軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話 義妹のデレと、義両親の愛

朝、メリッサは客室の天蓋付きベッドで目を覚ますと、いつもの習慣で自力で身だしなみを整えた。鏡に向かい、髪留めをパチンと止めた、その時。

ノックの音すら待ちきれないといった様子で、部屋の重厚な扉が勢いよく開け放たれた。

「メリッサお義姉様! 起きていらっしゃいますか? 今朝お仕立て屋から、お義姉様に絶対にお似合いになる新作の乗馬服が届いたのですわ!」

きらきらと目を輝かせながら突撃してきたのは、オレオ侯爵家の令嬢イザベルだった。

かつては侍女と主人の関係だったが、婚約が内定してからのイザベルの「お姉様大好き令嬢」への変貌ぶりは、凄まじいものがあった。毎日こうしてメリッサの部屋にやってきては、お喋りを楽しみ、姉の着せ替え人形に興じている。

「おはようございます、イザベル様。……ふふ、でも、私はまだ正式に結婚したわけではございませんから、『お義姉様』は少し気が早いですわ」

「いいえ! 私にとってはもう、世界で唯一の、最高に誇らしいお義姉様ですもの!」

イザベルはメリッサの腕にきゅっと抱きつき、幸せそうに頬を寄せる。その無邪気な甘えが、メリッサの心をじんわりと温めた。

さらに、そんな二人の様子を見にやってきた侯爵夫妻も、メリッサへの愛を隠そうとはしなかった。

「おや、二人でまた楽しそうにやっているね。メリッサ、これは我が家の秘蔵の鉱山から採掘された、最上級のサファイアだよ。君のあの美しい紺青のドレスに合わせるといい」

「まあ、あなた、素敵ですわね。メリッサ、今日はお天気も良いですし、スティーブと王都の街へデートにでも行ってくるといいわ。お小遣いはいくらでも使いなさいね」

侯爵は伝説級の宝石を惜しげもなくメリッサの首元に宛てがい、侯爵夫人は実の娘を愛でるようにメリッサの手を優しく包み込む。

二年間、ダリルを支えるために自分の給金をすべて削り、節約と我慢を強いられ続けてきたメリッサ。そんな彼女の傷ついた心は、オレオ侯爵家という新しい家族からの、無条件の、そして過剰なほどの愛によって、今や完全に満たされていた。

その日の午後。

メリッサはスティーブにエスコートされ、王都の中央通りへと出かけていた。

極上の仕立てのドレスを纏い、スティーブの隣で大輪の薔薇のように微笑むメリッサの姿は、街ゆく人々が思わず足を止めて見惚れるほどの、圧倒的な美しさと幸福なオーラを放っていた。

そんな中、大通りの雑踏の向こうから、一人の男がふらふらと歩いてくるのが見えた。

泥のついた安物の服を着て、髪はボサボサに荒れ、頬はげっそりと扱けている。かつて第一騎士団の若きエースとして、爽やかな笑みを振りまいていた面影など、微塵もない。

ダリルだった。

騎士団を不名誉除隊となり、平民以下の日雇い労働でその日暮らしを続けているという彼は、完全に疲れ果てていた。

そのダリルの目が、偶然にも、前方から歩いてくる眩い二人組を捉えた。

「あ……、メリッサ……?」

ダリルは、その場に釘付けになった。

目の前にいるメリッサは、自分が知っている彼女よりも、何十倍、何百倍も美しかった。肌は白く瑞々しく輝き、その瞳にはかつて自分といた時には見たこともないほどの、深く、満ち足りた幸福の光が宿っている。

そのあまりの格の違い、まばゆいオーラに、ダリルは気圧され、息をすることすら忘れた。

(俺の隣にいた時、あいつはあんなに笑っていなかった……。俺があいつの輝きを、ずっと奪っていたんだ……)

失った宝のあまりの巨大さに、ダリルの胸に凄まじい後悔と、引き裂かれるような切なさが襲いかかる。彼はなりふり構わず、メリッサの元へ駆け寄ろうと一歩を踏み出した。

「メリッサ! お願いだ、メリッサ! 俺は今、こんなに―」

ガシッ、と重々しい気配がダリルの前に立ち塞がった。

スティーブが、メリッサを自らの背後へと完璧に隠し、ダリルを遮ったのだ。

「……下がれ、無礼者」

スティーブの瞳から放たれたのは、言葉通りダリルをその場で「圧殺」せんばかりの、冷厳で底無しの殺気だった。王太子の懐刀としての、絶対的な権力と威厳を孕んだその一言に、ダリルの身体は恐怖でガタガタと震え、凍りついた。

「我がオレオ侯爵家の次期侯爵夫人に、汚らわしい手を伸ばそうとするな。これ以上、彼女の視界にその醜態を晒すというのであれば、次は不敬罪として、君の残された僅かな人生ごと、王都の地下深くへ埋めることになるが?」

スティーブの声は極めて低く、けれど一切の容赦がなかった。

ダリルは、今の自分とスティーブの間には、もう言葉を交わすことすら許されないほどの、絶対的な「身分の壁」があることを思い知らされた。

「あ……、あ……」

ダリルはただ、恐怖と絶望に涙を浮かべ、言葉を失ってその場にへたり込むしかなかった。

スティーブは二度とクズ男に視線を向けることなく、背後のメリッサに向き直ると、その表情を嘘のように優しく和らげた。

「行こう、メリッサ。君の美しい目を、これ以上汚す必要はない」

「はい、スティーブ様」

メリッサは一度もダリルの方を振り返ることはなかった。ただスティーブの手をしっかりと握り返し、前だけを向いて歩き出す。

その背中を見送りながら、ダリルは、自分が二度とあの温かな光の中に帰れないことを、今度こそ完全に理解したのだった。