軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 覚悟と役割

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薄暗い室内。光源の反対側は、自身の伸ばした手の先が薄っすらと分かる程度。灯りは最低限。

そんな僅かな灯りが備えられたテーブルを挟んでソファに座り、二つの影が向き合う。周囲の暗闇には幾人かが潜む気配もあるが、その姿を視ることはできない。

「……無事、使徒を通じて御使いと接触を果たしたのですね?」

「えぇ。まさかアル殿自身が『使徒』だとは思いませんでしたけどね。彼は何かを知っているだろうと思っていましたが、女神の力なんて一切感じることはなかったので。それでも、御使いを連れてきたのは間違いなくアル殿だった」

ダリル。『託宣の神子』であり主人公の一人。

「そうですか。私は御使いもそのアル殿のことも詳しくは知りませんが……“御使いから力を授かる”……という『託宣』のままに事が動いたのでしょう」

「……そろそろ教えて貰いたいですね。その託宣とやらの具体的な内容を。俺は熱心な女神信者ではないものの、それでも信仰はあります。女神エリノーラ様の啓示には従うつもりはある。ただ……王国や教会に対して『はい分かりました』と死んでやるつもりはない。ましてや、セシリーを犠牲にするなど以ての外だ……ッ!」

ダリルは知った。

自身が人形として扱われていることを。王国や教会だけじゃない。突き詰めれば女神からもだ。

彼が今まで抱いていた“予感”。それらは厳密には吉凶ではない。託宣にとっての羅針盤というだけ。ダリル自身の身の安全は考慮されていても、そこに“彼個人の望みや幸福”などは含まれない。

「……ふふ。ダリル。その思いは私も同じですよ」

神子と向かい合う影。

アリエル・ダンスタブル侯爵令嬢。

アダム殿下の婚約者。『託宣の神子』と幼き頃に知己を得た者。

そして、神子を解放する道を探す者。

彼女も知った。知っていた。『託宣の神子』の行く末を。アリエルの答えは『否』。

「それで? 神子ダリル。おぬしは御使いから何を受け取った?」

光源から離れた暗闇の中からまた別の声がする。

闇に潜む人外の化け物。

ダリルとアリエルは、それがさも当然の如く、投げ掛けられた声の方をチラリとも見ることはない。

その真の姿を視てはいけない。

「……俺じゃない。あの御使いはセシリーに宿った。俺には『今のまま力を磨け』と言っていた。あと『神子の力の均衡を図る』とも。いまはセシリーに助けが要ると判断したようだった。もっともセシリーはまるで気付かなかったけれど……」

ダリルには御使いの姿をハッキリと視ることができた。そして、彼女と念話のようなもので言葉を交わした。

結局のところ、彼女自身はセシリーの中へ消えていき、その後は一切の気配を感じることが出来なくなって……それで終わり。

ただ、間違いなくダリルは、使徒を通じて御使いと接触したということ。

「神子の力の均衡だと……くはッ! 違うな! 女神の力自体は女の方が強い。……恐らくは別の意図がある。ふん。小賢しい女神の手下が……ッ!」

怠惰のクレア。人外のエルフもどき。

闇の中にあってもその紅い瞳だけが薄っすらと浮かぶ。

その姿をダリル達は見ない。見てはいけない。いまの彼女の姿を見て無事にいられるのは“契約者”のみ。

「……クレア様。時間の制限がありますので……」

クレアの傍らに立つ、契約者のビクター。人外の従者。

「ふぅ……契約者となっても相変わらずつまらない奴だな、ビクター。まぁいい。聞け、神子ダリル。託宣そのものもだが、お前に関わるのはむしろその後だ。聞きたいところだけ教えてやる。

このままだと、貴様と女は託宣にある使命とやらを果たした後、王国や教会に飼われて無為に過ごすか始末されるのがオチだ。ふん。まぁそれらも女神と冥府の王の遊戯の対価とも言えるがな。

それを避けたければ従え。王国や教会に対して、お前らに手出しをさせないようにしてやる。

あぁ、いまのワタシには、問うな。逆らうな。見るな。悪いが神子を契約者にする訳にはいかんでな。信じなくても良いが、ワタシも神々に……『託宣』に縛られている身だ。“契約”を行使する代償としてワタシは嘘が付けん。そして、力を振るう際にも対価が必要となる故、滅多なことでは直接動くことができぬ。……ビクター。後はお前が相手をしろ」

「……はっ。承知いたしました」

その言葉と共に闇の中に潜む気配が引いていくのが分る。一つや二つではない。蠢く闇が一斉にだ。

強大な人外達の気配が失せたお陰か、灯りの届かぬ筈の暗闇ですら、その色を薄めたかのよう。そんな風にダリルは感じていた。

暗闇に残った者。去った者達の代理人。

幽暗から光源に近付いてくる足音。黒いカーテンを裂くように現れたのは初老の男。従者のビクター。その瞳は紅く妖しい。

「神子ダリル殿。アリエル・ダンスタブル侯爵令嬢。お二人には改めて伝えますが、クレア様の御言葉に嘘はない。つまり、このまま託宣の通りに事が進めば……神子は不遇のままに死ぬ。それは託宣ではなく王国と教会の意志として。

クレア様は女神たちの遊戯の対価と言われていたが、そこについては不明のままです。あれは嘘ではないがクレア様の偏見もある。あまり引き摺られぬように。

とにかく、クレア様は女神と冥府の王の思惑、託宣のままに事を進めることを是とはされない。その点においては利害の一致を見ると思いますが?」

ダリルはそもそもを知らないが、いまは普段のビクターとはまるで違う。纏う雰囲気とマナが明らかに人外のモノ。クレアの眷属としての存在。

「俺はセシリーを死なせたくはない。その為なら、クレア殿たちの言う“神々の支配からの脱却”とやらに協力はする。そちらも神子の協力が必要なんだろう?」

神子ダリル。

彼は大局の為……あるいは仲間や愛する者の為ならば、いざという時には自己犠牲を厭うことはない。ただ、他ならぬセシリーが、自分を差し置いて犠牲となることは断じて許容できない。たとえ彼女がそれを受け入れ、望んだとしてもだ。

真っ直ぐな馬鹿。彼の本質は変わらない。

「ビクター卿。私は元より覚悟の上です。セシリーを死なせない。彼女の人生を女神たちから奪い返す。そして王国の病巣……腐敗した都貴族たちも取り除いてみせる……ッ!

既に父であるダンスタブル侯爵も動いています。オルコット卿をはじめとしたいくつかの貴族家……それに東方に潜む魔族の一派からも協力は取り付けている。王国や教会が託宣を順守するのなら、その流れに沿いながら……私たちはマクブラインという膿んだ怪物に剣を刺し入れる……ッ!」

アリエル・ダンスタブル侯爵令嬢。

彼女は幼き日にその命をセシリーに救われた。それこそ神子の力によって。

はじめはただの憧れだった。神子と関われることは 誉(ほまれ) 。

しかし、時を経る度にアリエルは『託宣の神子』のことを詳しく知っていく。王国と教会の目論見を。セシリーとダリルの行く末を。

千年の繁栄? 神子に犠牲を強いて? しかも、王国は今のまま?

そんなことは許容できる筈もない。

彼女は都貴族ではあるが、貴族の本懐をその身に宿す者。王国の……都貴族の蛮行を野放しにしている“いまの在り方”を赦すことが出来ない。民の安寧を望む者。

ただし、二人のそんな様も想定通りなのか、ビクターは無感動に頷くのみ。

「……承知致しました。では、今後の事をお話しましょうか……あぁその前にダリル殿。使徒アルバートのことです。クレア様はまだ奴に多少の執着があるようですが、この先の我々の動きには重要な存在ではない。ですが念の為、神子セシリー殿の為に残しておく駒。不確定要素となるため、奴とは距離を置くように願います」

「……彼をセシリーの為に残しておくとは?」

「それらを含めて……しかとお伝えしますよ、“同志”ダリル殿」

王都の裏側。暗黒鎮静を友とするのは都貴族だけではない。そこには人外達が潜み、蠢いている。

ダリルとアリエルは、お互いが胸に抱く目的の為に、在りし日との隔絶……戻ることのできない一歩を踏み出す。

ただ、人外の化け物達も女神達の思惑や立場といった“実情”を知らない。この世界の仕組みを知った気になっているだけ。

首魁であるエルフもどきですら『託宣』の意味……その意図するモノを決定的に間違えている。

ダリルとアリエルだけではない。蠢く人外達も、所詮は箱庭の人形に過ぎないということ。

女神達は彼等の動きにすら期待している。

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……

…………

………………

「アル様。エラルドの容態は安定したようです。今はコリンとサイラスが付いてくれていますが、特に問題はない様子。……アル様のお加減はどうですか?」

「ん? ……あぁ……大丈夫だよ。少しごちゃごちゃとしたモノを流し込まれただけさ。まぁ彼等の意趣返しかもね」

エラルドに宿っていたという女神の遣いが消えた後、ナニかをその身に残されたアルは前触れもなく意識を失い倒れた。

その一連の流れを傍で見ていたヴェーラは、流石に肝を冷やして珍しくも取り乱してしまう。

ただ、アルが意識を失っていたのはほんの僅かな時間。異変を察知したコリンが部屋に駆け込んできた時には、意識自体は戻っていた。まだ朦朧としてはいたが。

「(一炊の夢か……前世のことを今の僕が見ていた夢のようだと感じることもあったな。逆に今の自分は前世の僕が見ている夢じゃないかと思うこともだ。

はぁ……この世界がどうしようもない 現実(クソ) だと知れたのは一つの区切りかな。まぁ能天気にゲーム“だけ”をなぞるような世界じゃないってのは分かっていたけどさ)」

アルは女神の遣いからメッセージを受け取った。世界の成り立ち。女神達のこの世界においての立ち位置。ゲームとの関わり。そんな諸々。

「(創世がどうだか知らないけど、少なくともこの世界はゲームストーリーありきじゃなかった。ただ、その影響は大きい。女神や冥府の王、他の神々もそれが気に入らない。

女神達もより高次な存在から押し付けられた“物語”に縛られている。ヒト族や魔族、亜人に魔物たちも……その“物語”を再現する為に、種族の特性やら思考の方向性すら弄られていたとはね。

そして女神と冥府の王はお互いに駒を持ち、物語とやらに則って現世を舞台に盤上遊戯の真似事をさせられている……まさにゲームのシナリオか。結末すらもほぼ決められているという出来レース具合なんだ、そりゃ女神や冥府の王とやらがキレるのも分かる気はするさ)」

女神達より高次な存在とやらが具体的にどういうモノかはアルには分からない。少なくとも女神の遣い程度には認識できない存在。惰弱な現世のヒト族が理解できる範疇にないのは確か。

とにかく、女神達もより高次な存在から縛りを受けているという……そんな諸々をアルは知った。

「( ゲーム(物語) 上ではモブ。それでも僕は前世の記憶を持つ自分を何処かで特別なナニかだと思っていたけど……別にそうでもないみたいだし。数撃ちゃ当たるってやり方か……なにが『使徒』だよ。所詮は使い捨ての駒の一つじゃないか)」

縛りを受けた女神達は“物語”の余白部分でしか自由に動けない。そして、直接的に“物語”をどうこうする動きもできない。神々も自由ではない。

なら、予め物語を知っている者を招けば良い。そいつらに掻き回させれば良い。この 物語(世界) 自体を。

そうして選ばれた者の一人がアル。物語においては役割がないモブ。

この世界において女神が選定した使徒。

当然のことながらアル一人の筈もない。多くの者が招かれた。時代を遡ればそれこそ数えるのが億劫になるほどにだ。

結果として、いまこの時代には、アルを含めて僅かにしか残らなかったというだけ。

辺境に招かれたある者は過酷な環境で死に、またある者は前世の記憶を成長と共に失う。異端者として裁かれたという場合も。

そもそも、アルのようにうろ覚えの者も多かったという。更には何故か魔物に転生して、辺境地でヒト族の天敵をやっている者までいるという始末。

元々役割がない者達。何も出来なくても女神は気にしない。そこまでの期待もない。

そして、教会が『託宣』の解釈や女神の力、その寵愛の有無によって認定した『使徒』と、女神が意図的に招いた、“物語”を掻き回す為の『使徒』はまた別物という紛らわしさ。

シルメスは僅かに女神の力を持つ。

まだハッキリと確認はされていないが、教会が認定する『使徒』の一人。受肉した御使い、神子の導き手などと言われる。そして僅かに“物語”にも登場する者。

一方のアルはその身に女神の力などは持たない。ただ前世……“物語”の断片的な知識を持ち、神々に属する“力”を多少認識することが出来るだけ。女神が直に招いた『使徒』。当然のことながら、“物語”に彼の役割はない。

同じ『使徒』でも両者には大きな隔たりがある。

それに、アルを含む僅かに生き残った女神由来の『 使徒(前世持ち) 』も、皆が皆、物語に関わろうとしているわけでもない。彼ら彼女らの自由意志を女神は考えてもいなかった。

所詮は高みから世界を眺める存在の思い付き。やるだけやってみるかという一手に過ぎない。

そして、冥府の王も女神と結託して似たようなことを行った。

生命のエリノーラは元々物語を知っていた者をこの世界に呼び寄せる……転生させるという方法をとり、冥府のザカライアはこの世界の 現世(うつしよ) から退場した者……“死んだ者”を呼び戻すという暴挙を採用した。神々の傲慢さ。

死から戻ってきた者。一度退場した者達には役割がないのは当然のこと。登場する筈もない。まさに余白の存在。

そんな者達に冥府の王と女神は“物語”を植え付けた。無理矢理に。

物語(未来) を知りながら、本来はソコに居ないという歪な存在を手ずからに作り出そうと考えた。

そして、その歪んだ者達から伝わったのが『託宣』の始まり。

つまり、託宣の初期は女神エリノーラが示したモノではない。

物語を植え付けられた者達の記憶の混濁と、現世に呼び戻されるという狂気の沙汰により、精神のタガが外れて発露したもの。そこには、ヒト族も魔族も亜人族も……区別はない。

黄泉から無理矢理に引き戻されるというのは、現世を生きた者が耐えられるモノではなかった。

女神と同じく、冥府の王が主体となった試みもそのほとんどが失敗し、彼ら彼女らは再び死の安寧へ還っていったという。勿論、未だに現世に留まる歪な成功例もいる。当人たちからすれば、耐え難き苦痛であり失敗ではあるが。

その者達は、死の安寧から無理矢理呼び戻されたことを嘆き、女神達への叛意と狂気をその胸に抱く。そして、未だに 仮初(かりそめ) の生者として、神々への怨嗟の声を上げながら現世を彷徨っている。

そんな謂れもあり、託宣とは元より不完全で曖昧なもの。だが、女神エリノーラは物語を掻き回す為に『女神の託宣』として、自らの属性を持つ者に向けて……この世界の者達が受け取りやすいようにと小細工を施した。追加の情報すら加えて。

ただし、そこは女神も縛られた存在。どうしても“物語”の枠を決定的に超えるナニかを示すことはできない。結局は『託宣』も“物語”に沿ったモノとなる。

「(まったく。いい迷惑だ。物語に出ていない者たちが動けば、そりゃ確かにその通りにはならないだろうさ。スケールは小さいが僕にだってちょっとは自覚もある。

でも、そもそもこの世界は現実。意思ある者たちが生きている。わざわざ女神たちがちょっかいを出さなくても、シナリオ通りにはいかなかった気もする。それこそ女神たちが望むように“物語”を自力で覆していたかも知れない。

主人公であるダリル殿やセシリー殿であっても、明らかに自身の意思で動いている。むしろ、『託宣』の所為で王国や教会がはっちゃけて、元の“物語”と同じ道を辿ってるんじゃないのか? もしかすると、ダリル殿の覚悟はそんなやり取りの中で生まれてしまったのでは?)」

アルはふと思う。

実のところ、女神や冥府の王のそんな足掻きすらもゲームストーリー……神々をも縛るという“物語”の範疇だったんじゃないかと。

そんな情報達をアルはメッセージとして淡々と受け取ったが、女神や冥府の王の所業に憤りを感じたのも事実。

圧倒的な存在から押し付けられる理不尽。アルはそんなモノに翻弄される側の視点で考えてしまう。

「(そして散々勿体ぶった使徒アルバートの役割……外の者として、この世界に介入して“物語”を掻き回せ……って言われてもね)」

アルは外の理を持つ者。その彼が物語の登場人物と接することで、女神はそこを起点として世界に介入する。余白の範疇で。それはごく僅かに影響を与えるだけ。

物語の余白。

シルメス達、フラム達、フランツ助祭達、ヴィンス達、サイラス達、ヴェーラにコリンもか。

どうしても女神が裏をかいて現世に介入するには、“物語”の流れに沿う必要がある。

アルが知り得ることではないが、今回の双子がそれに当たる。女神達の歪な導きにより変質したエピソード。

本来の物語では、双子は神子に“力”を授けるという役割があっただけ。そんなイベント。

しかし、女神はその余白部分に 使徒(アル) へのメッセージを差し込んだ。彼のことを“使える駒”だと認識した。

双子とアルに関わりを持たせる為、余白の範疇で周囲を弄る。そこにエラルドとラマルダという個人への配慮などない。

「(ラマルダとエラルドは都貴族の悪意に曝された。そんなのは元々の“物語”には無かった筈。もしかすると、アレも僕が介在した所為だった可能性すらあるけど……言い出すと切りがないな……くそ。

女神たちは物語を乱せれば満足なのかも知れないが、こっちとしては、掻き回した結果が元よりも良くなるという保証もないし、その確認もできない)」

アルは多少の苦悩を抱くが、それでも……女神達の実情を知ったとしても、彼のやる事は変わらない。

元々の自身の目的のために動く。

民衆への戦争被害の軽減。敵への嫌がらせ。

ただ、ここに来てもう一つやりたいことが増えたのも事実。

「(……腐った都貴族。物語の縛りがそれ程に強いなら、近い将来に王都を舞台に貴族家同士の争乱は起こるだろう。……いっそのこと、ソレに乗じて本気で《《間引く》》か? 腐った貴族家の情報自体は割と集まっている……)」

アルの中には仄暗い灯りが燈る。

王都においては、辺境と違い貴族は戦いではなく統治……政に特化して必要となっている。その部分をクリアできれば……いや、いざとなればソレを乗り越えてでも膿を出し切る必要があるのでは?

そんなことをアルは考えてしまう。

「……アル様。やはり体調が戻っていないのでは?」

「……おっと。ごめんよヴェーラ。少し外に漏れてたね。コリンを驚かせてしまったかも知れない」

昏い願いが溢れて漏れる。普段の彼では考えられないこと。

今は少しマナの制御が甘い。アルの中に女神の遣いが残したモノの影響。

「(女神の一突きか。 中間管理職(神々) の思惑がどうであれ、僕にとっては、この残照とやらの本命はコレだな)」

アルの中に残されたモノ。メッセージ以外。それは女神の力。

出し切れば終わり。恐らく一回限りならその力を十全に振るうことが出来る。黒いマナの浄化。“物語”には存在しない力の行使。もう既にアルの中でその使途は決まっている。

「(女神たちは気に食わないけど、使えるモノは利用させてもらうさ。これでいざという時の保険が出来た。むしろ、どうせならコッチにもっと力を割いて欲しいもんだね。

僕は貴族に連なる者。戦う者だ。物語がどうのと言われても知ったことか。そもそもちゃんと覚えてもいない。そっちは女神なり神子たちで頑張ってくれとしか言えないのは変わらないさ。僕はあくまでもこの世界の者でしかない)」

転生者。前世の記憶を持つ者。この世界の外の理を知る者。使徒。

そのどれもがアルを示すが、その全てがアルの特性に当て嵌まる訳でもない。

王国と教会は『託宣の神子』を傀儡とする。

ダリルやセシリーの意思など気にもしていない。

女神や冥府の王は“物語”の外にいる者の働きに期待する。

こちらもまた、駒の一つ一つに意思が宿ることなど考慮の埒外。

アルバート・ファルコナー男爵子息。

物語の外にある女神の駒。使徒。

ただし、彼は正真正銘この世界の貴族に連なる者。辺境の狂戦士。

女神の思惑など知ったことではない。

彼は自らの道を征く。血塗られた戦いも、悪意も、理不尽への咆哮も……それらは全てアル自身の選択によるもの。

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