軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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鮮やかな赤の生地に、赤と黒のジャガードを合わせた気品漂う……というよりド派手なドレス。腕には黒の総レースの長い手袋。

そんでもって高々と結い上げた黒髪には、ルビーというより血の色と表現すべき深紅のバラのコサージュ。胸元は、豊満な胸をみせつけるようにがっつり開いている。

華々しいというより下品なほど飾り立てた装いで突如会場に現れたのは、ギルフォードのかつての婚約者─── コラッリオだった。

結婚式での事件を知っているごくわずかな参加者は一同心の中で叫んだ。

『うわぁーっ、一番来ちゃいけないヤツ登場しちゃったよー』と。

けれど、そんな不躾な視線に晒されても、コラッリオは動揺することはなかった。

ぐるりと会場を一瞥すると、ヒールの音を響かせまっすぐに目的地まで歩を進めていく。

コラッリオが歩く度に深紅のドレスが波打つ。それと同時に、周囲がざわめきを見せた。

そして目に付いた者全てに大いなる厄災をまき散らす死神を見るような目で、人々はコラッリオの為に道を開けていく。いや、関わり合いたくないから距離を取る。

───カツン。

ヒールの音が止まり、目的地にコラッリオが到着すれば、周囲は完全なる沈黙に落ちる。

そんな水を打ったかのように静まり返ったホールの中、コラッリオは極上の笑みを浮かべて口を開いた。

「ギル、お待たせ。ちょっと支度に時間がかかっちゃったの。でも、仕方ないわよね。だって私達夫婦にとって初めての夜会なんですから」

瞬間、ここはギルフォードの醸し出すオーラのせいで極寒の地に変わった。

参加者は一様に、見てはならないものを目にしたかのように視線を逸らす。異変に気付いた楽団も演奏ピタリと止めた。

ギルフォードは軍人だ。時と場合によっては人の命を奪う職に就いている。

つまり、この後の展開次第では、真っ白な大理石の床に、真っ赤な水たまりができてしまうやもしれない。

誰かが耐え切れないといった感じで唾を呑む音がやけに大きく響く。

ただここで一人だけ冷静な者がいた。シャンティだ。

シャンティにとってコラッリオは待ち人である。そして、ここに来た理由も知っている。

だから”ここは私の場所よ、どきなっ”と目で訴えるコラッリオに素直に応じて、すっとギルフォードのそばを離れた。

それは傍から見たら、まるでコラッリオに妻の座を譲るかのようだった。

再びざわめきが起こる。それは先ほどよりも動揺と混乱が入り混じった激しいそれ。

けれどシャンティもコラッリオもそんな雑音はものともしない。シャンティは更に距離を取り、コラッリオが入り込めるスペースを作る。

ちなみにギルフォードは露骨に怒りをあらわにすることはしない。が、その眼光は、過去一番尖っている。

でもギルフォードはコラッリオにどういうことだと問いただすことはしない。離れてしまった本当の妻に待ってくれという言葉を掛けることもしない。

ただただ無言で、離れてしまった妻を引き戻そうと強く手を伸ばす。

が、その時、周囲のざわめきに混ざって、一人の男の怒声が会場中に響いた。

「くたばれ!!」

簡潔明瞭に叫んだそれは、まごうこと無き憎悪の塊だった。

ここは夜会会場でもあるが軍人の集まりでもある。人混みの中から突如現れた衛兵に扮した男を捉えようと思ったら造作もない。

……なのだが如何せんこのトラブルのせいで、皆、厄介事に巻き込まれるのを恐れて距離を取り過ぎていた。取り押さえる間もなく、男は標的へと突進する。

一直線に剣を両手に構えて向かってくる男は、死に物狂いの形相だった。もっとも危険な状態で、無駄に覚悟を決めてしまったせいで動きがとてつもなく早かった。

あっという間に距離が詰まる。

そして男はギルフォードとコラッリオの元……ではなく、シャンティに向かって行った。

えええええええええええええっ。

シャンティは心の中で悲鳴を上げた。

打ち合わせ通りならこの男は、ギルフォードとクローネ→コラッリオ を襲うはずだった。そしてギルフォードが取り押さえ、彼の手柄になるはずだったのだ。

なのにこの現状。話が違う。違いすぎるっ。

っていうかそもそも、自分はこの男とは名を聞いたことはあるが初対面なのだ。殺されるほどの繋がりも無ければ、理由も無い。

……と、いう感じで頭の中はわちゃわちゃと忙しいシャンティだが、身体は硬直してしまっている。

対してギルフォードは、コラッリオを押しのけ硬直しているシャンティを護ろうと手を伸ばす。だが、コラッリオに妨害されバランスを崩し辿りつくことができない。

切っ先が振り上げられる。シャンデリアに反射したそれに、恐怖におののくシャンティの顔がやけにくっきりと映る。

そして渾身の力で男がシャンティを斬り付けようとした瞬間───シャンティの中の何かが豪快にキレた。

「いやぁぁぁぁっ」

というシャンティの悲鳴と共に「バッチーン」と、平手打ちの音がホール全体が響き渡った。遅れて肉をえぐる独特な音と、どさりと人が倒れる振動も伝わってきた。

この一連の出来事を会場にいる全員が目にしていた。けれど、誰もが状況を理解するのに時間がかかってしまった。

待つこと5秒。水風船が弾けたように、現状を理解した者たちは一斉に動き出す。

突然現れビンタと拳を受けて伸びてしまった男を拘束し、会場から牢屋へと連行。そして厳しい取り調べからの処罰。

相方そっちのけで軍人らしい機敏な動作で処理を始める参加者達の表情はとても複雑だった。

なぜなら、鬼の化身と呼ばれるギルフォードの拳より、シャンティの平手の方が早かったから。そして威力も、僅かの差でシャンティの方が上だったから。

そんな驚異的な平手打ちを伝授したモニータは「さすが我が孫」と満足そうな笑みを浮かべ、ルジリッドは「うちの孫を危険な目にあわせて」と怒り心頭だった。

ちなみにシャンティとギルフォード、そしてコラッリオは、この騒ぎに紛れていつの間にか姿を消していた。