軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再挑戦の開始

二日後、色々と準備を整えたり、ちょっとした取引を済ませたトールたちは、Aランクパーティ"白金の焔"が所有する飛竜艇置き場へと向かった。

ガルウドが御者を務める馬車は、十分足らずで目的地に到着する。

「じゃあ、五日後に」

「ああ、気をつけろよ」

短い挨拶を済ませたガルウドは、鞭を鳴らして戻っていった。

現在、ベッティーナたちの獣鬼の岩屋砦探索に、サラリサも強引に組み込まれてしまい、その送り迎えに忙しいようだ。

ユーリルとソラに手を貸して、ムーを頭にひっつけたまま厩舎へ足を運ぶ。

朝早いというのに、すでに他の参加者は集まっているようだった。

「また会えたな、友よ!」

黒いぴったりとした鱗鎧をまとったストラッチアは、白い歯を眩しく輝かせて挨拶してくる。

朝の日差しに浮かび上がるスラリとした長身は、否が応でも人の目を集めてしまう。

さっそく反応したムーが、ずりずりとトールの体を伝って地面に下りると、真っ直ぐに黒鎧の剣士へ駆け寄る。

赤毛の美形を見上げた子どもは、嬉しそうに声を上げた。

「にーちゃん、もしかしてかぶと虫すきか?」

「おや、小さな淑女の登場か。ふむ、かぶと虫? 寡聞にして知らないが、それはどのようなものだ?」

「くろくてまるくて、あと、つのでさす!」

「ほほう、中々に胸躍る強敵だな。是非に手合わせしたいものだ」

「ムーのはつよいからなー。そうかんたんにひっくりかえらないぞ」

ペチペチと馴れ馴れしく太腿を叩いてくるムーに、ストラッチアは楽しそうに目を光らせる。

放っておくと延々と勘違いしたまま話を続けそうなので、割り込んで残りの二人を紹介する。

「ソラは前にも会ったことがあるな」

「はい、今日はよろしくおねがいしますねー」

「こちらはユーリルさん。失礼のないようにな」

「お美しいご婦人方だな、兄弟子よ。我はストラッチアと申します。どうぞ、お見知りおきを」

「はじめまして、ストラッチア様……。なんとも言い難いお名前ですね。 ストラ(氷を) ッチア(溶かす者) とは」

氷神ストラージンに仕える身としては、あまり好ましくない命名なのだろう。

ユーリルの指摘に、砂漠の国の王子は静かに唇の端を持ち上げてみせた。

今回の探索にストラッチアを呼んだのは、その前衛としての性能を買ったためである。

基本的に蟻どもは数で押し寄せてくる。

そのため前に出て引き付ける盾の役割が、どうしても必然になると判断したのだ。

それに理由はもう一つあり、蟻の巣の制覇には紅尾族のどちらかを必ず同行させるようサッコウから言われていた。

ニネッサの火力も惜しいが、今回はユーリルが居てくれるので、消去法で剣士が選ばれたというわけだ。

そして、今日はもう一人にも声をかけていた。

「おはようございます、皆さん」

すっかり小生意気な口調が消えてしまった蒼鱗族の少女は、優雅にトールへ頭を下げてみせた。

こちらも陽光に青く透ける黒髪と、小奇麗に整った顔立ち。

それに華奢な体つきと相まって、中々に見目麗しい容姿である。

少しまぶたが腫れぼったいのは、前回の探索が無念に終わった悔し涙を堪えきれなかった名残だろう。

顔を上げたラムメルラは後ろのユーリルとソラへわずかに目を見開いたあと、戸惑った顔で足元のムーを見つめた。

「どうして、ここに子どもが居るのかしら……。迷子?」

「ムーをあなどるおろかものがまたひとり。てい!」

「痛っ! 何するのよ、この子!」

「もう、ムーちゃん、ダメでしょ!」

いきなり服の上から臀部を叩かれたラムメルラが、驚いた声を張り上げる。

そして叩いた方のムーも、目をパチクリさせて感想を漏らした。

「ねーちゃんのおしり、しろいパンみたいにフカフカだぞ!」

「あ、こら、揉むな!」

「やわらかくて、おいしそうだな!」

「それ気にしてるの。言わないで!」

またたく間に仲良くなった二人の様子に、トールは何も言わず頷いた。

ラムメルラに同行を頼んだ大きな理由は三つ。

一つ目は、階層移動の際に発生する状態の異常をまとめて治せる点だ。

<対象分散>を持たないトールが同様のことをすれば、<復元>の使用可能回数を半分近く使い切ってしまう。

それに移動中の体力の補填や、いざという時の怪我への対処なども見逃せない。

二つ目は、地図いらずな点だ。

あの複雑な構造の蟻の巣を、事細かに把握している案内人を外すわけにはいかない。

それに今回、トールが考えている作戦には、その地形を把握しきった記憶は特に重要であった。

そして三つ目は――。

まともにムーの相手をすることを早々に諦めたラムメルラは、トールに近づいてくると耳元に口を寄せて声を潜めた。

「先日のお話、本当に……本当なのですか? こんな幼い子どもまで連れてきて」

「ああ、任せてくれ。それにムーは今回の探索には必須だからな」

「そうなのですか? 信じられませんが……」

腕を突っ張ってムーの頭を懸命に押さえながら、ラムメルラは不安を隠しきれない口ぶりで呟き返した。

そんな少女とは裏腹に、今度は待ちきれないと言った顔のストラッチアが近寄ってきて何かを差し出す。

「旅立つ前にこれを受け取ってくれ、兄弟子よ」

ストラッチアが手渡してきたのは、刃渡りが伸ばした指先から肘までありそうな剣鉈だった。

尖端が幅広で、細くなりながら途中で目立つ湾曲をしている。

鞘から抜いて振ってみると、重心が前にあるのでかなり刃先の動きが速い。

しかしもっとも注目すべきは、その刃が陽光さえも吸い込みそうなくらい黒々としていた点であった。

「うわ、真っ黒だね!」

「変わった材質のようですね。黒鋼でもないような……」

「これは腐屍龍の牙ですよ。いいのか? 高いんだろ」

「先日の詫びと我が武具の礼だ。使ってくれると有り難い」

「そうか。では遠慮なく」

先日の詫びとは、トールが時間稼ぎのために黒女王蟻へ立ち向かった際に、愛用の剣の尖端が砕けてしまった件である。

そして武具の礼とは、<復元>が再び使えるようになったので、ストラッチアの刃こぼれした剣や引き裂かれた鎧を直してやった件だ。

素直に剣鉈を受け取ったトールは、腰帯に吊るしておいた。

揃った一行が厩舎へ向かうと、ちょうど扉が開放されたところであった。

大きく開かれた両扉の奥から、のっそりと飛竜が巨体が姿を現す。

その偉容に、初めて間近で見る三人が口々に声を上げた。

「なんだこれ、トーちゃん!」

「うっわー! ほ、ほんとに竜なんだね!」

「驚きました。私も乗るのは初めてなので、ドキドキしてますね」

そっと手を握ってくるユーリルへ、トールは経験者として少しだけ自慢げに頷いてみせた。