軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 託宣の神子、真なる使徒

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「ダリル殿とセシリー殿への面会ですか?」

アルはヨエルへと声を掛ける。一応は定期的に薄く情報交換だけはしていたが、定期外で会うのは久しぶりのこと。

もっとも、ヨエル達もアダム殿下との良い繋がりを持てた為に忙しかったということもあって、アルが王家の影から距離を置こうとしていることに気付いてはいたが、そのままとなっていた。

「ええ。以前にセシリー殿から『ファルコナーの技について興味がある』と言われていましてね。すっかりそのままになっていたので……もうじき神子の二人は家督の継承破棄の為に東方へ戻るのでしょ? 戻ってきてからでは、流石に間が空きすぎるかなと……」

流石に苦しい。恐らく別の目的があるのだろうという事はヨエルにも知れた。ただ、アルは『使徒』でもある。神子関連については無下には出来ないという縛りもあった。

「……ふぅ。お二人はアダム殿下との知己を得ました。ご婚約者であるアリエル様とも。教会の修練や顔繫ぎもある為、そう時間は取れません。それでも良ければ聞くくらいはしましょう」

「いやぁ~忝い。そういうヨエル殿は好きですよ」

「……まったく戯言を。どうせ他に思惑があるのでしょう? 私はあくまでもアダム殿下の近衛候補に過ぎません。神子関連については特別に何かを指示されることは稀です。……ただ、ビクター様やクレア様は違う。彼の御方たちはアル殿が思う以上に遠くまで手が届きます。それをくれぐれもお忘れなく。……私は、アル殿のことが嫌いではありません。できるなら敵対はしたくない」

つまりは、必要とあれば敵にもなるということ。ただ、彼の言葉には願いが込められている。ヨエルがいま出せる精一杯の誠意とも言える。

「ヨエル殿。今回の件は、正直なところ僕にもどうなるかは分かりません。ですが、ちょっと神子の二人に会わないといけなくなりましてね」

「期待はしないで下さいよ?」

そう言いながらヨエルは踵を返して去る。さっそくに動いてくれそうな様子だと、アルは改めて内心で彼への謝意を表す。

「(何だかんだと言いながら、ヨエル殿は甘い。良くも悪くも。そしてその上で誠意がある。いざという時の厳しさも。……僕が都貴族の現実を知らないままであったなら、彼のような者が近衛として王家に連なる者に仕えるというのは、素晴らしいことだと感じただろうね。

……この世界のアダム殿下を知らないけど、第三王子といっても、神子と共に変事を治めるなら、ゆくゆくは至尊の冠を受け継ぐ可能性だってある。そうなればヨエル殿もそれなりの立場だ。……まぁだからと言って、腐った都貴族たちを何とか出来るとも思えない。口惜しいけど、マクブライン王国の 政(まつりごと) を司るのも都貴族たち……か)」

そして現実を思う。王国の未来。託宣にあった千年の繁栄……その“主語”は一体誰なのか。

王国とは……王家なのか、都貴族家なのか、辺境貴族家なのか、平民なのか……それとも、繁栄と言いながら、いまの状態がただただ続くだけなのか。

今のアルがそれを知ることは出来ない。

『要らぬ苦労を掛けます。元々神子たちと接触するつもりでしたが、肉体を失った以上、使徒アルバートに頼るしか術がないのです』

声……念話のようなものを受け取り、アルは意識を切り替える。

虹の瞳を持つ双子の妹。ラマルダ。

アルの傍らに居る。いまはその姿やマナの揺らぎを視ることが出来る者はほぼ居ない。そんな存在。

女神の遣い。

ヒト族側が認定した聖人や聖女などではなく、正真正銘の女神エリノーラの遣い。真の意味での『使徒』。遣われされしモノ。

便宜上アル達には双子の妹の名であるラマルダを名乗っているが、その本質は別物。当然のことながら生前のラマルダ本人ではない。

亜妖精の力を受け継ぐという双子の瞳に宿っていたモノ。女神の力と妖精の力を持つが、厳密には妖精でもない。

アルが知る由もないが、セリアンに宿り、呆気なく虚無へ還った外法の存在であるシグネと同質のモノ。その本質は意思。

もっとも、顕現したラマルダは、依り代に依存するような不完全さはなく、その纏うマナの性質もシグネとは対極であり別格の存在。ただ、この世界に干渉するためにはやはり仲介する者、依り代のようなモノが必要になるが。

そんなラマルダに対して、アルとしては忸怩たる思いもある。

あの双子に宿っていたのなら、父親や妹を助けられなかったのかと。ラマルダ曰く『それはできなかった』というが、アルのマナは少し騒ぐ。畏怖すべき存在ではあるが、僅かなささくれが残る。

「それで? 神子に会ってラマルダ様は何を為されるので?」

『……ごめんなさい。何度聞かれてもまだ答えられないの。私が女神より与えられた使命は二つ。一つ目は『神子を選ぶ』ということ。そして、二つ目は使徒アルバート。貴方に『役割を伝える』ということ』

「(……なら、その『僕の役割』というのだけでもとっとと教えて欲しいんだけどね)」

真なる使徒のラマルダ。

彼女曰く、女神エリノーラが現世に直接顕現して干渉するようなことはない。

そもそも存在の位階が違い過ぎる為、仮に女神が顕現しても、この世界に生きる者がそれを認識することは出来ない。まさに次元が違うというもの。

存在の位階がこの世界に比較的近い遣いを出したり、その遣いを通じて特定の者に“ 役割(力) ”を授けたり、何らかの啓示や託宣を示す程度にとどまる。

実のところ、高次存在であるラマルダのようなモノが遣わされる事も例外的な対応。このような事は今までにも数える程しかない。

『使徒アルバート。貴方の疑問も逸る気持ちも解りますが、順番として神子に会うことが先なのです。

ただ、一つ言わせて貰うと……エリノーラ様はこの世界に干渉することを本来は望んではいないのです。此の度の“物語”は彼の御方の望むものではなく、等存在である死を司る御方との取り決めによるもの。もっとも死を司る御方も現世を舞台とした盤上遊戯の真似事を望んでいた訳ではありませんが……

さてどうでしょう? このように伝えれば、貴方にはある程度の推察は出来るのでは?』

ラマルダは語る。

女神の基本姿勢と意図を。

アルは思う。

もしかすると、この世界の女神すらもゲーム的なモノに縛られているのではないかと。

「(“物語”ときたか……それに等存在? 女神と等しいほどの存在ということか? 死を司るとなれば……ラスボスになるのか? 不浄の王。最上級のアンデッドとゲームでは言われていたが……この世界においては神の一柱なのか?)」

『……招かれた者。使徒アルバートはやはりこの世界の外の理を知るのですね。あくまでも貴方の問いに答えるという訳ではなく……ただの独り言として、この世界の高次存在のことを語りましょう。

ヒト族が女神と 奉(たてまつ) るのは、生命のエリノーラ様。生と光を司る。そして、死と闇を司るのは冥府のザカライア様。

彼の御方たちには優劣や正邪はありません。私如きが認識することすら出来ない、より高次な存在から与えられたという、属性、性質、役割があるのみです』

もしかすると、女神と不浄の王も“ゲームストーリー”に反抗しているのではないのか。

ぼんやりとアルはそんなことを考えてしまう。

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……

…………

………………

「アル殿が?」

「ええ。お二人が東方へしばし戻られるという噂を聞き、その前に一度お会いできないかと……そのような言付けを預かりました」

律儀なヨエルは、アルからの言付けを当日の内にダリルとセシリーへ。実のところ、ヨエル自身も少し辟易していた。

ダリルとセシリー。『託宣の神子』。

二人は共に実直な性質。清々しいほどに。都貴族の相手に慣れていたヨエルには、そんな二人の立ち居振る舞いがいっそ眩しい。

そして、ダリルとセシリーは『託宣の神子』として、王国と教会のお膳立てに沿って動かされている。操り人形。ヨエルはその状況を知っている。むしろ彼自身も積極的に加担している側だ。任務として。

「(ヴェーラの事をとやかく言えないな。私もラウノほどに“徹しきれない”。まさかこの程度のことで……心を痛めるとはな)」

王家の影。

ヨエルはその一員として、幼き頃から汚れ仕事にも馴染んできた。

ヴェーラは勝手に勘違いしていたが、実のところ、ヨエルとラウノこそが本来は裏仕事を期待されていたという事情もあったりする。今は表舞台に出ている為にそうでもないが。

当然のことながら、ヨエルは都貴族の“趣味の悪さ”を知っている。そもそも彼とてアルの言う“腐った都貴族”に連なる者。実家の所業を知らない筈もない。反吐が出るような行為を実家に連なる者達がしていることは把握している。

いつの頃からか、彼はダリルとセシリーを前にすると、自らに“醜さ”を覚えるようになった。何故かは彼にも分からない。そして、役割に徹しているラウノにも、自分程ではないにせよ似たような思いがあることをヨエルは知っている。

だが、それはまだ良い。

最大の変化。

それは直接の上役であるビクターと、更にその遥か上であるクレアへの違和感。

暴力や権力への恐れではない。もちろんソレもあるが、ヨエルが感じるようになったのは、触れ得ざるモノ、自身の存在を超えたモノ、真の意味での上位者への 畏(おそ) れ。

少なくとも、『託宣の神子』と関わるまでは感じなかったモノ。

「まぁ……アル殿が会いたいと言うなら俺は構わないが……」

「そうだな。私も特に問題はない。むしろ、一度きちんと話をしてみたいとは思っていたくらいだ」

「……そうですか。では、特に予定のない日を挙げてアル殿にお伝えしておきましょう」

ヨエルは、本心では二人をアルに近付けたくはない。

アルとの関係が決裂するとすれば、そのきっかけになるのは『 託宣の神子(この二人) 』だという気がしている。むしろそれ以外にはないだろうと。

ビクターはともかくとして、クレアがアルに何らかの執着を見せているのは、接する期間がごく短いヨエルにも見て取れた。それがどうしようもなく不安を掻き立てる。

「……ところでヨエル殿。私とダリルが東方へ戻る際、ヨエル殿や聖堂騎士団の方々が同行すると聞いたのだが……それはまことであろうか?」

ヨエルの思考が中断される。セシリーの向ける真っ直ぐな瞳が堪える。

「え、ええ。私も何故かは知りませんが、聖堂騎士団と派閥の方々からも『同行するように』とお聞きしました」

「そうですか。ヨエル殿、それにラウノ殿も……貴方たちは初めから……いえ、止めておきましょう。私の思い違いです。きっと……」

セシリーには確信がある。そのことはヨエルとラウノも知っている。

いまはお互いに触れないでおこうという配慮。仮面を被った人形劇。

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……

…………

夕暮れ時。寮室へ戻る帰途。二つの影。ダリルとセシリー。

寮の棟は従者、使用人はうるさく言われないが、学院に在籍する者に関しては当然の配慮として男女で分けられている。

お互いの寮へ向かう分かれ道に差し掛かった際、ダリルがふと立ち止まる。それに合わせてセシリーも。

「……なぁ。セシリーは何をそんなに警戒している?」

「……何のことだ?」

セシリーはヨエル達をはじめ、王国や教会に対して不信がある……ということに、ダリルも流石に気付いている。

彼は昔から直感……吉凶に対しての予感のようなモノを持っており、その“予感”に引き摺られることも多い。特に凶。悪い方は確実に外さない。

今現在、ダリルは王国や教会に対しての“凶兆の予感”はない。そのことでセシリーの思う不信についても見ないフリが出来た。そう。ダリルとて感じ取ってはいたのだ。自分達を取り巻く環境の違和感を。そして、 い(・) ま(・) は(・) も(・) う(・) 違(・) う(・) 。

「馬鹿にするなよ。俺にだって今の状況がオカシイってことくらいは分かってるさ。……まぁセシリーが気付いたよりもずっと後かも知れないが……それでもだ」

決して馬鹿にしてはいなかったが、ダリルの言にセシリーが驚いたのは事実。『“凶兆の予感”なしで気付いてたのか!?』と。

「そうか。すまないな。ダリルはバ……単純だから気付いてないと思っていたよ」

「……いま明らかに馬鹿って言おうとしたよな?」

彼女の本音が少し漏れただけ。

「……まぁいい。実のところ、セシリーが警戒する原因を俺は知っている。……何でも俺たちは『託宣の神子』という奴らしい。女神様の託宣によって示された、王国に繁栄をもたらす者なんだと」

「『託宣の神子』?」

「ああ。ちなみにこの事を俺たちにバラすのもかなりヤバいことのようだ。緘口令が敷かれ、破る者には異端審問まで執り行うつもりのようだと聞いた。……流石に声まで聞こえてはいないだろうが、いまも見張られているのはセシリーだって気付いているだろう?」

無意味なことかもと知りつつ、自然と二人の声はささやくかのようになる。

ダリルは既に知っていた。自らが『託宣の神子』と呼ばれる存在であることを。もっとも、託宣の詳しい内容まではまだ聞かされてはいない上、ダリル自身にまだ実感はなく、信じ切ってまではいない。だが、一つの決意を抱いている。

「……なんだそれは? 教会や王国が私たちを囲おうとするのはその所為なのか? いや、ちょっと待て。そもそもダリルはその情報を誰から聞かされた?」

当然の疑問。セシリーは考察するよりも、まず情報の出処がハッキリさせたい。異端審問の危険があるような情報を一体誰が伝えてきたのか。

「……それは明かせない。明かさないと約束した。俺は確かに馬鹿だが、この約束を違えることはできない。もちろん、セシリーのことは信じているけどな。……悪い“予感”は無かったとだけは言っておく」

ダリルは揺らがない。

これは無理だとセシリーも悟る。

「……そうか。ダリルがそう言うならこれ以上は聞かないでおくよ。どうせいくら聞いても明かす気はないのだろう?」

「悪いな。たとえ惚れた女の頼みとは言え、こればっかりは無理だ」

「……ふん。そんな冗談が通じる年でもないぞ?」

冗談めかしているが、ダリルの眼には決意が見える。根を張った大樹の如く揺るぎない決意。

恐らく、どうあっても情報源を明かす気はない。セシリーも流石にそのくらいは分かる程度の付き合いはしてきた。隠し事は下手だが、一度決めたことは最後まで通す奴だと知っている。いや、知っていた。今日まではそう思っていた。

「……なら、その『託宣の神子』とやらのことは教えてくれるんだろうな?」

「ああ……と言いたいところだが、実のところ俺もまだ託宣とやらの内容自体は詳しく知らない。ただ、事は個人や貴族家単体の話じゃない。王国や教会の偉いさん方が仕切っている。つまり、どう足掻いても、俺たちは敷かれた道を歩くしかないって所まで来ているようだ。ヨエル殿が俺たちに張り付いているのはその一環だとさ。……アリエル様やアダム殿下も。お二人もその託宣とやらに振り回される側とも聞いた」

セシリーは若干の焦りを感じる。

いつそれを知ったのかは定かではないが、ダリルにはそんな素振りは一切無かった。普段通り。そこまで平静に自分に対して隠し事ができる奴だったのかと、彼女は狼狽する。

「ダ、ダリル。一体どうしたんだ? いや、話の内容もだが……お、お前は何故そんなに冷静でいられるんだ……?」

「……冷静じゃない。ただ、どうしようもないってのが解ってしまったんだ。

アダム殿下と知己を得るきっかけとなったアリエル様が襲われたあの一件も、白いマナを確認した廃教会の件も、ヨエル殿たちが派閥に誘ってくれたのも……そもそも、俺がアーサー家、セシリーがオルコット家に受け入れられたことも……元を辿れば『託宣の神子』とやらの絡みだったらしくてね……はは……もう何を信じれば良いのやら……」

陰を含み、自嘲気味に笑うダリル。セシリーがこれまでに見たことのない顔。

真っ直ぐな馬鹿。セシリーはそんなダリルを見てきた。いま目の前に居るのは誰だ? 知らないダリル。

「……な、なぁダリル。なら、いっそのこと二人で逃げないか? 私たちの周りが全てお膳立てされた人形劇だというなら、別の場所へ行ってさ……二人だけで、私たちの劇を新たに始めるのはどうだ……?」

セシリーとてそれが出来るとは思っていない。でも、言わなければならないと感じた。繋ぎとめておかないと消えてしまいそうな……そんなダリルが目の前に居るのだ。

「はは。良いな。そういうのも。セシリーは不満かも知れないけど、俺はセシリーと二人なら何処でだってやっていける気がする。いや、二人でやっていきたいと思う。…………でも、それは無理なんだ」

「ダリル……お前は一体何を知ったんだ? 『託宣の神子』とは何なんだ……?」

今こそセシリーは“予感”を抱いた。別離。誰と? 決まっている。ダリルとだ。そんなのは嫌だと喚きたくなる。だが、それも出来ない。決意を宿した彼の眼を見てしまったから。

「……セシリー。恐らくアル殿は『託宣の神子』に関わるナニかを知っている。教会や王国、ヨエル殿たちとも違うナニか。もはや当てにも出来ないし、吉凶がどちらに傾いているのかは分からないが、俺には強い“予感”がある。アル殿との面談が終わったら、そのときにもう一度この話をしよう。二人で。それまでは……何もなかったと振舞え。いいな?」

「……あ、あぁ。分かった……」

ダリルとセシリー。この世界の『託宣の神子』であり、ゲームの主人公たち。

王国や教会にとっては、女神の託宣という人形劇の舞台人形に過ぎない。

しかし、王国や教会は知らない。

彼等にも“意思”というものがあるということを。

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