作品タイトル不明
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───一体彼は、自分に何を求めているのだろうか。
シャンティはこっそり首を傾げてしまう。こんなことなら初夜の時に、もう少し契約内容を詰めておけば良かったと後悔すらしてしまう。
ただこうなることを予期できたかと聞かれると、言葉に詰まってしまうけれど……。
そんなことをぼんやりと思いながら、シャンティは今度は、そぉっと隣に座るギルフォードを覗き見た。
ちなみに木製のテーブルは丸く、椅子は均等な距離を保って置かれている。
左には、何を考えているのかわからない石像のような美麗な男。
右からは”お邪魔虫はすぐさま撤退しろよなっ”という強い視線。
シャンティは、遠い目をした。そして一つの結論に達した。
きっと彼は、親しみやすさのあるマスコット的キャラが必要だと判断したのだろう、と。
でも声にこそ出せないけれど、癒しを与えてくれるものは、誰よりシャンティが欲していたりもする。切実に。
古今東西マスコットキャラというのは、よく見ればうっすらと微笑んでいるように見えて、実は無表情なのだ。
それは複雑な人間関係に疲れた人々にとって、何も言わず寄り添ってくれるキャラクターは癒しの存在となるから。
うん。そうだよね。場を和ます何かは必要だよね。
でも……そこいらの花じゃだめですかねぇ。なかなか綺麗ですよ?
シャンティはバラのアーチと、クレマチスを交互に見つめながらそんなことを思った。本音を言えば、これも声を大にして提案したい。
ただ、右からの視線が時間が経過するごとに鋭さを増して、今は息をするのがやっとの状態。
なので東洋で根強い人気を誇る真っ黒なクマのキャラクターの表情を必死に思い出して真似してみる。ま、端的に言えば無に近いそれ。
なのに、ここで左側にいる石像が、シャンティの無表情を壊しにかかる。
「シャンティ菓子を取ろう」
え?なに婚約者無視してスタイリッシュにお菓子とってんの?!
シャンティは椅子から滑り落ちそうになった。
何とかテーブルを掴んでそれを回避したけれど、気持ちは押さえることができず、ギルフォードをまじまじと見つめてしまう。
途端に、片手にトング、反対の手には取り皿を持った彼から柔らかい笑みが返ってきた。
だから、違うって!!
しかもすかさず右から「ちょっとなによアンタ。引っこんでてよね。今から、超が付くほど機密情報を語り合うんだから。邪魔すると…殺しちゃうわよ?それとも法廷で会いたい?」という無言の、でも明確な殺気が伝わってくる。
左右から攻撃を喰らったシャンティは、今にも泣きそうな顔になる。
そうすれば、右側から勝ち誇ったような、それでいて小馬鹿にするような笑いが微かに伝わってくる。
もちろん左側もほぼ同じタイミングで反応する。けれど、それは随分と斜め上のものだった。
「あ、こっちのほうが良かったか?……すまない」
───そういう問題じゃないっ。
シャンティは、かいがいしく菓子を取り分けるギルフォードに向かってそう叫びたかった。ついでにこんなことも叫びたかった。
だいたい、なんで自分がこんなパンティの中身より、もっともっとえげつない内容のことを聞かないといけないの?!聞いちゃ駄目だし、聞かせちゃ駄目でしょ?!
それに、それを聞いたこっちの気持ちはどうなるのさっ。……辛いよ?
小一時間前までは、イケメンの寝顔を堪能して、ささやかなサプライズを計画して。ルンルン気分で庭を歩いていたのに。まるで一気に奈落の底に突き落とされた気分になる。
そしてこんな八つ当たり気味のことまで思ってしまう。
ギルフォードが、コラッリオを追い返してくれていたなら。
ギルフォードが、あんなにも早くここに来なければ。
ギルフォードが、もっと不機嫌そうな顔をしてくれていたなら。
ちょっとは、救われたかもしれない。
これは偽りの結婚生活で、互いの結婚相手が見つかるまでの期間限定のもの。
ずっとわかっていた。
ちゃんと理解していた。
でも、こんな突風のような幕引きなんてあんまりだ。……あーもー泣けてくる。
だからシャンティはフォークを手に取った。次いで目の前に置かれた山盛りになった菓子にぶっ刺した。
そして自分の心の奥底にある大事な箱の蓋を開けないために、一心不乱に食べる。もぐもぐと、頬張る。
やけにしょっぱい味がして、なかなか嚥下できなくて。無作法とわかりつつも、ぐびっとお茶を一気飲みする。
人はこれを自棄食いともいうけれど……ギルフォードは、実は心から安堵していた。
なぜならギルフォードは、シャンティにここに居て欲しかったから。見届けて欲しかったから。
百聞は一見に如かず。
順番も、道理も、ズレてしまうけれど、それでも自分の気持ちを伝えるのには、ここに居てもらうのが一番わかりやすく、手っ取り早いから。
これは彼のあくまで勝手な気持ちではあるが「今、自分が伴侶だと思うのは、シャンティ、君だけなのだ」と、ちょっとで良いから肌で感じで欲しかったのだ。
そして、早々にこれを終わらせて、これまで目を逸らし続けてきたことと向き合おうと、ギルフォードはそう心に決めていた。