軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな力

トールがまず行ったのは、とりあえず<復元>のレベルを4にまで下げてみることであった。

<時列知覚>を失ったせいで、たちまち薄ぼんやりとなった技能樹を眺めながら、懐かしい気持ちで性能を確かめる。

使用可能回数やスキルの対象などを感覚的に掴んで、いつものような文字列で現してみる。

<復元>――戦闘に関わった対象物を、過去の状態に戻す。

レベル:4/使用可能回数:一時間二回/発動:瞬/効果:十秒/範囲:接触。

「だいたいこんな感じだが、ほぼ一緒だな。大きな違いは対象物が対象体になっているところか」

「あれ、<復元>の使用可能回数って二回だったっけ?」

「それは<回数増加>の影響みたいだな。元が一回でも、増やしてくれるのか」

「それは凄いですね」

ユーリルが驚いたように耳先をピッと持ち上げて会話に参加してくる。

使用できる回数がほとんど増加しない上枝魔技と合わせると、かなりの効果を発揮してくれる特性には魔技使いとして心惹かれるのだろう。

「あ、トールちゃん。スキルポイントが戻ってるんだったら、その<遡行>ってののレベル上げてみたらどうかな?」

「そうしたいのは山々なんだが、結果が予想通りじゃなかったら取り返しがつかないからな」

現状、レベル10の<復元>とその枝果特性<時列知覚>の組み合わせがあってこそ、自在に枝スキルを操ることができている。

<遡行>を育てきった先で同様の結果が確定しているなら、考えることもなくポイントを注ぎ込めるのだが――。

「わざわざ違う枝スキルなんだ。育て上げても、<復元>とは違ってくる可能性はあり得る。それにそもそも、この<遡行>が十段階まであると言い切れんしな」

「そっかー、そっくりだけど全部、同じとは限らないんだねぇ」

「では、違いを確かめるために、その差異をもう少し詳しく調べてみてはどうでしょうか? 性能がより分かれば、要所での使い分けも滑らかになりますよ」

もっともなユーリルの指摘に、トールは改めて両方の異なる部分を比べる。

まず対象が物から体になっている箇所だが、これは命を持つ存在とそれ以外と捉えるべきだろう。

ここで注意すべき部分は、生命を持つ者が全て対象に含まれている点である。

モンスターだけの場合は変異体と記され、人間だけなら保有者や対象者と記述されるからだ。

「かなりの傷でも、一瞬なら何とかなるのか。しかし、モンスターの傷まで治せるのはよく分からんな」

「私は、この効果時間の差が気になりますね」

「うん、なんでこんなに短いんだろうね?」

「多分だが、下枝スキルだからじゃないか? それに<復元>と違って、怪我を治せるのは大きいしな」

そう答えながら、トールは困惑した気持ちになる。

明らかに<遡行>は下の位置から枝を伸ばしていたが、そのレベルを上げるのに必要なポイントの数は<復元>と全く同じであった。

もしかしたら単純に、上下的な位置付けではないのかもしれない。

一通りの意見が出てたところで、膝の上に座ったままだった子どもが大きく手を広げて伸びをした。

「トーちゃん、むずかしいおはなしおわったのか?」

「ああ、済まんな。よし、まずは一回、試すとするか」

使える回数が二度までだったので、先に色々と考えておきたかったのだが、勿体ぶっても時間が無駄になるだけだ。

これ以上は、実際に使って確かめていった方が早いだろう。

部屋から持ってきてた解体用のナイフを手にしたトールは、おもむろに自分の腕に刃を当てた。

皆が見守る中、すっと下に引いて血の筋を作る。

――<遡行>。

「うん?」

「えっ!」

「あら?」

次の瞬間、傷は跡形もなく消えていた。

だが三人が思わず声を上げたのは、その点ではなかった。

問題はトールの腕の位置だ。

ナイフを引いたはずの手が、いつの間にか元の場所、刃を立てた位置まで戻っていたのだ。

「あれ、なんか目がおかしくなった感じがするよ」

「私もです。傷も消えてますが、その……トールさんの手が……」

この距離で動くものがあれば、トールが見逃すはずもない。

それに自分の腕なのだ。

何らかの力がかかったとすれば、それくらいは感知できるはずである。

しかし何も感じ取れなかった。

気がつくと傷は消え、ナイフを持った手は最初の位置まで動いていた。

この現象から導き出せる結論は一つ。

<遡行>とは、対象の存在を一秒前に戻してしまう魔技であると。

その行動なども全て引っくるめて――。

恐ろしいほどの効果に唖然としかけたトールだが、ふと思いついて退屈そうに口を大きく開けていたムーに話しかけた。

「そういえば、ムーはトーちゃんに何か隠し事してないか?」

「むぅ、なにもかくしてないぞ」

「そうか? そういや何でシーツを洗ったんだっけ」

「ム、ムーはむじつだぞ。あ、あれはクロとシマのはんこーだぞ!」

「本当か?」

問い詰めるようなトールの眼差しに、向かいの椅子で毛づくろい中だった二匹の猫は抗議の鳴き声を上げてみせる。

そして肝心のムーはプイと横を向くと、わざとらしく頬をふくらませた。

「トーちゃんが、ムーをおいてったのがわるいんでしょ!」

「そうか、寂しかったのか。それは悪かったな。でも、人や猫のせいにするのはダメだぞ」

「…………うん」

「ほら」

「ごめんなさい」

素直に謝った子どもに、黒猫と縞猫は小さく喉を鳴らして応えた。

「じゃあ、嘘をついた罰だな」

そう言いながらトールは、子どもの頬を指で挟んで左右に大きく引っ張った。

びっくりしたムーが目を見開いた瞬間、その行為を巻き戻してなかったことにする。

「いたっ……あれ? いたくないぞ、トーちゃん!」

「お、成功だな」

「すごい、もっとやってやって!」

背を反って後頭部をグリグリと押し付けてくる子どもに唇の端を持ち上げながら、トールは今の結果を考える。

<遡行>によりトールの体は一秒前へと戻り、ムーの頬を引っ張った行為は消えた。

同時に引っ張られたムーの頬からも、痛みは消えている。

つまり、トールが及ぼした効果自体も消え去ったということだ。

これをモンスターに置き換えてみれば――。

深々と息を吐いたトールは、少しばかり疲れがこもった声で呟いた。

「……ったく、<復元>よりもこっちを先に寄越してくれよ、神様」