軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

友人紹介

「ユリウス! そして、Bランク錬金術師のカレン殿」

声をかけてきたのは見知らぬ青年貴族だった。

だが、先程見かけたような気もした。

よく見れば、カレンの作った固形万能薬についてヘルフリートに質問を投げていた人だった。

カレンは背筋を伸ばした。

Bランク錬金術師になり、カレンはある程度貴族と対等に対話できる権利を得た。

だが、カレンが対等な対応をして許されるのは中級貴族の者たちまで。

下級貴族であっても爵位持ちの領主や、その後継者。

領地は持たずとも爵位持ちの中級貴族やその後継者が相手の時には態度に気をつけるようにと、アリーセが付けてくれたマナー講師から注意を受けている。

中級貴族の次男以降――伯爵家の令嬢ぐらいなら、ある程度の無礼は許容される。

だがもしも上級貴族相手なら、カレンは立ち居振る舞いに十分注意しなければならない。

白茶色の髪を肩まで伸ばした笑顔の男は、カレンに視線を定めて大きな口でにこやかに笑った。

ユリウスと知り合いらしいところを見ると、先程の質問は――。

「先程は君のポーションに無礼な質問をしてしまい申し訳ない。万能薬というものは稀少すぎて、必要とする者以外にとってはどのような魔法薬なのか知らない者も多いのだ。防具に加工できる毛皮や、武具に加工できる爪や牙、ウロコなんかの素材ならともかくね」

青年はヘルフリートの方を見やった。

見れば、褒賞の側にいるヘルフリートの周囲には大勢の人が群がっている。

「俺の質問が呼び水となって、エーレルト伯爵に質問が殺到しているよ。万能薬がどういうものなのかきちんと理解すれば、三位の褒賞にすら皆が目の色を変えるだろう。伯爵がBランク冒険者と君の関係を示唆されたし、元より万能薬の価値を知る者たちにも、おかしな真似はされにくくなったろう」

そう言って、彼はカレンにウィンクした。

やはり、あの質問は仕込みだったらしい。

そう言われてカレンが周囲を見渡してみれば、カレンの様子を窺う貴族の姿がいくつかあった。

ユリウス関連の嫉妬の眼差しに紛れていて気づかなかったが、カレンの作る万能薬の価値を知っていてカレンを注視している貴族もいたのだろう。

「狩猟祭の賑わいに紛れて錬金術師が一人いなくなっても誰も気にしないだろう、などという、馬鹿な考えを起こす者がいないとも限らないからね」

そう言って、ほんの一瞬表情を翳らせたがすぐにその陰はなりを潜めた。

「それにしてもお初にお目にかかるね、カレン殿。ユリウスが中々会わせてくれないものでさ!」

明るく言って、彼はカレンの手を取って口づけようとした。

その手をユリウスがバシッと音がするくらい強く振り払って、カレンは面食らった。

ユリウスはカレンと彼の間に割り込んで言った。

「カレンに挨拶したいというから許したが、軽薄な態度はやめるように言ったはずだが? リヒト」

「女性に対するただの挨拶だぞ、ユリウス。これはマナーだ」

「たとえマナーだとしても不快なものは不快だ」

「不快は酷くないか??」

ユリウスがこれほど気安く言葉を交わしている人を見たことがない。

ぽかんとしていたカレンに、リヒトが水を向けてくる。

「君だって女性になら誰にでも口づけをもって挨拶する貴族が自分にだけ挨拶をしないとなれば、嫌な気持ちになるだろう?」

「はあ……それは確かに」

それは感じの悪い態度だな、とカレンがうなずいていると、ユリウスが頭を抱えていた。

「カレン、この男の軽さに惑わされないでくれ」

「軽いとは失礼な。運命の女性を探すためにもこれはと思う女性と出会えた時には相手のことを知ろうと努めているだけさ」

「カレンは君の運命ではない」

「わかってるって~! ユリウスってば、顔が恐いぜ」

風船のように軽い雰囲気で指摘するリヒトに、ユリウスが顔を手で覆い隠して深い溜め息を吐く。

「このような男だからね……カレンには会わせたくなかったんだ」

「だけど、俺はユリウスの唯一無二の親友だからな! 結婚するとなったら会わせないとな」

「親友かどうかはともかく、いずれは紹介しないといけないと思っていたのは事実だな」

「ともかくって寂しい言い草だな!」

「ユリウス様のご友人なんですね!」

カレンが目を輝かせて言うと、リヒトはにやりと笑った。

「改めて紹介をさせてくれ。ユリウスの親友、リヒト・ゼンケル。よろしくな、カレン殿」

「ゼンケル伯爵家の次期当主でダンジョンを擁する領地持ちだよ、カレン」

カレンはまだ貴族を名前だけでは判別できないので、ユリウスが教えてくれる。

「小領地だけどな」

「小領地?」

「擁するダンジョンを十階層までしか攻略していない場合、その影響力が及ぶ範囲は少ないため、結果的に小さな領土を統べることとなる。そのため、十階層までしかないダンジョンを擁する領地を小領地と言うのだよ」

つまりは、慎重に対応しなければならない身分の相手だ。

だが、その相手は口づけの代わりに友好的に手を差し出してくれている。

そんなリヒトをユリウスが不服そうな面持ちをしつつも見守っているのだから、ユリウスを信じるカレンが怯む理由はない。

カレンは笑顔でその手を握り返した。

「Bランク錬金術師のカレンです。殿と付けていただく必要はありません。カレンって呼んでください!」

「おおっ、いいのかい! だったら俺のことはリヒトって呼んでくれ!」

「はい、リヒト様!」

「呼び捨て構わないぜ、カレン。ユリウスの婚約者なら、君は俺の親友も同然だ」

「おい、リヒト――」

「ユリウスってば、睨むなって!」

ユリウスの肩に腕を回してリヒトが笑う。

げんなりした顔をしているユリウスとふざけあうリヒトを見て、カレンは眩しさを覚えて目を瞬いた。

こんな表情のユリウスははじめて見る。

きっと、心から信頼できる人物なのだろう。

ユリウスは、そんな人物にカレンを紹介してくれた。

ずっと隠してきた弱みをカレンに見せてくれたし、以前よりずっと素直に気持ちを表現してくれる。

意に沿わぬ形で貴族にさせられたユリウスは、生きるため、幼い頃から貴族らしい貴族であろうと気を張り続けてきた。

そんなユリウスが命を守るために続けてきた慣習を捨てることもできた。

品行方正にお行儀良くハンカチを受け取らなかった結果、睨まれるのはカレンだったけれども。

何はともあれ、カレンとユリウスの距離はぐっと近づいた。

新年祭の婚約に向けて、これ以上なく心が通っているのを感じる。

ひとつひとつ問題が解決していき、順風満帆な未来に向かって進んでいるのだと実感して、カレンは微笑んだ。

そんなカレンに気づくと、リヒトはユリウスにヘッドロックをかけられながら目を細めた。

「ユリウスのこと、頼んだぜ――イテテテテテ」

「君に言われる筋合いはない。そろそろ行くぞ」

「何もこんな狩猟祭開始ギリギリに会わせなくてもいいのになぁ。カレンともっと話してみたかったよ、俺は」

「だ・か・ら、この時を選んだのだ」

とても気安い付き合いらしい。

ユリウスに痛めつけられてもめげずにヘラヘラしているリヒトに見切りを付け、ユリウスは諦めたように溜息を吐くとカレンを見やった。

カレンを見つめると、その金色の瞳は甘く蕩けた。

これできっと、ユリウスがカレンに隠している秘密は消え去ったのだ。

カレンはそう直感した。

「君に狩猟祭の女王の栄冠を捧げよう、カレン」

「狩猟祭の優勝者が獲物を慕う女性に捧げることをそう言うんだぜ。ま、優勝するのは俺だけどな。カレンとイチャついていたおまえと違って、婚約者もいない俺はず~っと鍛えていたんだぜ?」

「愛する者がいると強くなれる、とはよく言うだろう? 私がこの場をもってそれを証明してみせよう」

「おまえがそんなことを言うようになるとはなあ」

リヒトがからかうように笑い、ユリウスがそんなリヒトをどつく。

すべてが満ち足りた結婚に、また一歩近づいた心地だった。