軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 覚悟を持った者

:-:-:-:-:-:-:-:

ギルドの一室。寝室。ベッドにはあの日ナニかが目覚めてから、長い眠りと浅い覚醒を繰り返す寝たきり状態となっているエラルドの姿。

いまではヴェーラとコリン、年少組の子たちまでもが交替で傍についている。目を覚ました時に傍に誰かが居ないとエラルドが半狂乱となってしまう為だ。

アルとヴェーラが感知したところ、ラマルダが顕現した際、彼の瞳に蓄えられていたマナがごっそりと持っていかれたのと同時に、彼の中にナニかが残された。結果、マナが乱調をきたし、それが未だに治まっていないことも原因の一つだと見ている。もちろん、父と妹を亡くしたことによる哀しみも大きい。

『使徒アルバート。先に言っておきます。私は、神子と会えば消えます。少なくとも貴方とこのように意思を交わすことはできなくなるでしょう』

ヨエルの段取りにて、ダリル達との面談が急ではあるが二日後に決まった。当然監視はされるだろうが、ラマルダはヒト族の監視など意に介していない。何らかの方法によってその使命とやらを果たすのだろうとアルは考えている。

「……つまり、今のうちに『僕の役割』とやらを教えてくれるので?」

軽く首を振るラマルダ。

『貴方の役割を伝えるのは、私の残照。私が消えた後、エラルドから“受け取って”ください。そして、勝手な願いではありますが……エラルドのことをお願いします』

「(はは。本当に勝手な話だ。女神のメッセンジャー。その“乗り物”として利用されたエラルドとラマルダが報われない。彼等こそ『使徒』として教会の聖職者にでも託宣をしてやれば良かっただろうに)」

女神側にも事情があるのは分かる。ただ、アルからすれば『知ったことか』ともなる。

メッセンジャーの乗り物として選ばれたエラルドは父と妹を失い、未だに 夢(ゆめ) 現(うつつ) でその情緒も不安定なまま。ラマルダは命まで失った。それも肉体と精神に著しい苦痛を与えられてだ。

「(まだ八歳の子供だぞ? 何の落ち度もない子供が、何故腐った都貴族の醜悪な害意をその身に受けなければならない? 虹色の瞳とやらも、遣いが宿っていた影響によるものじゃないのか? 使命とやらがあるなら、彼等を巻き込まず、とっとと神子の二人の前に顕現すれば良い。……そうだろう?)」

たとえ口には出さなくても、全てがラマルダに筒抜けであることを知った上でアルは想いを放つ。

『……使徒アルバート。エリノーラ様は神の一柱ではありますが、決して全知全能の存在という訳ではありません。その遣いである私など猶更……貴方はそれすらも理解しているのでは?』

「(この世界においては女神様にも縛りがあるんだろうさ。それは何となく分かる。謂わばただの八つ当たりだ。自分の無力さと無能さを棚に上げているだけなのも分かってる。悪かったね。なにせ僕は矮小で未成熟なニンゲンだからさ)」

これが大森林で魔物に食われたというだけなら、アルもすんなりと受け入れられる。

悔しいが、虫ケラ共の本質は邪悪でも醜悪でもない。獲物に対して嗜虐の意図もない。あるのは命のやり取りだけ。そこに“遊び”はない。ただ生きているだけ。

アルとて分かっている。そもそもはヒト族同士の醜い争い。……いや、争いですらない。バルテ子爵には醜悪な欲望があり、ソレを叶える為の力を持っていた。そして、父と双子はバルテ子爵を払いのけるだけの力を持っていなかった。突き詰めればそれだけの話。ヒト族同士における歪んだ弱肉強食に過ぎない。

「エラルドは援ける。力無き者を援けるのは当然のこと。貴女に言われるまでもない。……いや違うな。貴女にそれを口にする資格はない」

それはアルの憤り。相手が超越した存在であってもだ。

『……そうですね。手が無かったとは言え、彼等を利用した我々が言えたことではありませんでした』

……

…………

………………

ダリル達との面談の当日。ヨエルの手配により、学園内の少し小さめの訓練室が貸切で準備されていた。

ダリルにセシリー、ヨエルとラウノ。そして、姿は見えないが見張りが訓練室の外に数名配置されている。アルですら感知できない程の隠形の遣い手まで動員されているという念の入れ用。アルはラマルダの念話による指摘でその存在を知った。

「はは。こんな大袈裟に場を用意して貰うほどの事では無かったのですけどね……」

一応、まだダリル達には『託宣の神子』のことは伏せていると聞いていたアルだが、こんな待遇を続けていれば二人に違和感を抱かれるのも当然だろうと思ってしまう。

セシリーの方からは既に不信を抱かれていると、以前にヨエルからもボヤきが出ていた。アルはその際に『ダリル殿の方はそうでもないのか?』……と、考えていたが、今は違う。

「(むしろダリル殿はラマルダ様の気配にすら気付いているのでは? 修練の結果なのか……以前は垂れ流しだったキラキラの光が制御されている。恐らくは彼の意思によって。二人が並ぶとよく分かる。目立つのは制御の甘い素のままのセシリー殿の光。ただ、ダリル殿は光が制御されて、何というか濃密さがある)」

アルはダリルの“光”……女神の寵愛による証とでも言うべきモノが制御されていることに気付く。

そして、彼のマナは穏やかで凪のように揺らぎが少ない。

これは何も知らない者のそれじゃない。何らかの覚悟を決めた者。アルはそう看破する。そして、それは メッセンジャー(女神の遣い) も同じ。

『使徒アルバート。お別れです。私は使命を果たすために往きます。……エラルドに預けた私の残照を受け取って下さい。恐らく、私の痕跡が消えれば……彼のマナの乱調もましになるでしょう』

その言葉を残し、ふっとラマルダは消える。もしかするとまだこの場に存在はするのかも知れないが、アルにはもう彼女の気配も姿も声も、何も認識することができない。

ラマルダから依頼された要件は呆気なく、さらりと済んだ。

アル自身もダリル達と接触して話でも……とは思っていたが、本気の監視者に張られており、いまは明らかに適さない場。神子の話など以ての外だろう。

元より ラマルダ(女神の遣い) の用事が済めば、適当な世間話で時間を潰すかと考えていたが……ダリルの様を見てアルは気が変わった。

「ダリル殿。他の者も居ることですし……一つだけ教えて下さい」

「あぁ構わない。アル殿は何を知りたい?」

使徒アルバートと神子ダリル。

お互いのことを分かり合っている関係性などではない。ただ、この時に限っては通じ合うものがあった。

既に周りに居るヨエルや監視者はもはや二人の眼中にない。もう一人の『託宣の神子』であるセシリーも同じだ。彼女も蚊帳の外。

アルの問い。

「“使命”をご存知ですか?」

「…………」

ヨエルとラウノの内心が騒めく。

ヨエルは願う。『それ以上は言うな』『アル殿と殺し合いたくはない』と。

「……知っている。俺は使命を果たす。だが、使命の言いなりで終わるつもりもない」

そしてダリルの応答。

これにはヨエル達も驚く。漏れていたのかと。少なくともヨエルは、二人に託宣のことを少しずつ明かしていくのは、家督継承破棄の後、アダム殿下とアリエル嬢の婚約解消のタイミングからだと聞かされていた。つまり、可能性が限りなく狭くなってから。

「そうですか。ならば話は終わりですね。その結果や内容はまったく分かりませんが、この場においての僕の役目も果たせたみたいですから。ダリル殿には分かったのでしょう?」

「……あぁ。俺にはアル殿が果たした役割とその内容が何となくだが解かった」

ダリルの瞳に宿る決意。アルはソコに不穏なものを感じる。

「(ダリル殿に何があったんだ? ヨエル殿たちも知らないみたいだし……彼にはどこか“死兵”の匂いがする……一体何を覚悟したんだ?)」

見つめ合い、当人同士で完結する話。

当然の事ながら不満を抱く者がいる。セシリー。もう一人の神子。

「ち、ちょっと待ってくれ! アル殿は一体何を知っているんだッ!?」

「セ、セシリー殿……ッ!」

与えられた役割以上の事だと知りながら、咄嗟にヨエルが彼女を制する。ラウノは動かない。既に静かに臨戦態勢であり、アルの出方を観察している。いざとなれば。

「ヨエル殿! 貴方たちは……ッ!」

「……よせセシリー。ヨエル殿たちは自らの役割を果たしているだけだ」

それ以上はいけない。

ダリルが更に被せてセシリーを止める。

「ダ、ダリル……お前は……何を知った……?」

セシリーは知らない。こんなダリルを見たことがない。昔馴染みが、急に遠い他人のように感じる。

「ヨエル殿。アル殿との面談は終わりだ。……アル殿もそれで良いだろう?」

「えぇ。僕の用事は済みました。ラウノ殿や外の連中が怖いですしね。……ダリル殿。詳しくは聞けないし、僕が知る由もないけれど……ただ、健闘を祈ります。戦う者を、弱さから逃げない者をファルコナーは尊ぶ」

「ありがとう。……良い習わしだ。俺も弱さから逃げたくはない。アル殿に敬意を払われる生き方をしたいものだ」

恐らくダリルは戦って死ぬ。少なくともその覚悟がある。

何と戦うのか、何故に戦うのかは分からないが……確実に『託宣の神子』絡み。アルはそんな不穏な影を感じ取る。

「(ラスボス……不浄の王との戦いか? 既にその存在を知った? ……いや、何となくだけど違う気がする。今更だし、当たり前のことだけど……主人公の行動もゲームとは違ってきているのということか……)」

ダリルに対しての疑問は残る。

だが、それでもアルは、気丈なセシリーが虚脱感を抱いている間に場を辞する。それがヨエル達に望まれていたというのもあるが、自分の都合もある。

エラルドに残されたメッセージ。それをさっさと受け取る。そうしないと、彼の心身への悪影響を排除できない。

……

…………

………………

ギルド。エラルドが昏々と休む寝室。

急ぎ戻ってきたアルは、特別に変わらない様子に少し安堵する。

「ヴェーラ。彼の具合は?」

「少し前……眠ったままで左眼から涙を流していました。 彼(か) の御方との繋がりのようなものが切れたようです」

女神の遣いの顕現に立ち会ったからなのか、ヴェーラには微かにエラルドの中にあるナニか感知することができた。そして、外に伸びていた糸のようなモノが少し前に切れた。恐らくラマルダを名乗る遣いが“使命”を果たした結果なのだろうと、彼女にも察せられた。

「とりあえず、後はエラルドの中に残ったモノを受け取れと言われたけど……さて、どうしたものかな? ……エラルドの中から女神の遣いの痕跡が失われれば、マナの乱調はましになるとも言われたんだけどね」

ラマルダに指示は受けたが、具体的に彼女の言う“残照”とやらを受け取る術が分からない。そのこと自体は別にアルも心配はしていないが、ただ、再びエラルドに負担をかけるようなやり方でないことを祈るのみ。

「……エラルドが目を覚ますまで待ちますか?」

アルをじっと見つめ、暗にそうしてくれというヴェーラの問い。傷付いたエラルドに無理をさせないでやって欲しいという願い。静かだが強い懇願。

「(ヴェーラは本当に良くやってくれている。彼女の中に泣いている幼子の姿を視ることもほぼなくなった。サイラスたちは彼女の献身に感謝しているが、ヴェーラこそ彼等に癒されていたんだろう。……目の前に傷付いた子供がいれば、放っておけないのも無理はない)」

アルはヴェーラの問いに無言で頷き、椅子を傍らに寄せて座る。エラルドが自然に目を覚ますまで待つ。

「……すみません。アル様。主を待たせるなど……」

「別に構わないよ。見たところエラルドは昨日よりは落ち着いている。女神の遣いとの繋がりが切れただけでも、かなり負担は減ったんだろう。僕への伝言を受け取ったら、更に調子は良くなるだろうさ。ま、何故に女神ともあろう御方がこんなやり方をしたのか……その説明もあれば良いんだけどね」

アルはどうしても女神や 御使い(メッセンジャー) に対して険が出てしまう。

元々熱心な女神信仰者でもない上、勝手に『使徒』とかいうのを押し付けられたという被害的な思いもある。遡れば、この世界に前世の記憶を持って転生したらしいこともだ。女神が関与していないとは言わせない。

ただ、今はそんな自身のことよりも、どうしてラマルダと父を助けられなかったのかという思いが、彼の中には燻ぶっている。

「(はぁ……使徒アルバートの役割ねぇ。どうぜ碌なモノじゃないだろ。

あくまで推測にしかならないけど、女神や不浄の王という神々であっても、より高次な存在からの強制力的なモノには逆らえない……つまり、このゲームベースの世界は女神たちの本意でもないってことか? ゲームに出てこなかった『使徒』やら『託宣の神子』やらはソレを覆す為の一手か? ……もしかすると、この世界自体が、今、この時代の“ゲームストーリー”を再現するために創られたとか? ……そうなるとスケールデカすぎだな)」

アルとヴェーラ。うなされているエラルド。

静かに時が過ぎる。

アルが相変わらずつらつらと考え事をしていると、不意にその時は訪れた。

エラルドが目を覚ます。

ただし、覚醒したのは真なる使徒の“残照”。

ゆっくりと身体を起こすが、どこかその動きはぎこちない。そしてその右眼はまだ虹色のまま。

「……貴方はラマルダ様の残照という存在?」

言わずもがな。明らかなこと。念の為の確認ですらないがアルは問う。そして答えが返ってくる。

『えぇ。ですが、使徒アルバートと行動を共にしていたモノとは別です。僕は元々エラルドの右眼に宿っていたモノ。使徒アルバートに役割を伝えるモノ』

穏やかでありながら、神聖で厳かなマナ。ただ、初めて彼等が顕現した時よりもかなり気配が弱い。

残照……もうエラルドの中には御使い達の影のようなモノしか残っていないのだろう。アルはそう察する。

「エラルドの身体を早く復調させてやりたいんだ。とっとと僕の役割とやらを教えて貰えませんかね?」

『……使徒アルバート。招かれた者。外の理を知る者。貴方の世界に対してのその推察は、当たらずとも遠からずというところです』

エラルドに宿るモノは語る。先程のアルの考えは正解ではないが、そう的外れではないと。

だが、言われた側のアルの心は冷え切ってしまう。そこまで壮大な話に興味はないと。女神なり不浄の王なりが苦悩するなら、勝手にやってろと思うだけ。

『……僕には使徒アルバートの考えを理解することは出来ません。外の理ではそれが自然なことなのでしょうか?』

「(いや、お前の興味なんてどうでも良いから。早く話せよ。僕の役割とやらをさぁ……ッ!)」

もはやアルは目の前の存在に対しての隔意を……明確に敵意といってもいいモノを隠さない。この存在が顕現している間、エラルドが急速に消耗しているのが分ったからだ。力無き者を援けるのは貴族に連なる者の義務。

『……そうですね。確かに使徒アルバートが正しい。時間を掛けて言葉で語るより、そのままお渡ししましょう。後は貴方が判断して下さい』

そう言い残し、エラルドに宿るモノは、ラマルダを名乗るモノと同じく呆気なく消えた。一切の気配を確認できない。

ただ、その身の内にナニかが流し込まれたのを感じた瞬間……アルの意識は途切れた。

:-:-:-:-:-:-:-: