軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

以外な成り行き

ロロルフたちの提案は、本当に拍子抜けなやり方だった。

まずはトールが川へ近づく。

その背後にユーリルが待機する。

ここまでは同じである。

違ったのはムーとソラの位置であった。

後方での待機はそのままだが、左右に分かれて立っている。

さらにその手には、拾った石が数個握られていた。

「――始めるぞ」

肩越しに声をかけながら、トールはちらりとユーリルへ目配せした。

いつもより五歩ほど手前に出た銀髪の美女は、優雅に首を縦に振ってみせる。

三人組の気さくな話しぶりからして、トールにはどうにも彼らが下手なウソをつくような輩には見えなかった。

だが何か思惑があって、近づいてきたのは確かである。

そのため、もしもの際は手伝ってくださいと、前もってユーリルに頼んでおいたのだ。

トントンと岸辺で足踏みすると、すぐに水面がうねり、続けざまに赤黒い塊が飛び出してきた。

トールの剣が襲いかかってきた一匹目に鋭く叩きつけられ、打ち落とされた蛙は仲間にぶつかって足止めの役を果たす。

飛び越えてきたもう一匹も叩き落として、トールはスルリと間合いを空けた。

そこへ眠りへ誘う冷気が入れ替わるように、モンスターどもを包み込む。

いっせいに動きを止めた赤毒蛙の姿に、見物客たちが歓声を上げた。

「おお、やっぱり魔技ってすげえな!」

「いいよな、魔技使い……」

「やっぱ五人目はぜったい魔技使いにしようぜ、兄貴!」

眠りこける蛙たちへ再び距離を詰めようとしたトールの視界の端に、波間から突き出した背びれが飛び込んでくる。

これまでのように邪魔が入ると思われたその時、空中を何かが横切った。

それはムーが放り投げた石であった。

魚や蛙たちとは遠く離れた水面へ、放物線を描いて飛んでいく。

そのまま小さな水柱を上げる寸前、石は横から猛烈な勢いで飛んできた水塊にぶつかって吹き飛んだ。

同時に水弾を撃ち終えたモンスターも、水中へ身を踊らせる。

だが魚は鱗から血のように赤い水を滴らせながら、またも空中に跳び上がった。

尖った口先から放たれた水弾が向かう先は、ソラが続いて投げた石だ。

左と右に離れた二人が交互に投げる石へ、魚は何度も飛び上がっては水弾をぶつけていく。

これがロロルフたちが持ちかけてきたやり方であった。

実は血吹き魚には水面上を動くものなら何でも攻撃を仕掛ける習性があり、知っていれば簡単に注意をそらすことができるというわけだ。

赤毒蛙どもを助けるのも、蛙たちが水中に引きずり込んだ獲物を横取りするためらしく、自分で捕れる対象がいればそっちのけで水弾を撃ち続けるらしい。

身動ぎしない蛙たちを、トールは切れ味を最大限にした刃で切り刻んでいく。

一切りで両断されるモンスターの姿に、観客たちはまたも沸き立った。

しかし四匹目の赤毒蛙を仕留めようとした瞬間、不意に魚の動きが変わった。

空中でその身が急激に捻られる。

もとより二方向から石を投げていたのは、こまめに向きを変えさせることで血吹き魚の的を絞らせないためであった。

だが楽しすぎると、我を忘れるのが子どもの習性である。

夢中になったムーが、うっかり連続で石を投げてしまったのだ。

一つ目の投石を撃ち落とした魚は、すぐ近くに飛来するもう一つに気づき空中で体の向きを変えながら水弾を続けざまに放った。

二発目の水弾は石を砕き、最後の一発が子どもへと向かう。

「――ソラ!」

「まっかせて!」

「 氷(つらら) 、 滑(すべ) せ――<氷床>」

トールの呼びかけに、二人の声が重なり魔力がほとばしる。

いきなり減速した水の塊は、ムーにわずかに届かず河原に着弾する。

間近でもろに水飛沫をあびた子どもは、びっくりした顔になってコロンとひっくり返った。

同時に川でも大きな変化が起こっていた。

ムーの様子を見届けたトールは、視線を前に戻して思わず動きを止めた。

そして目の前の水面も、また動きを止めていた。

まるでそこだけ時間の流れから切り取られたかのごとく、波の動きや飛沫さえもが凍りついたように止まっている。

いや、実際に凍りついていた。

赤黒い川面を留めていたのは、その表層を覆い尽くす氷であった。

その正体がユーリルの放った<氷床>の効果だと、一呼吸遅れてトールの脳が認識する。

本来の<氷床>は地面を軽く凍えさせ、足元を不安定にさせるだけの魔技である。

だがユーリルのそれは、そんな認識を吹き飛ばすほどの威力で川一面を凍りつかせていた。

そこへ空を舞っていた血吹き魚が落ちてくる。

張られた氷に無様に激突したモンスターは、間抜けな音を立てて横転した。

そのまま凍った水面を滑走した魚は、なぜかトールのすぐ前までやってくる。

勢いのまま岸へ打ち上げられた魚は、眠ったままだった最後の蛙にぶつかった。

目を覚まして鳴き声を上げかけたその顔面へ、トールは無情に刃を振り下ろす。

ついでに口をパクパクさせる魚のエラに剣尖を差し込み、そのまま反対側まで貫いた。

モンスターをすべて仕留めきったトールは、小さく息を吐きながら川面へ視線を戻した。

すでに氷はバラバラに砕けて、何事もなかったように流れに飲まれていく。

振り向くと、銀髪の美女の口元にはいつもの笑みが浮かんでいた。

トールの視線に気づいたユーリルは、小首をかしげながら可愛らしく片目を閉じてみせる。

「やりすぎちゃったかしら?」

「ええ、少しばかり。いや、ありがとうございます。助かりました」

そこへむさ苦しい男どもが、大声を発して駆け寄ってきた。

「おおお! あんなの初めて見たぜ!」

「なんだ、今の? 川が凍ったのか?」

「す、すげえ! ユーリルさん、まじすげえ!」

照れくさそうにはにかむ女性を、取り囲んだ三人は口々に褒め称える。

「いや、本気で驚いた。氷の魔技ってもっと地味だとばっかり思ってたぜ」

「俺もびっくりしたぜ。さすが美人は出来が違うな」

「なあ、これなら任せても大丈夫かもな、兄貴」

「なにが大丈夫なんだ?」

「なにって、ほら――」

そこで会話に混じってきたのがトールだと気づいたのか、三人は話を止めていっせいに向き直る。

「簡単だとは聞いていたが、危険だとも言ってなかったな」

「うん? ここいらじゃあの程度は、危ないうちに入んねえぞ」

「おい!」

次男の受け答えに怒気をあらわにしたのは、長男のロロルフであった。

いきなり、その横っ面を殴りつける。

「すまなかった。こちらの説明不足だったな。その子を怖い目に遭わせたのは俺の落ち度だ。許してほしい」

三人組のリーダーとして、パーティメンバーが怪我を負う辛さと責任を重々に理解しているのだろう。

もっとも謝罪された肝心のムーは水を浴びたのが面白かったのか、トールに抱きついてクスクスと笑いながら濡れた髪をこすりつけていた。

あまりに素直なその態度に逆に引っかかりを覚えたトールは、薄々感じていた疑問を口に出す。

「……何か理由があって、俺たちを試したのか?」

「ああ、ちょっと確かめたくてな。凄まじい剣の使い手に、不思議な魔技を使う美少女。おまけに小さな子どもを連れ歩いている。本当に噂通りだな」

「え、美少女ってわたし? えー、照れるなー」

「いや、最初はてっきりそっちの美人さんだと思ってたけどな」

「うん、俺もすごい可愛いって聞いてたから、ちょっとイメージ違うなって」

「うう、期待にそえるよう、もっとがんばります」

「いやいや! お嬢ちゃんも今でも十分に可愛いぜ。胸はっていい」

「そろそろ、話を戻してくれるか?」

トールの呼びかけに、ロロルフは急いで真面目な顔に戻る。

それから静かに問いを発した。

「あんた"泥漁り"って、呼ばれてないか?」

一月ほど前の懐かしい呼び名に、トールは少しだけ眉を寄せた。

「ああ、そうだ。それは俺のあだ名だな」

あっさり認めた返答に、男たちは慌ただしく視線を交わした。

そして唐突に互いの拳をぶつけあうと、歓喜の声を口々に上げる。

何事かと驚くトールたちに、三人組はいきなり深々と頭を下げた。

「頼む、俺たちを助けてくれ! あんたのその泥退治の腕をぜひ貸してほしいんだ」