軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狩り場にかける希望

軽く荷物をまとめたトールたちは、下流へと向かうことにした。

行き先はロロルフたちのキャンプ場である。

「まあ、一度見てくれたほうが話は早い。よかったら一緒に来てくれないか?」

「おう、歓迎するぜ。うちに客なんて久々だな」

「こんな可愛い子と美人さんを連れて帰ったら、あいつら絶対に驚くよな、兄貴」

そんな感じで押し切られてしまい、同行する流れとなったのだ。

むろん、トールもその言葉をまるごと信じたわけではない。

しかし彼らの情報が有益だった事実もあるし、何よりスライム退治が必要という状況に興味が湧いたのもあった。

他の三人に尋ねてみたところ、ユーリルは人助けは大事だと頷き、ソラも興味津々な様子で同意し、ムーに至っては――。

「なー、トーちゃん」

「どうした?」

「ムーは今日たいへんがんばったから、おはな丸にのってもいいぞって、いわない?」

「一日、二時間までって約束しただろ」

「えー! ムーすごくがんばったのに」

「わがままいっちゃダメだよ、ムーちゃん」

「ええー! じゃあソラがおんぶして!」

「ほら、トーちゃんが抱っこしてやる」

跳びついてきた子どもを抱きかかると、機嫌を直したムーはそのままよじ登ってトールの肩にまたがる。

一行が出発した時、すでに日はかなり傾き始めていた。

目的地は無人の小さな河原を二度通り過ぎ、四十分ほど歩いた場所であった。

大きく曲がる川の内側に、訓練場ほどの河原が広がっている。

ただかなりの曲がり具合のため、結構近くまで寄らないと全体が見通せない地形である。

「うわー、広いね、トールちゃん」

「あら……、着きました……?」

「大丈夫ですか? あと少しですよ」

ソラの無邪気な称賛に対し、少し肩で息をし始めていたユーリルが反応する。

疲れ切った顔を上げた女性はなかなかの絶景に感心したのか、つないでいたトールの手に力を込めた。

まっさきに目に入ってくるのは、広々とした河原と土手の境目に並ぶ天幕だった。

しっかりとした木組みで作られているのか、かなり立派な出来栄えである。

トールたちの布を渡しただけのとは大違いだ。

さらに目を引くのは、その横にある 竈(かまど) らしき存在であった。

不思議なことに周りには吸精草が生い茂る土手や草地しかないはずであるが、その石を積み上げて作ったらしき竈からはもくもくと黒い煙が立ち昇っていた。

疑問が顔に出たことに気づいたのか、振り返ってトールたちの様子をうかがっていたロロルフがあっさり種明かしをしてくれる。

「ここいらは意外と流木が多くてな。晩飯の仕度くらいなら、不自由はしない程度に拾えるぜ」

立ち止まって河原を眺めていると、トールの肩の上で器用に寝こけていたムーが目を覚ました。

可愛く伸びをしながらキョロキョロと周りを見ていた子どもは、トールの顔にペタペタさわりながら川の方向を指さす。

「トーちゃん、あれなんだー?」

つられて視線を向けたトールは、言葉を詰まらせた。

ソラも気づいたのか、びっくりした声を上げる。

「なにあれ! 石つんでるの?」

「どうだ、驚いたろ?」

「あそこまでするの、まじ苦労したよな、兄貴」

「へっへ。あれこそが俺たちの苦労の結晶ってやつさ」

それは石を無造作に積み上げて作られた小山であった。

大きさはゆうに、トールどころか大柄な紫眼族の戦士たちも超えている。

だがもっとも注目すべき点はそこではない。

問題は石山の位置と数だった。

まず石の山が突き出していたのは川の中である。

しかも等間隔に、かなりの数が並んでいた。

それは遠目には、作りかけの橋脚のようにも見えた。

「驚いたな。あれってもしかすると……」

「ああ、向こう岸に渡る橋だよ。あーだこーだ言われるのは、あくまでこっち側の岸の話だからな」

「そうそう。あっち側なら、文句のつけようもないはずだろ」

「どこの河原も選び放題ってやつさ」

「そういうことか。……よく続けてこれたな」

モンスターが溢れかえる川での作業だ。

その苦労は並大抵のものではなかっただろう。

「ま、何度か挫けそうにもなったが、こいつらがいたしな」

「ふ、褒めすぎるなよ。照れるぜ、兄貴」

「これが俺たちの団結ってやつですよ、ユーリルさん」

わざとらしく鼻の頭をこすってみせる三人に、ムーが陽気に話しかけた。

「なーなー、あの石ぜんぶつんだのか?」

「そうだぜ、見直したか? チビちゃん」

「やるなー。ムーも石つみとくいだけど、ちょっと負けてるかもなー」

「そっかそっか。チビちゃんも得意か」

「でも石あてなら、ムーのほうがうまいかも」

「うん? 石あて?」

「つんでから石あててたおすと、すっごいたのしいぞ。あれ、いつたおすんだ?」

「倒さねえよ! おっそろしいこと言い出すな」

「じゃあ、ムーがやっていいのか?!」

「やらせねえよ!」

トールの背中から飛び下りたムーが河原を走り出すと、三人組が大慌てで追いかける。

すぐに捕まったムーは、大きな男たちに吊り下げられてクスクスと笑いだした。

両手を左右から引っ張ってもらい、体を前後に振って揺れる感触を心から楽しんでいる。

「……とんだやんちゃ坊主だな、こいつ」

「遊んでくれて助かる。それで俺が呼ばれた理由ってのは、あれ絡みか?」

「ああ、その前に紹介しておくか。こっちだ」

子供をぶら下げたままロロルフたちが向かったのは、土手沿いのテントだった。

ズカズカと近づいた長男が、大声を張り上げる。

「おーい、いるか?」

「お、もしかしてお客さん?」

石造りの竈の背後から顔を出したのは、頭部に角がある茶角族の男だった。

ボサボサの前髪のせいで、目元が隠れて表情がよく読み取れない。

だがはっきりしない顔立ちに比べ、その体つきは明らかに一目で分かるほどの主張があった。

身長はさほど高くはないが、その横幅はかなりのものだ。

腕も足も首も太い。

赤みを帯びた金属製の鎧をまとっているが、今にもはち切れそうな重みのある印象を与えてくる。

「こいつはディアルゴ。うちの自慢の盾士様だ」

「よろしくお願いしますね。あ、何度か顔合わせてますよね?」

「えっ、そうなのか?」

「小鬼の森でよくお見かけしましたよ。うん、ダダン出身の冒険者はたいてい知ってると思うよ」

「あんた結構、有名人だったんだな。俺たち移籍組だから、ちょっとそこら辺うとくてな」

「気にするな。悪評ばっかりだ」

「あの腕前でか? 見る目がねえな、ここの連中は。あれ、タパとタリは?」

「たぶん、休憩中だよ。昼から見てないし」

「また、サボってんのか。ニニ、ググ頼む」

「はいよ」

「らいらい!」

なぜか兄弟に混じってムーも元気よく返事する。

三人がかりでズルズルとテントから引っ張り出されてきたのは、なかば眠ったままの翠羽族の男二人だった。

彼らもやや肉付きのいい体型だが、こっちは目が細く鼻も低いので覚えやすい顔立ちである。

そして二人とも、顔形や服装までそっくり同じであった。

理由は直ぐに判明する。

「こいつらは双子なんだよ。俺たちとは別で、二人きりでパーティやってる」

「……タパです」

「……タリです」

その紹介の仕方にやや不自然さを感じながら、トールたちも挨拶を済ませる。

「今、ここにいるのはこんだけだな。前は槌使いのおっさんもいたが、裏切ってちょっと上流のパーティにできた空きに入っちまってな」

「そうか。色々とあるんだな」

「じゃあ、あの橋について説明しようと思うが、その前に他言無用と誓ってくれるか?」

急に重々しい口ぶりになったロロルフだが、そこへ竈を覗き込んでいたディアルゴがのん気に口を挟んでくる。

「あの……、その前にごはんにしない? 鍋がいい感じで煮えてるよ」