軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狩猟祭開始

「エーレルト伯爵家の狩猟祭に集まってくれた皆に、エーレルト伯爵としてまずは敬意を表したい」

天幕に囲われた広場には大勢の人が集まっている。

ヘルフリートは拡声の魔道具で集まった人々に感謝を述べた。

「狩猟祭の期間内にもっとも戦果を上げた者には栄誉が与えられるだろう。期間は二週間。エーレルト伯爵家より、栄誉ある三位までの者には褒賞が与えられる」

ヘルフリートの合図で、用意されていた台座の上の布が取り払われた。

「三位の者にはエーレルト領都ダンジョンの二十階層の主であったプラチナシルバーウルフの毛皮と固形万能薬を、二位の者にはその牙と固形万能薬を、そして一位の者には――エーレルト伯爵家に伝わる茨の森のブラックドラゴンのウロコと固形万能薬を進呈する」

褒賞の説明の度に広場にどよめきが走った。

特に、最後の褒賞のどよめきが大きかった。

「エーレルト伯爵家ではここぞという時に茨の森のブラックドラゴンのウロコを出すのだよ。これでヘルフリート兄上がこの狩猟祭を重要視していることが伝わっただろう」

「それって、エーレルト伯爵家の紋章の由来になったっていう、あのドラゴンですか?」

「その通りだよ。巨大なドラゴンの素材だからね。まだいくらか手元に残っているのだよ」

エーレルト伯爵家の紋章は茨と黒いドラゴンだ。

由来を聞いた時には家に箔を付けるために作られた伝承だと思っていた。

だが、本当にかつてドラゴンを倒してこの地を平定したという歴史があるらしい。

「東の大森林やブルイェール山に深入りしないように気をつけてほしい。未攻略のダンジョンが複数あり、魔物があふれ出し続けているゆえ危険な場所だ。特に大森林の北よりのほど近い場所に、未攻略ダンジョンの門がある。あの丘に登れば目視できるほどの近距離ゆえ、各自注意するように」

「エーレルト伯爵、褒賞についてお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

騎士としてではなく個人参加らしい装いの、貴族の青年が一人手を挙げた。

「構わない」

「三位までの方に与えられる褒賞のすべてにある、固形万能薬、とは一体どういったものなのでしょう?」

カレンは心の中で、よくぞ聞いてくれました、とガッツポーズした。

「我が家と懇意にしているBランク錬金術師カレンの新作ポーションだ。小万能薬だが携帯性に優れた固形であり、湯に溶かすことで食事としてポーションを取ることができる」

「ほう。興味深いポーションですね」

言葉とは裏腹にあまり興味を引かれなかった様子で青年は言う。

最小限の人員と荷物でアタックする冒険者のダンジョン攻略とは違い、貴族は料理人まで連れた大軍団で攻略を行うため、お手軽な即席固形スープの良さがわからないのだろう。

順番待ちではあるが、普通の中万能薬ならカレンから購入できるので、お得感を感じなかったらしい。

せっかく褒賞に協力した身としては、もっと盛り上がってほしいものである。

「すでにBランク冒険者パーティーの『鮮血の雷』に採用されているポーションだ。そのポーションを提供した貢献をもって、錬金術師カレンは彼らとスポンサー契約を締結したそうだ。現在、鮮血の雷はエーレルト領都ダンジョンを攻略中だ。彼らの実力なら現在最下層と予想される三十階層を攻略できる見込みだ」

「鮮血の雷って、次々とダンジョンを攻略しているという、あの……?」

「彼らなら本当に攻略してしまうぞ」

「三十階層を攻略したら、Aランク冒険者よね? Aランク冒険者が使うポーション、欲しいわ……!」

そこかしこから息を呑む声が聞こえる。

貴族たちはトールが使っているからこそ固形万能薬に関心を持ち出した様子だ。

カレンは錬金術師としてのふがいなさを感じるより前に、姉として誇らしい気持ちになった。

得意満面で人々の顔を眺めていたカレンは、ふと違和感を覚えた。

息を呑んだ人たちの中に、妙に暗い表情の一団がいる。

観察しているとトールの攻略を歓迎していない様子がありありとわかって、カレンは眉をひそめた。

彼らはエーレルト伯爵家の騎士団の服装をしていた。

その中心にいるのは、騎士団長のゴットフリートだった。

「ではこれにて、狩猟祭の開始を宣言する!」

ヘルフリートの大きな声でハッとして、カレンはゴットフリートから視線を逸らした。

「皆の者、貴族として、強者として、護国のためにふるって力を尽くして魔物を狩ってもらいたい!!」

「エーレルト伯爵家のために!!」

「アースフィル王国のために!!」

「王祖シビラの名のもとに!!」

ヘルフリートの宣言に、貴族たちが呼応した。

貴族たちの声が揃って轟いて、怒号のようにカレンの鼓膜をビリビリと震わせる。

今この場において、人々の気持ちが魔物を狩り人間の版図を守るという目的で完全に一致したのをひしひしと感じる。

心がひとつになった高揚感で、カレンは鳥肌を立てた。

これが、狩猟祭。

貴族にとってどれほど大事な祭か、カレンははじめて理解した。

「では行ってくるよ、カレン」

ユリウスがカレンの手を取って口づける。

すると恨みがましい眼差しがカレンに突き刺さった。

ユリウスがハンカチの受け取りを拒んだ令嬢たちの視線だろう。

どうやって受け取りを断ったのかと思いきや、ユリウスは真正直に好きな人以外からのハンカチは受け取れないと拒んだらしい。

マナー違反なので顰蹙を買うことになり、その顰蹙の矛先はカレンに向けられることとなったわけである。

「……すまない、カレン。私が恨まれるだけなら構わないと思ったのだが」

ユリウスも視線に気づいたらしく、眉をハの字にしてカレンに謝る。

情けない表情になるユリウスに、カレンは肩を竦めた。

「わたしのために狩猟祭で活躍してくれるんですよね?」

「ああ。君に勝利を捧げるよ。必ずや一位の戦果を上げ、君に褒賞を捧げよう」

「じゃあ、それでチャラにしてあげます。嫉妬の眼差しを向けられるのも嫌いじゃありませんしねっ!」

ユリウスが気にしないようにカレンが虚栄心をアピールすると、ユリウスは愛おしげに目を細めた。

「君の強さを私がどれほど慕わしく思っていることか……少しでも伝わればいいのだが」

ユリウスがカレンの反応を見つつ、顔を近づけてくる。

やがて、ユリウスがカレンの頬に口づけた。

心のこもった口づけを、扇子で隠そうとしても隠しきれない女たちの羨望の眼差しが彩る。

カレンが強心臓いっぱいに幸せを感じていた時、冷やかすように口笛が吹かれた。