参加していない。
その瞬間、俺はあることを思い出す。
(そうか、ドータの模倣か!)
なるほど、ケイがいないのも納得だ。
ケイの地形操作能力をドータが模倣すれば、それ以外の能力を持つ分戦術の幅が広がる。
いや、それどころか有用な何かを新たに模倣させれば、この対戦を優位に進めることができる。
周囲を見渡しても柱の陰に隠れているのか誰の姿も確認できない。
対処しやすいのはマリケスと思いドータを後回しにしたが、どうやらそれは失敗だったようだ。
(よく知らないから警戒するんじゃなく、真っ先に潰しにかかるが正解だったか)
さて、主導権を渡してしまったわけだが……ここからどう出るのか?
ただフィールドを柱だらけにするだけでも俺にとってはビークル封じという意味がある。
護衛対象となるエルメシアを隠しつつ、銃の射線も切れる障害物の設置。
考えれば考えるほどに中々嫌な手を打たれたと理解する。
しかしまだ甘い。
地形に適した戦い方など考える必要もない圧倒的な火力。
確かに地下闘技場の床は硬い。
だが壊せないものではないのだ。
というわけで取り出したのはプラズマキャノン。
爆風で柱の裏を狙ってもよいのだが、多分そちらは読まれている。
だからこそ敢えての強引な力任せの解決策だ。
(さあ、どう出る?)
放たれた光弾が柱に命中し周囲を綺麗に更地へと変える。
どうやら俺が撃った場所には誰もいなかったらしく無反応だった。
なのでスロットを変えて二発目のプラズマキャノンを準備する。
直後、赤い警告ラインが視界に入る。
間違いなくエルメシアの空間攻撃である。
咄嗟に攻撃範囲から飛び退き、エルメシアを探す……だがこちらの位置を把握しているのか、警告の範囲が拡大して俺を飲み込もうとする。
俺を視認できる位置にいる。
だが、今は回避を優先する。
未だ食らったことはないが、空間系の攻撃は嫌な予感がするのだ。
回避を優先する俺を待っていたのはマリケスの奇襲。
柱を使い上手く気配を消していたのか視認するまで気が付かなかった。
槍の一撃こそブレードで止めることはできたものの、蹴り飛ばされて再び警告エリア内に戻される。
脱出を試みたところでアーシダに阻まれ、マリケスが駆けつけて再びエリア内。
二人とは反対の方向へと移動するが、そこに待ち伏せしていたデイデアラの一撃が放たれる。
ここで俺はようやく気が付いた。
エルメシアの空間破壊攻撃による誘導――これは間違いなく俺の回避能力を逆手に取った戦術である。
これには「してやられた」以外の言葉が出てこない。
だがデイデアラの爆発が伴う一撃はもらっても、発動したエルメシアの攻撃だけはしっかり避ける。
そこに追撃の一撃を入れてくるのだから容赦がない。
俺はデイデアラの攻撃を受け止め、爆発をまともに受けて柱に叩き付けられる。
(自身のデタラメなスペックに胡坐をかいていたらこの様だ)
これはまさに慢心の結果と言える。
だが反省は後ですればいい。
油断したつもりはなかったのだが、彼らが想定以上に俺の予想を超えてくれた。
これならば、何も考えずに全力で戦える。
バトルアーマーへと換装した俺がゆっくりと土煙の中から姿を現す。
さあ、第二ラウンドの始まりだ。