軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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宣戦布告を受けたギルフォードは不敵な笑みを浮かべると「ちょっと失礼」と言って、身体の向きを変えた。

そしてすぐ近くに来た、腕を組んで仲良く歩いている と(・) あ(・) る(・) 夫(・) 婦(・) に声を掛けた。ちなみにこの夫は軍服姿でやたらめったら胸に勲章を飾っている。

「こんばんは。ドルギーナ少将。ちょっとよろしいでしょうか」

略式とはいえ丁寧にギルフォードが礼を取れば、ドルギーナ夫婦はピタリと足を止めた。

「ん?どうした、ギルフォード君。───……ああ、そっかそっか、奥さまを見せびらかせたいんだね」

訝しそうな顔をしたのは一瞬で、すぐにギルフォードの意を組んだドルギーナは、夫婦そろってシャンティに向かい初めましてと朗らかに挨拶をする。

対してシャンティはギルフォードに促され、はてなマークを頭に浮かべながらも挨拶を返す。

”あらあら可愛らしい”とか”君も、やっと男として一人前になったな”などという好意的な夫婦のコメントを受け止めながらも、シャンティはわざわざルドルフとのやり取りを中断したギルフォードの意図がわからなかった。

もちろんギルフォードは、意味なく中断したわけではないし、ルドルフに無視という、ちっちゃい反撃をしたかったわけでもない。

「ところで、ドルギーナ少将。実はルドルフ中尉がわたくしの妻の名前が違うと仰っておりまして」

「……なっ、ちょ、ちょっと待ってくれ」

いやいや困ったもんだと苦笑を浮かべながらギルフォードは、ルドルフをちらりと見た。その視線には、しっかり殺気が込められている。

それを至近距離で受けたルドルフは、見ているこちらが心配してしまうほど顔面蒼白になってしまった。

けれどギルフォードは 攻めの手を緩めない。そしてドルギーナは、表情を険しいものに変えて、ルドルフに向かい口を開く。

「ほぉ、それはなかなかユニークに富んだ発言だなぁ」

ドルギーナの発言は呑気なものに聞こえるが、その声音は冴え冴えとしていた。

ちなみにドルギーナとギルフォードは、かつて戦前では上司と部下の関係だった。

そして、ギルフォードの武功を評価し、少佐に推薦したのは他でもないドルギーナである。

もっと補足をさせてもらうと、少将という位は少佐の上。ルドルフにとったら雲の上の存在。

端的に言えば、指パッチンで未だに冷戦状態が続く国境に一人を簡単に送れる権限を持っている。

そんな強大な権力を持つお方と、ギルフォードが懇意な関係であることを残念ながらルドルフは今知ってしまった。

「私の記憶が正しければ、ギルフォード君の奥方はシャンディアナさんのはずだ。ん?違うとなると、儂が耄碌してしまったということかな?」

ギロリと睨みつけるドルギーナを前にルドルフは速攻白旗をあげたかった。

だがここは夜会会場。そして典礼用の軍服を着ている彼は、んなもん持ってはいない。

「え……えっと……」

ルドルフは視線を彷徨わせながら、どうこの場を逃れようかと考える。そして、弱々しい声でこう言った。

「……申し訳ございません。ちょっとワインを飲み過ぎたようです」

真っ白な顔をしてそんなことを言っても説得力はゼロ。

でもそこを突っ込まれたら、ルドルフは死に物狂いで酔っ払いを演じるだろう。それくらい、彼は必死だった。

そしてもう二度と、ギルフォードに牙を向けることはしないと心に堅く誓い、ペコペコと鳩のように頭を上下に振りながら会場の外へと消えて行った。

その一連のやり取りを見ていたシャンティは、説明を受けなくてもわかった。

力づくであの結婚式での事件をなかったことにしようとしていることを。あと、軍人の縦社会というのがどれほど厳しいものかも。

正直マジで怖かった。祖父は事あるごとに軍はおっかないと言っていたが、その恐ろしさを身をもって知ったシャンティは、引きつる頬を隠すのに精一杯だった。

そんなシャンティに気付いたギルフォードは、膝を折りそっと囁く。

「と、いうことだ。……だからシャンティ、君はただ今日を楽しんでくれればいい。何も心配はいらない」

ギルフォードにとっての夜会準備は、こういったことも全部含めてのそれだった。

結婚式で花嫁を入れ替えたことは公にはしていない。けれど例え緘口令を敷いたとしても、ここぞとばかりに攻撃をしかけてくる連中がいることは承知の上だった。

だから事前に、ギルフォードに対して好意的、かつ多大な権力のある人間に助力を願い出ていた。

といっても、これまでギルフォードは、上司に対して物申すことは多々あったけれど、自分より下の階級の者に対しては権力を乱用することも見せつけることもしなかった。

それが公明正大に生きる彼のポリシーであった。

けれど人は誰しも大切な者を守るためなら、牙を剥く。ギルフォードとて例外ではない。そして彼は手段を選ぶことはしない人種だった。

そんなわけで今回の一件は、傍若無人な態度とも取られる行為ではあるが、止むを得ずといったところなのでどうか大目に見てあげてほしい。

それからギルフォードは、何事もなかったかのようにシャンティをエスコートして会場内にいる知人や友人に挨拶を交わしていく。

来場者は、ついさっきルドルフが権力という拳でぶん殴られたのをしっかりと目にしているので、もうギルフォードに対してちょっかいをかける猛者はいない。

皆、総じてこの夜会を全力で楽しんでいるという体を貫いている。

ただ途中、会場警備にあたっているエリアスとクローネと出会った。

そして二人はギルフォードを見た途端、「お願いっ、料理取っておいて」とある意味空気を読まない発言をかましてくれた。……ギルフォードが同意したかどうかは、彼らの働き次第ということで。

またシャンティの祖父母であるルジリッドとモニータも軍人ではないが、今回は特例で呼ばれており、年の功からくる落ち着きで悠々と夜会を楽しんでいた。

そして挨拶に来たギルフォードに対しルジリッドは改めて「孫をよろしくおねがいします」と丁寧に頭を下げた。

ギルフォードも、彼より腰を深くして「命に代えても幸せにします」と言って頭を下げた。

一見、感動的な光景であった。けれど翌日から職場で働く同僚がルジリッドへの態度を変えることになるのは……まだ二人は知らない。

というわけで、ちょっとした(?)トラブルに見舞われたけれど、あいさつ回りは順調に進んでいった。

ただシャンティはそわそわと落ち着かない。

ギルフォードに気付かれぬよう、チラッチラッとホールの壁に取り付けられた無駄に大きいからくり時計にばかり目がいってしまう。

なぜなら、 約(・) 束(・) の(・) 時(・) 間(・) が間近に迫ってきているから。

「……えっと、シャンティ。パウダールームへ案内しようか?」

「へ?あっ、えっと……いえ。大丈夫です」

シャンティが挙動不審なのを、そういう意味に受け取ったギルフォードは小声で提案する。

斜め上の気遣いにシャンティはちょっと頬を赤くするけれど、両手を胸のところで左右に振って誤魔化し笑いをする。

けれど、ギルフォードはそれをやせ我慢ととらえてしまった。

「我慢はよくない。……いや、こういうことは女性は言い出しにくいのだから、私が気が利かなった。すまない」

「いや、本当に違います。大丈夫です」

慌ててシャンティは否定するが、ギルフォードは強引に廊下へと出ようとする。

いや、それは困る。とても困る。 計(・) 画(・) が台無しになってしまうっ。

だからシャンティは両足を踏ん張って、必死に抗う。その姿は楚々とした新妻ではなく、駄々をこねる子供に近かった。

ギルフォードとて、さすがにそこまでされれば妙な違和感を覚えるのは当然のこと。

「シャンティ、一体どうしたんだ?」

不思議そうに、というよりは不信に近い視線を向けられ、シャンティは思わず目を背ける。

だがその瞬間、タイミング良くシャンティの待ち人が登場した。

ま、他の人からすれば招かれざる客ともいうけれど。