軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最速の救助2

「はあ?」

顔を歪めたリヒトは剣呑な目つきでカレンを睨んで抗議する。

「カレン、魔物はダンジョンの深層から溢れ出してきてはいない。ということは、ユリウスはまだ魔物をせき止められている――だけど倒しきれていないってことは、まずいって意味なんだよ!!」

「腹が減ってはいくさはできません」

「道中歩きながら食べればいいだろうが……! 君は馬車で食べていればいい!!」

「急いては事をし損じますよ」

カレンは飄々と言いながら、手早く竈の用意をはじめる。

それを見下ろし、リヒトはぎりぎりと歯を食いしばった。

「君はユリウスがどうなってもいいというのか……!? 俺は! ユリウスが生きているうちに辿り着きたいんだ!!」

「リヒト様お一人で先行すれば早いと思いますが、わたしを待ってくれるんですね?」

「君を置いてはいけないんだ」

リヒトはぶるぶると震えるほど激高しながらも、カレンの問いに答えた。

「ユリウスと約束したんだ。――君を守ると」

「ユリウス様と約束したからわたしを守ってくださるし、わたしの邪魔をしないとも約束したから、わたしを無理やり引っぱってもいかないでくれるんですね。本当に、あなたはユリウス様に対して誠実ですね」

「俺を試しているのか? 俺が君を試したから!? こんな時だってのに――こんな時だからか!?」

オリハルコンの錬金釜にタルの水を注ぎ始めたカレンを見て、リヒトが頭をかきむしる。

「君を試して悪かった!! 謝るから、だから、ユリウスの命を天秤にかけるな!!」

「『早く進めるようになる』ポーションを作ります」

カレンは竈に錬金釜を置きながら言う。

リヒトはハッと息を呑んだ。

「……そんなポーションがあるのか?」

「作ります」

「君なら、できるのか……」

ふっ、とリヒトの表情から険が取れる。

ダンジョンに入って以来、まだ数日とはいえ、カレンはどんな食材からでもポーションを作ってきた。

その時々に持ち込まれる食材に応じた効能で、既存のポーションの枠にはまらないポーションの数々。

少し前は、前もって手間暇をかけて作ったミソや醤油なんかの加工食品を加えないとポーションにならなかった食材が、最近はポーションになりはじめた。

きっと、カレンがまた何かを理解したのだ。

だが、それが何なのかはまだわからない。

だから階梯は昇れないが――ポーションは作れる。

どんな効果のポーションでも作れるかもしれない。

リヒトも、カレンがこれまでに果たしてきた成果を見て、『作れるのかもしれない』と思ってくれたのだろう。

カレンは馬車に積んだ食材をいくつか拝借した。

ジャガイモ、ニンジン、持ち込んだタマネギ。

カレンはこれぞスタンダードなカレーの食材だと思っている。

そこに厚切りのベーコンを加え、美味しくも一番食べ慣れた味のカレーを作るために、カレンは食材を切って錬金釜に放り込んでいく。

食材を茹でたあと、火から下ろした錬金釜にカレンがカレールーを入れるのを見て、リヒトが眉をひそめる。

「……なあ。それ、万能薬じゃないのか?」

「この万能薬はこれ自体が調味料でもあるんですよ」

カレンは煙に巻くような答えを返して調理を続ける。

リヒトは自分の、カレンと同じ虫眼鏡型の鑑定鏡を取り出して錬金釜を覗き込んで怒鳴った。

「これ、万能薬でしかないぞ!?」

「ここからですよ。でもとりあえず、味見をしてみてくれます?」

「味なんかどうでもいいってのに……!」

リヒトは苛々としながら言いつつも、カレンから少量のカレーを盛った小皿を受け取って口を付ける。

これほど苛立っていてもカレンの言葉を聞き入れてくれる。

見た目とは裏腹に、頼まれると断れないタイプなのだろう。

そしてユリウスは、彼になら頼み事ができるのだ。

カレンはじっとリヒトを観察していた。

リヒトは一口カレーを食べ、何事かを乱暴に吐き捨てようとして――ふと、何かに気づいたように目を瞠った。

「あ――」

「落ち着きましたか?」

カレンの問いに、リヒトは驚いたように目を瞠る。

その瞳を曇らせていた感情が消え、リヒトはカレンを茫然と見下ろした。

「……どうして俺は、これほどまでに恐れていたんだ?」

リヒトの険しかった表情が和らぎ、声もしっかりと落ち着いた響きをたたえている。

どうやらリヒトは、『恐怖』の感情に支配されていたらしい。

そう言われてみれば、先程五階層に逃げようとした騎士や、他の騎士たちの表情も恐怖に彩られているように見えた。

ゴットフリートなどほとんど凶相を浮かべていて、恐ろしく近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、あれは人を殺したくてたまらないわけではなく恐怖に駆られているらしい。

困惑するリヒトの姿に、カレンは仮説が当たっていたのを悟った。

「万能薬――あらゆる状態異常を治す魔法の薬を飲んでその動揺が治まったなら、その動揺は状態異常だったのかもしれませんね」

「俺たちはまさか……精神干渉を受けていたのか?」

リヒトは愕然とした面持ちになる。

「魔物には遭遇していない。だが、いたのか。気配も感じなかった……何らかの魔法をかけられたことにも気づけなかった。この俺がだ。――下層の魔物が溢れてきている? それとも、魔物が弱すぎて気配を感じ取れなかったのか。後者だと思いたいが……」

もし下層の強い魔物が溢れているのだとすれば、それはユリウスが魔物を抑え込み切れなかったことを意味する。

頭を抱えるリヒトに、カレンは冷静に自分の考えを伝えた。

「魔物が弱すぎる、の方だと思いますよ」

「何だって?」

「このダンジョンは元々、この洞穴で精神に異常を来すように作られているように感じます」

「異常を来すように作られている? どうして君にそれがわかる?」

そうであってほしいと心から祈る目をして、リヒトはカレンの答えを待って瞳を揺らしていた。