軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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軍人とは死と隣り合わせの職業である。

それ故、機敏な動作と、こうと決めたら直ちに実行する行動力を持っている。

そんなわけで、自称骨の髄まで軍人あるギルフォードは、この討議を早々に終わらすべく口を開いた。

「風の便りで聞いたが、ビデーレ卿は投資に失敗したようだな。屋敷を手放さないといけないとは……とんだ災難だったな」

ギルフォードは誰に向けて言ったわけではないが、しっかりと標的には届いたようだ。

「……ええ。そのようですわね」

コラッリオは僅かに動揺を見せたけれど、すぐに何事もなかったように微笑んだ。

ここで察しの良い人は気付いているかもしれないが、コラッリオが結婚式をぶっちしたのは、ビデーレ卿に乗り換えたから。そしてその乗り換えた相手はどうやら破産間近ということで……。

もっと察しの良い人なら、コラッリオは身勝手な都合で捨てた男と、しれっと寄りを戻そうとしているのにお気付きだろう。

もちろんギルフォードは、既にわかっている。もっというと、随分前から知っていた。

だからすぐさま「どの口が言うんだ」と不愉快そうに眉間に皺を寄せた。

ちなみにシャンティは、現在心を無にして、クランベリーがぎっしり詰まったカップケーキを食している。

そっとそこに視線を移したギルフォードは、大変お行儀が良いと思った。そして頬っぺたに付いたカップケーキの屑と取ってやりたいとも思った。

でも理性を総動員して、コラッリオに視線を戻す。そしてズバリ確信を付いた問いを投げかけた。

「まるで他人事のように言っているが、ビデーレ卿は君が選んだ相手ではないのか?」

「あら、まさか」

信じられないといった感じで大きく目を見開いたコラッリオに向かい、ギルフォードは露骨に侮蔑の笑いを浮かべた。

けれどこのコラッリオ、結婚式当日にトンズラこいたくせに、何食わぬ顔をして寄りを戻そうとする超合金の神経の持ち主である。

そして憎らしいことに容姿はとても可憐で美しい。自身の顔をの使い方も十二分に心得ているときたもんだ。

女性の最大の武器は涙である。

しかも美女の涙はどんな劇薬より強力で、最強の破壊力を持っている……と、コラッリオは思い込んでいる。

だからコラッリオは、瞬きをぐっと堪え、物理的な涙を浮かべることに成功させると、すぐにその表情も、これ以上ない程申し訳なさそうなそれに変える。

「ごめんなさい。ギルフォード……あなたにそんなことを言わせてしまうなんて、私……本当に馬鹿な女ね」

涙を浮かべながら自嘲的に笑えばこれまで500%の確率で、「そんなことないっ、君は悪くない」という返事を貰って来た。

だから今回も涙一滴で事が収まると思った。

ぶっちゃけ楽な仕事とすら思っていた。

がしかし、そんなチョロイ相手ではなかったことを、ここでようやっとコラッリオは気付く。

ギルフォードは心を動かすどころか、冷え冷えとした視線を向けるだけだったから。

「……違うの……そんなんじゃないのよ」

今度のコラッリオ言い回しは、本当に狼狽えたものだった。

唯一であり、最大の武器がまったく効かないのである。まさか開始3分でお手上げ状態にになるとは思いもよらなかった。

けれど、コラッリオは諦めが悪い。

というか、もはや結婚式当日に逃亡した手前、両親とは絶縁状態だ。もう、家名だけでリッチな男を手に入れることは不可能だということはわかっている。

ギルフォードが、自分に残された最後のカードだということも。

逃がした魚は大きい。いや、よくよく考えたら、この男、顔は良いし無駄遣いはしないし、仕事人間だから放っても勝手に大金を運んできてくれる。

しかも仕事以外に興味はないから、妻に対してあれやこれやと面倒事も言ってこないし、望んでもいない。相当な巨大魚だった。

そんなわけでコラッリオは、媚びるような笑みをギルフォードに向ける。ただ一瞬だけ、反対側に視線を向けた。

そこにいる得体の知れない小娘は、無表情でカップケーキを食べたかと思えば、今度はフィナンシェを頬張っている。目障りなことありゃしない。けれど……まぁ気にしない。気にしてはいけない。

そう自分に言い聞かせたコラッリオは、再びギルフォードに視線を戻す。

「ねえ、ギルフォード……あなたがとても怒っているのはわかっているわ。でも……ほんの少しで良いから、わたくしの話を聞いて……お願い」

コラッリオはギルフォードに寄り添うように、身体もぐっと近づけてそう彼の耳元で囁いた。

とても不本意ではあるが、意中の男は石像になったかのように全く動かない。ただ侮蔑の視線だけはさらにパワーアップしている。

けれどコラッリオとて、もう後が無い。

最終兵器である豊満な胸をぐっと両脇で挟み、ボリュームアップをしてから特技の涙声で語り出す。

「わたくし、軍人の妻になるのが怖かったの。だっていつ未亡人になるのかわからないし……それを考えたら……わ、わたくし……怖気づいてしまって……」

───パチンッ。

コラッリオがわざとらしく、すんっと鼻を啜ったと同時に、耳障りな音が辺りに響いた。

シャンティが乱暴にフォークをテーブルに叩きつけたのだ。

それはまるで、コラッリオの発言を打ち消すような勢いだった。