作品タイトル不明
8
下手を打ったと慌てるコラッリオだけれど、表情は崩れることはない。なかなか強かな女性である。
まぁこの程度で狼狽える神経を持っていたなら、結婚式当日に逃亡して、その後、その相手と寄りを戻そうという発想になるわけがない。
「違うの……言葉の 綾(あや) なのよ……軍人は素晴らしい職業だわ」
取り繕うな笑みを浮かべるコラッリオに、ギルフォードは目を細めた。
「なら君は、そんな素晴らしい職業の人間と結婚することに怖気づいたと言いたいのか?」
「そ、それは……」
「君の発言は矛盾ばかりだ。私はあいにく爵位を持っていない。だから聞きたいのだけれど、爵位を持っている人間は総じて自分に都合の良い言い訳を押し通すもなのか?」
コラッリオに向けたギルフォードの声は、とても冷たかった。
不機嫌とか苛ついているとか。そんな不快なものではなく、感情がまったくこもっていない、無機質な声音だった。
ここでコラッリオは自分の発言で、本気でギルフォードを怒らせてしまったことを知る。
けれど本当のところは、違う。
ギルフォードは、コラッリオのシャンティに対する態度に怒りを覚えているのだ。彼は、シャンティがどんな想いでそれを語ったかを知っている。
なぜならギルフォードは、シャンティの両親が亡くなった経緯を軍を通して知っているし、葬儀にだって参列しているのだから。
でも今、それを語ることはしない。語るべきではないと判断した。
「質問に答えないのは、答えられないということか?コラッリオ殿」
「わ、わたくしは別に、そんなつもりじゃ……」
「では、どんなつもりだったのか?」
「……」
コラッリオはここで初めて悔しそうな表情を少しだけ出した。
でも内心は、このテーブルをひっくり返したいほど憤っていた。何一つ思い通りにいかなくて。
コラッリオはそんなことは無いと言いつつも、心の中ではギルフォードのことをどこか見下していた。
爵位もあり、容姿が美しい自分が捨てられることなど無いとタカを括っていた。
でも、ギルフォードはぜんぜん 靡(なび) いてくれない。
過去、婚約を持ちかけたのは、コラッリオからだった。そしてあっさりギルフォードは、婚約に同意した。
他の人間ならふざけるなと激昂するような結婚後の要望も、彼は表情を変えず「好きにすれば良い」と淡々と頷いただけだった。
だからコラッリオは、こう思っていた。”この人は、自分にぞっこんなのだ”と。
……でも、どうやらそれは思い違いなのかもしれない。
コラッリオは、本当に本当に、本っ当に今更ながら、そう思った。
そして、すぐに か(・) も(・) し(・) れ(・) な(・) い(・) が、確信に変わる。
「私は君との結婚について、一度は賛同した。これは間違いではない。だが、再び君と結婚生活を送りたいとは思っていない」
「どうして?」
「ありきたりに価値観が違うと説明すれば納得してもらえるか?」
「……」
ギルフォードのその発言は、あまりに不誠実なもの。
だが、コラッリオは、何も言い返すことができなかった。
そりゃそうだ。先に不誠実な対応を取ったのは、他でもない、コラッリオ自身なのだから。
彼女にはギルフォードを詰る権利などなかった。
3拍置いて、気まずい空気から逃げるように、小鳥たちはすたこらサッサと、一斉に羽ばたいていった。
食べるだけ食べたら用済み。そのドライな態度は、鳥だから致し方無いのだけれど、できれば、ちょっとばかり恩義を感じでもう少しここで場を和ませて欲しかった。
居心地悪い空気の中、シャンティは鳥が消えて行った方向を見つめてそんなことを思う。
そして二人の大事な話し合いに乱入したとはいえ、そろそろマスコットキャラクターに戻るべきだろうか。
でも、今更そうしたところで何になる?とはいえ、ギルフォードに声に出して問える空気でもない。
ということも加えてシャンティがつらつらと頭の中で考えていたら、横から突然問いかけられてしまった。
ギルフォードではなく、コラッリオから。
「ところであなた一体、何なの?」
言われて見れば確かに。シャンティは、この場に居て良い人間ではない。
だから率直に聞かれてしまえば、すぐさま答えることができない。
なにせシャンティだって、わけがわからないまま、ここにいるのだから。
「……私は……えっと……なんていうか……」
ひとまず思い付いたまま単語を声に出してみる。自分でも呆れるほど、しょうもない言葉しか浮かんでこないのが情けない。
頬をポリポリ。目を泳がせ。指先をもにょもにょと組み合わせて。シャンティは、明らかに動揺してしまった。
けれどすぐに反対側から、にゅっと太い腕が伸びてきた。
「見てわからないのか?」
そんな言葉が聞こえてきたと同時に、腰に何かが巻き付いた。ギルフォードの腕だった。
シャンティはびっくりしてバランスを崩し、椅子から滑り落ちそうになる。でも、腕の持ち主はちゃんと予期していたのだろう。
みっともなくシャンティが地面に崩れ落ちる前に、自身の方へと引き寄せる。次いで、当然のように自分の膝へと座らせた。
それはこれ以上言葉にして聞くのが野暮だといわんばかりの態度であった。