軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

軽い挨拶

「――というわけで、わたしが皆さんを引き取ったBランク錬金術師のカレンです。よろしくね!」

「ハイッ! 質問があります!」

元気よく手を挙げたのはミヒャエル・ベル。

ベル子爵家に捨てられた魔力無しの子――オティーリエの弟である。

カレンは今、エーレルト領の領都のエーレルト伯爵邸の別邸にて、引き取った彼と似た境遇の子どもたちの前に立っていた。

カレンの領地であるヒンメル領の領都の屋敷が完成するまで、この別邸を丸ごと借り受けられることになったのだ。

しかも、領都のヒンメル男爵邸の建築を指揮してくれているのはエーレルト伯爵家である。

現在、カレンはエーレルトに全面的におんぶにだっこの状態だった。

「何かな? ミヒャエル」

「ハラルド先生から、カレンさまはぼくたちを錬金術師として育てようとしてるって聞いたのですが、ムリじゃないですか??」

「ミヒャエル、カレン様に対して口が過ぎるわ」

「でもぉ、おね……おに……おねぇさま……?」

「あなたって子は、いつ慣れるのかしら」

ぽかんとしてしまったミヒャエルを見下ろし、オティーリエは頭痛をこらえるような顔をする。

ミヒャエルはいまだに騎士装束に身を包むオティーリエを見るたび混乱していた。

よほど姉の男装姿は衝撃的であるらしい。

「まあまあ、オティーリエ様、ごく普通の質問ですからお気になさらず」

「カレン様がそうおっしゃるのでしたら、控えますわ」

そう言う口調は柔らかいが、動作はカレンもよく知るエーレルトの騎士らしく機敏で颯爽としたものだった。

先日、狩猟祭での活躍の報酬として騎士に任じられたオティーリエは、今やカレンに仕える騎士ではあるが、エーレルト騎士団の訓練に参加してもいるらしい。

親に捨てられてしまった弟と共にあるために。

平民出身のカレンを相手に、侮ることも腐ることもなく、仕えることを選んだのだった。

「さて、ミヒャエルと同じような疑問を、他の子も持っていそうだね?」

カレンがそう問いかければ、誰もが口を噤んだまま伏した目で視線を交わす。

自分たちの生殺与奪権を握るカレンに不用意なことを言えば何をされるかわからない。

子どもたちが警戒するのは当然のことだった。

ミヒャエルには姉がいてくれるから言えるところがあるのだろう。

だから、カレンは子どもたちの言葉を特に待たずに続けた。

「みんなもすでに知っての通り、わたしの弟子のハラルドが そう(・・) だったんだ」

皆まで言わずとも、その場の子どもたちは誰もがごくりと息を飲んだ。

「当初、ハラルドの魔力量はFランク以下――なのに錬金術師になれた。わたしの教えでね。しかも、わたし以外にはSランク錬金術師でさえ作れなかったポーションを作れるようにまでなってしまったの。夢があるよねえ。だから二匹目のドジョウを狙うことにした」

「ドジョ?」

「つまり、二人目の錬金術師の育成を狙ってるってこと」

カレンはあえて軽い口調で言うと、二人目の質問者が出て来た。

「僕も質問してよろしいでしょうか?」

「何かな? えーと」

「マルクです。カレン、さま」

ミヒャエルと同年代くらいの少年。特に後ろ盾を持たない平民の子だ。

にもかかわらず、マルクはたどたどしくも割合しっかりとした声で名乗ると質問した。

「どうしてもっと魔力のある人を弟子にしないんですか? ハラルド先生が 成れた(・・・) ことは知ってます。でも、魔力量が多い人の方がより簡単なのではありませんか?」

カレンは目を丸くしてハラルドを見やった。

「どこまで説明してるの?」

「僕が元は魔力量がFランク以下であること。カレン様と出会ったことで錬金術師になれたこと。カレン様に従えば私のようになれる可能性があること――それぐらいです」

ハラルドは、カレンに教われば魔力が少なくても錬金術師になれるかもしれない、という説明はしているが、それがどうしてなのかを説明していないらしい。

カレンはうなずいてマルクに向き直った。

「なら、いい質問だね。それはね、わたしが作らせたいポーションの素材が無魔力素材だからなんだよ。無魔力素材は、魔力がない、という状態を『理解』できている人の方が扱いやすいとわたしは考えてるんだ。つまり、君たちみたいな魔力が少ない人の方がね」

「……理解、ですか」

マルクはカレンの説明をどこまで『理解』できたのか。

噛みしめるように言うと、うつむいて沈黙した。

それ以降は、質問者は出てこなかった。

他の子たちはマルクよりずっと臆病で、その表情は無表情に近く、何を思っているのかもわからない。

負の感情を持っていても、カレンにぶつけようと考えるほど無謀な子はここにはいなかった。

テレサのような子は珍しい存在なのだ。

ほとんどの子は、怯えていた。

そんな子たちにどんな言葉をかけるべきか、しばらく迷った後カレンは言った。

「……とはいえ、みんなが錬金術師になれるなんて思ってないよ。ミヒャエルの言う通り、無理があるのはわかってるからね」

はっ、とまたあちこちから息を呑む音が聞こえた。

「そんなことよりわたしね……忙しすぎて全然商品が作れないの! だからね、あなたたちにはわたしの商品作りを手伝ってもらう。むしろ、そっちの方が本命だからね!」

カレンがそう言うと、なーんだ、と言わんばかりにその場の空気が弛緩していく。

漂うのはどちらかというと、安堵の空気だ。

カレンの考えは当たっていたらしい。

つまり、この場にいる子の多くは錬金術師になりたいという気持ちはそれほど大きくない。

無理難題を押しつけられるのではないか、という不安の方が大きかったのだ。

そうなるよねえ、とカレンも内心苦笑して、改めて強調した。

「あなたたちの中から錬金術師になれる子が出てきたら嬉しいけど、あんまり期待はしてないよ。仕事をしてくれればいいから、そのつもりでね!」

カレンが求めるのが魔力のない子どもにでもできる仕事となれば、多くの子どもたちにとってはこれまでいた場所でやってきたことと大差ないだろう。

孤児院では子どもたちが将来仕事につけるよう、様々な手仕事をさせるものだ。

安堵と――諦めにも似た脱力感が漂う中で、一人だけ挙動不審な子がいた。

ミヒャエルである。

「ど、どうしようぼくっ、働いたことないんだけど!?」

オティーリエは注意したそうな目でミヒャエルを睨んでいる。

だが、動揺するミヒャエルはそれに気づく様子がない――が、隣にいたマルクが先にオティーリエの眼差しに気づいてビクッとした。

マルクがミヒャエルの脇腹をつついてやると、姉の眼差しに気づいたミヒャエルは座ったまま跳び上がった。

そして激しい身ぶりで姉に向かって許しを乞いはじめる。

無言なのに、あまりにも動作がうるさい。

オティーリエは遠い目をした。

カレンは一連の流れを見て吹き出した。

ミヒャエルを前にしたオティーリエの表情は、好感を持つに十分すぎるくらい豊かだった。

カレンはミヒャエルの大きな独り言は聞こえなかったふりをして、全体に向けて言う。

「仕事は、少しずつできるようになってくれたらいいからね」

必要最低限のことは伝えた。

カレンは緊張で石のように固まっている子どもたちのために、とっとと部屋を出ていった。

オティーリエもそれに続いた。

後に残るのは監督役のハラルドと子どもたちである。

カレンの足音が遠ざかると、子どもたちは緊張の糸が切れたようにざわめきだした。