軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

川の裏事情

紫眼族の男はロロルフと名乗った。

赤鉄級の戦士で、年齢は二十六歳。得意武器は片手斧二刀流。

三人兄弟の長男なので、責任感が強く頼れる男だ。

次男の名はニニラス。

同じく赤鉄級の戦士で、歳は二つ下。分厚く重い両手斧を愛用している。

さっぱりした性格だが、やる時はやれる男だ。

三男はググタフ。

またも赤鉄級の戦士で、歳も同じく二つ違い。自慢の得物は両手槍。

気が利かない兄たちと違い、気遣いのできる男だ。

なぜトールたちが男どもの個人情報に詳しくなったかというと、彼らがちゃっかり休憩のお茶会に参加してきたからである。

性格などに関しては、全て本人談だ。

「それで?」

「うん? なにが?」

「いや、お前らなにしに来たんだ?」

地面に座り込んでカップを口に運ぶ間、ソラとユーリルからいっさい視線を離そうとしない三人に、トールは呆れた口調で問いかけた。

ソラたちが椅子を譲ろうとしたのだが、ここで結構と言い張って河原に腰を下ろしてしまったのだ。

それもどうやら遠慮からではなく、低い位置からのほうが女性の姿がよく見えるという理由であったようだ。

三人とも身長はトールよりも頭一つ大きく、かなりの巨漢である。

琥珀色の髪に、目尻の下がった濃い紫色の瞳。

上の二人は顎が割れていかつい感じがあるが、三男だけ細身でスマートな顔立ちをしている。

ただ、もてない雰囲気のようなものは三人とも一緒であった。

数日、風呂に入ってないようで、まばらな無精髭とすえた体臭もそれに拍車をかけている。

「なにって……。なぁ?」

「なんだっけ? 美人を眺めてると、どうでも良くなってくるな」

「さすがにそりゃ不味いぜ、兄貴。ほら、あれかどうか調べるって話じゃなかったっけ?」

「おう、そうだったな。あんたら、ここ初めてだろ。ちょっとした助言が入り用じゃないかと思ってな。ほら、あれだ。隣人のよしみってやつだよ」

お気に入りの自分のカップを使われたムーに、じっと見つめられた長男がわざとらしい手振りで慌てて釈明した。

「結構、この狩り場は長いのか?」

「もう二年近いな。毎日毎日、川ばっかりでウンザリしてるぜ」

「隣って言ってたが、来る途中では見かけなかったな」

「ああ、俺たちはもうちょっと下流でやってんだよ。ここよりも河原が広くていいぜ」

「もしかして獲物も多いのか?」

トールの言葉に、三人は顔を見合わせると乾いた笑いを漏らした。

「はは、下流なんてどこも似たようなもんだぜ。蛙と魚しか居ねえよ」

「……上流に行かない理由はなんだ?」

今の狩り場に満足していない様子からして、移動しないのは相応な訳があるはずだ。

だが二年近い経験があるなら、白硬級への昇格もそう遠いとは思えない。

上流の狩場へ行ける条件は満たしているのではとのトールの問いに、ロロルフは大げさに肩をすくめてみせた。

「行かないじゃなくて、行けないんだよ。…………金がない」

「どういうことだ?」

「そのままさ。上流の狩り場へ行くには、糞高い口利き代がいるんだよ」

「詳しく聞かせてくれるか?」

大きく頷いた三人が、それぞれ補いながら説明してくれた内容は以下の感じだった。

まず下流には、赤毒蛙や血吹き魚なんかの旨味の少ないモンスターしか発生しない。

さらに雨が降ると、最悪な奴まで現れるらしい。

だが上流には暴れ河馬や赤殻大蟹などの、素材とスキルポイントの美味しいモンスターが溢れている。

出張所からちょっと上がった場所に流木や石が積み上がった天然の堰があり、そこで流れが弱まるせいか河馬や蟹は下流へは滅多に現れないそうだ。

仮に現れたとしても、当然ながら上流に近い狩り場で仕留められてしまい、こんな場所まで流れてこない。

だがそれでは下流狩り場の冒険者たちは、Dランクへの昇格条件である暴れ河馬の複数討伐はほぼクリア不可能となってしまう。

そのためにあるのが解放日だ。

これは月に二度ほど暴れ河馬を数匹だけ下流へ追いやる日のことで、この時は特別に戦闘を許可された採石河原で激しい取り合いが起こる。

それに何度か勝てば、昇格間際のパーティと認められて、上流狩り場へ行くことが許されるという仕組みだ。

ではモンスターの取り合いが下手なパーティはどうするかというと、ある程度のまとまった金を渡すことで上流狩り場の利用許可が下りるらしい。

だが赤毒蛙の討伐報酬は銅貨五十枚。

毒まみれの外皮も五十枚で買い取ってくれるが、取り扱いが面倒なうえ、持ち込むための袋が毎回、駄目になるのでほとんどは捨てるそうだ。

血吹き魚は素材も含めると大銅貨三枚だが、こっちは飛び道具でもなければ倒すのが非常に面倒な相手である。

下流での金稼ぎは、かなり厳しい現状らしい。

「そういうことか」

「ああ、俺たちは直にぶん殴るのは得意なんだが、遠くから狙われたら間に合わねえ」

「それに取り合いってのは、どうも殺伐しすぎて性に合わねえしな」

筋骨隆々の体つきに似合わない発言をした男どもは、しおらしく首をうなだれてしまった。

その様子を心配したのか、ユーリルが一声掛ける。

「あらあら。お茶のおかわりはいかがですか?」

「ありがとうございます!」

「これすげえ美味いですね」

「いただきます! 美しい方が多いと、緊張して喉がカラカラになりますよ」

「あら、お上手だこと」

調子のいいことを言い出した三男が、兄たちに後頭部を激しくどつかれた。

目を丸くしたムーも、なぜか近寄ってペチンと叩いている。

一瞬で元気になった三人へ、トールは肝心な点を尋ねた。

「で、一応確認しておくか。その仕切ってる連中ってのは――」

「ああ、出張所の奴らだ」

「やはりそうか」

胡散臭い笑みを終始浮かべていた受付係の顔を思い出して、トールは静かに首を振った。

深く考えるまでもなく、冒険者ではそんな規模で狩り場を管理するなど不可能である。

「えー、冒険者局の人がわるいことしてるんですか?」

「いや、悪いってか、誰かが仕切らねえと殺し合いまでなっちゃうからな、俺ら。あと現場のさいりょー権とかなんとかって、難しいこといってたな」

「でも、お金取ったりするのは……」

「だよな! 俺らもそこらは納得いかなくてな」

「でも本局に訴えても、ぜんぜん取り合ってもらえなくてさ」

「稼いだ金で、治安課にも手を回しているんだろうな」

トールに言い切られて、三人は再び黙り込んでしまった。

話に飽きた子どもが膝の上にのってきて鎖骨を甘噛みし始めたので、トールは続きを促す。

「それで?」

「うん? なにが?」

「いや、それをずっと我慢してきたのか?」

「ま、そういわれても仕方ないな。だが、俺たちを甘く見てもらっちゃ困るぜ」

「ああ、あれが出来上がったら、あいつら全員半泣きになるのは間違いなしだな」

「兄貴、だからそれまだ早いって!」

「おっと、そうだった。今のは忘れてくれ。で、代わりにちょっとしたコツを教えるので勘弁してくれないか」

歯を見せてニッコリ笑ってみせる三兄弟。

怪しさは全く薄れていないが、どうにも憎めない連中である。

「あんたら蛙を叩こうとしたら、魚に邪魔されて困ったりしてないか?」

「おじゃまじゃまー!」

「はい、何回も逃げられてたいへんでした」

「あれの簡単な対策があるんだよ、お嬢ちゃん」

「ホントですか? あ、ちょっとまってください。えーと、もっとこっち側に引っ張るとかどうですか?」

すぐに頼りにせず、ソラは一生懸命に考えていた案を披露する。

川岸から離れれば魚に見つかりにくく、水弾も届きにくい。

蛙たちも逃げにくくなるはずだ。

「残念ながらそれは無理だな。あの蛙ども、あんまり川から離れねぇんだよ」

「そっかー。うーん、降参です」

「じゃあ、俺の言う通りやってみっか? 簡単すぎてきっと驚くぜ」

そう言いながら三人組は、またも人懐っこい笑みを浮かべた。