軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狩りの精算

その後の狩りは順調に進んだ。

トールが前に出てゴブリンどもの注意を十分に引きつけ、合図があればソラがこっそり加勢する。

ここで特筆すべきなのは、ソラの<反転>があまりにも目立たないという点であった。

通常、魔技によって火球などを撃ち出したり雷を派手に帯びたりすれば、使用者はかなり注目を集めてしまう。

それによって勝負が確実に決まればいいのだが、そうでない場合、モンスターの敵意が集中することで魔技使いが先に倒れてしまうこともよくあった。

その辺りの敵対心をひきつけない立ち回りで、使い手の技量が問われたりもする。

しかし<反転>の場合は効果が高威力なわりに、ほぼ目を引かないというのが大きい。

仕掛けられた側が何をされたか分からないので、使用者が特定されにくいのだ。

それに氷の槍や矢を放てば、飛んできた方向で居場所が気づかれてしまう。

だが攻撃の威力を本人に返すだけの<反転>には、そういった危険性も皆無であった。

そんなわけで、とくに危ない場面もなく、二人はサクサクとモンスターを仕留めていく。

結局、なかなかの遭遇率もあって、夕方までにゴブリンの群れをそれなりに倒すことができた。

さらに林道に戻ってからも角モグラと森スライム、各一匹ずつ仕留める順当ぶりである。

そして夕闇が押しせまる頃、狩りを終えたトールとソラは街の外門へ戻ってきた。

「よう、おっさん、今日は早かったな。そろそろ泥集めに飽きて引退す――」

「こんばんは、門の見張りごくろうさまです」

夕刻の当番は、昨日と同じ面子だったようだ。

相変わらず片手を懐に入れっぱなしの若い門衛がトールに軽口を叩こうとして、その隣に並ぶ美少女に気づきギョッと紫色の眼を見開く。

「お、おっさん、なんだよ、その可愛い子! あ、たまたま、そこでたまたま一緒になったって話か。ったく、驚かせるなよ」

「いつもトールちゃんがお世話になってます」

「はぁぁぁ?!」

「街に入る時は、冒険者札を見やすいようにするだけでいいぞ」

「こう?」

「ああ、それでいい」

軽く頭を下げながら、ソラは首元に下げていた緑に縁取りされたプレートを門衛の二人に仰々しく持ち上げてみせる。

そのぎこちない動作には、新人冒険者特有の初々しさが溢れていた。

唖然とする二人をよそに、トールとソラは仲よさげな雰囲気のまま門を通り抜ける。

雑踏に紛れる寸前、片手を上げてみせた中年とその横に寄り添う少女の後ろ姿を見送った若い門衛は、呆けた顔のまま呟いた。

「……なんだよ、あれ。めっちゃ可愛いじゃねーか。おいおい、おっさんのくせにモテてんじゃねーぞ。クソクソクソ!」

正直すぎる感想を口にしながら、若者――カルルス――は同意を求めるべく相方に視線を移し、その強張った表情に気づく。

「どうしたんだよ? 固まっちまって」

「……い、いや、なんでもない」

「そうかよ。しっかし、ありえねぇな。どうかしてるぜ」

いつまでも愚痴を吐き続ける若者をよそに、初老の門衛は唇をきつく噛んだまま夕暮れに照らされる人の波を見つめていた。

広場の人混みをすり抜けたトールたちは、冒険者局の前で二手に分かれた。

獲物を腰帯に吊るしたトールは買い取り所へ向かい、ソラは討伐部位が入った革袋を手に査定窓口へ並ぶ。

いつもより少し早い時刻のせいか、受付に並ぶ列は短めであった。

置き去りにされたような不安を懸命に隠しながら、ソラは何気ない顔で列の最後尾におさまる。

数歩も進まないうちに、ソラの後ろに若い冒険者の一団が並んだ。

男三人と女一人のグループは、興奮気味に騒がしく語ってる。

どうやら話の内容は、今日の戦いの成果のようだ。

ゴブリンども相手に一歩も引かず、かなりの乱戦を経て勝利したらしい。

「あそこはマジ、ヤバかったよな。オレ、もうダメかと思ったぜ」

「うんうん、お前が囲まれた時は、あ、こいつおわったなって」

「それ、ひどくね?」

「調子にノって、前ですぎなんだよ。俺が突っ込まなかったらマジに死んでたぞ」

「うん、あの時のシサン、すごくカッコよかったよ!」

ご機嫌に喋る若者たちの話に、ついソラは聞き入ってしまう。

村では子どもが少なかったため、少女にとって同年代の会話はとても新鮮であった。

半身になって耳を傾けるソラの姿に気づいた一人が、驚いた顔で仲間に耳打ちする。

「なっ、なっ! 前の子、めちゃくちゃかわいくない?」

「えっ、どこどこ?」

「…………おう、ヤベェな」

話のトーンが急に変わったことを不思議に思ったソラは、うっかり振り向いて自分がマジマジと見られていることに気づく。

盗み聞きしていたのをごまかすためにソラが愛想笑いを浮かべると、三人の男はいっせいに息を呑んだ。

女のほうは露骨に顔をしかめる。

「こんばんは、かってにお話聞いててごめんなさい」

「えっ、ああ、イイよイイよ。これの声がデカいのが悪い」

「お前だって、かわんねーよ!」

「なんか、大変だったみたいですね」

「いやー、それほどでもないかな」

「そうそう、オレたちこう見えても、マジけっこう長く冒険者やってっし」

「へえー! わたしは今日が初めてなんですよー」

感心するソラの言葉に、男どもは物凄い速さで視線を交わす。

それはゴブリンに追いつめられた時よりも、明らかに数段速かった。

「ど、どう、よかったら俺たちのパーティ、一人空きがあるんだけど?」

「ゴブリン退治なら、マジおまかせって感じだし超オススメだぜ!」

「え、いきなり、なに誘ってんのよ?」

「いいからいいから、ちょっと黙っといて。今、すごく大事なトコなんだよ」

勝手に盛り上がる若者たちだが、そこに誰かが不意に割り込んでくる。

「まだ終わってなかったのか?」

「あ、おかえり、トールちゃん」

「おい、なに横入りしてんだよ、おっさん!」

トールの呼びかけにソラが返事をしたのを見たはずだが、若者たちの脳内でそれは綺麗にカットされていた。

殺気走る三人を前に、トールは無表情のまま返事をする。

「悪いな、連れなんだ」

「ハァ?!」

「あ、わたしトールちゃんのパーティなので、その、ごめんなさい!」

「…………へ?」

言葉を失って固まる三人。

そこにソラの受付の順番が回ってくる。

「こんばんは、よろしくお願いします!」

「いらっしゃいませ。あら、ソラさん、今日はどうでした?」

くしくも窓口に座っていたのは、ソラの冒険者登録をしてくれたエンナであった。

温かい笑みを浮かべる受付嬢に、少女は嬉しそうに報告する。

「はじめてのことばかりで、すっごくおもしろかったです」

「あら、それは良いことでしたね」

たいていの新人冒険者の初日は、気疲れと体力の限界からヘロヘロになってしまうものだ。

もしくは怪我を負って、落ち込んでしまうパターンも多々ある。

しかし少女の表情から窺うに、疲れは見えるものの本気で冒険者稼業を楽しんできたようだ。

評判に聞いていたトールの見事な引率ぶりに、エンナは内心で舌を巻いた。

「これ、今日の成果です!」

少女はいそいそと袋から細巻き貝や尖った角、真っ赤な冠羽を取り出す。

そしてソラが緑色の耳をカウンターに広げだした時点で、エンナはさらに驚いた。

いくらなんでも冒険初日の素人を、小鬼狩りへ連れていくのは正気の沙汰ではない。

Eランク以上の付き添いがあれば危険は少ないと思えるが、トールはいまだにGランクの冒険者である。

だがソラの様子に、不自然に思える点はなにもなかった。

ごく当たり前に、狩りをこなしてきたかのような雰囲気だ。

そうなると考えられるのは、ソラの持つ<反転>の魔技が異常に優秀だということだろうか。

「あのー、これで全部ですけど……」

「はい、拝見しますね」

考えにふけっていたエンナは、少女の呼びかけに慌てて討伐部位に手を伸ばした。

切り取られた緑色の耳はまだ生乾きでかなりグロテスクであったが、恐れる風もなく慣れた手付きで確認を済ませる。

スラスラと計算を終えた受付嬢は、声に感嘆の響きをにじませた。

「はい、まずは森スライム二匹に角モグラ五匹、尖りくちばし一羽の討伐、それと粘液六本ですね」

「ほら、やっぱり、泥漁りじゃない」

背後で馬鹿にしたような声を上げたのは、若者たちに一人だけ混じっていた女であった。

ショックを受けたまま放心している仲間に、言い聞かせているようだ。

だが続く言葉を聞いて、女も同じく声を失った。

「次いでゴブリンですが、計二十一匹の討伐と魔石十七個の買い取りとなります。お間違えなければ、どうぞお受け取りください」

ソラは会計皿に載せられた硬貨の山を、瞳を見開いて見つめる。

その後ろでは、男たちが同じように目玉をひんむいていた。

「わわ、トールちゃん。こんな大金見たの、わたし初めてだよ」

「よし、帰るか」

そっけなく硬貨をしまったトールは、受付嬢に軽く頭を下げる。

その意味をそれとなく察したエンナは、今日の件については自分の胸に留めておこうと決めた。

とはいえ、数字に細かい上司のシエッカは、数日で見つけてしまうと思うが。

「あの、さっきは誘っていただいてうれしかったです。一緒のパーティはムリですけど、おたがいがんばりましょうね!」

ニッコリと微笑むソラの言葉に、後ろに並んでいた三人の男はぎこちなく頷き、女は顔を赤くして視線をそらした。

その後、珍しくとても静かな四人組が差し出したゴブリンの耳五つに、受付嬢はまたも事情を察したが、今日は何も言わず査定を済ませることにした。

広場を再び横切りながら、トールは今日の収支をザッと計算する。

まず支出だが、ソラの冒険者登録料で大銅貨一枚。

それと冒険者局で購入した若樫の杖が大銅貨二枚。

ローブと胸当ては借り物で、革手袋や背負い袋、水筒はトールのお古なので無料と。

合計、大銅貨三枚だ。

収入はまず討伐料だが、角モグラと尖りくちばしは一体銅貨十枚、森スライムは銅貨二枚となる。

ちなみにスキルポイントはそれぞれ一点である。

ゴブリンは討伐料が一匹銅貨二十枚、スキルポイントは二点。

しめて銅貨四百八十四枚だ。それとソラが稼げたポイントは二十三点となる。

そして素材の買い取りであるが、モグラと鳥は肉以外を買い取ってもらったので銅貨七枚。

スライムの体液で銅貨三十枚。

さらに魔石。最下級の石とはいえ、買取は銅貨十枚なので計百七十枚。

すべて合わせて銅貨六百九十一枚。いつものトールの収入の七倍近い金額だ。

そこから使った分を引いた今日のトールたちの現金収入は、差し引きで銅貨三百九十一枚だった。

さらに細巻き貝十二個と、モンスターの肉まである。

「トールちゃん、お肉もらってきたの?」

「ああ、尖りくちばしのもも肉はかなり美味いぞ。明日の弁当に焼いてもらうか?」

「ホント! すっごく楽しみだよー」

はしゃぎながら歩いていたソラが、急に立ち止まって空をポカンと見上げた。

「うわわ、トールちゃん、アレなんか光ってるよ!」

「魔石灯だ。今日、ゴブリンから出てきたやつ覚えてるか?」

「あのへんな石?」

「あれをギュッと押すと光るんだとさ」

「へー!」

トールもあまり詳しくはないが、魔石は特殊な角度で圧力をかけると発光する性質があり、それを応用したのが魔石灯である。

十等級の魔石なら、あまり明るくはないが一晩は余裕で持つらしい。

広場を柔らかく照らす光を、田舎育ちの少女は感嘆の眼差しで見上げる。

「この街はおもしろいこと、いっぱいだねー」

「ふっ、そうかもな」

無邪気に楽しむソラの姿に、トールは唇の端をこっそりと持ち上げた。