軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

相互理解

ユリウスがこれほどまでに心を明け渡してくれたのに、カレンには未だに押し隠している秘密がある。

だが、ユリウスが言うように結婚を控えているのだ。

カレンも、そろそろ往生するべきなのだろう。

「ユリウス様、狩猟祭が終わったらお話したいことがあります」

カレンの話を何だと思ったのだろう。

ユリウスはカレンを見つめ、目を細めた。

「楽しみにしているよ」

「えっと、楽しんでいただけるかは五分ってところですかね……? わたしの秘密を打ち明けようと思っているんですけど」

前世を覚えていると主張する人がいたとして。

もしもその話を信じられたなら、それはある意味、面白い話ではあるだろう。

「君に心を明け渡してもらえると言うことだろう? ならば、楽しみ以外あるはずがない」

そう言って、ユリウスはカレンの手を取って口づけた。

「では行ってくるよ、カレン」

「いってらっしゃい、ユリウス様」

「ねえねえ、二人とも。俺もいってくるよ」

蚊帳の外に置かれたリヒトが自己主張する。

カレンはそつなく応えた。

「いってらっしゃいませ、リヒト様」

「リヒトと呼び捨ててくれていいのになぁ」

ユリウスに睨まれると、ケタケタ笑いながらリヒトが走っていく。

その後ろ姿を見送って溜息を吐くと、ユリウスは再びカレンを見下ろした。

「あの男はエーレルト領とダンジョンを攻略した際のパーティーメンバーなのだよ。友人かどうかはともかく、君に紹介しておきたかったのだ」

死線を共にかいくぐった仲間というのは、ある意味友人よりも強い絆で結ばれた存在ではなかろうか。

カレンはユリウスにとってそれほど近しい存在を紹介してもらえるようになったのだ。

「紹介していただけてとても嬉しいです。婚約者って感じですね!」

「まあ、あの通り軽々しい男だ。カレンに迷惑をかけることがあればすぐさま私に言ってくれ。始末する」

「アハハハ! 本当に仲がいいんですね」

笑うカレンにユリウスも微笑み、カレンの頬に口づけた。

その瞬間、ピアスを付けた耳朶まで温かくなり、どちらにも口づけられかのような錯覚に襲われてカレンは真っ赤になった。

「キャッ!? ユリウス様!」

「ふふ、ではいってくる」

ユリウスは今度こそ馬に乗ると、カレンを置いて狩猟祭のために魔物狩りに出発した。

カレンはユリウスの姿が森の中に消えるまでじっと見守った。

その後、ふとカレンはリヒトが去っていった方角を見やった。

ヘラヘラしていたのでそうは見えなかったが、ダンジョンの二十階層の攻略に参加できるほど強い人だったらしい。

ユリウスの友人がどんな人間なのか、カレンももう少し話してみたかった。

そう思っていると、ちょうどカレンが見ていた森の茂みがガサガサと揺れた。

すわ小動物か、はたまた魔物か。

距離を取っていたペトラとロジーネがカレンの側に駆け戻り、その更に背後からセプルとウルテが前に出る。

カレンを守る布陣が敷かれる中、茂みから出てきたのは人間だった。

「あれ……リヒト様? 先程、狩猟祭に出発されたんじゃ――」

「出発したふりをして戻ってきたんだよ、カレン」

リヒトはその茂みに潜んでいたためか、全身にくっつく葉っぱを払いながら言った。

「ユリウスとの婚約が決まったという君と、もう少し話してみたくてね?」

「ユリウス様の目を欺くために、狩猟祭に行ったふりをしたわけですね」

「欺くだなんて人聞きの悪い」

へらりと笑いながらもリヒトの目は真剣だった。

「わたしもちょうどリヒト様ともっとお話してみたいと思っていたところです」

「へえ。俺たち、気が合うね? やっぱり運命なのかな」

リヒトは目を細める。

ユリウスほどではないが整った顔立ちをしていた。

精悍な顔つきに独特の色気を漂わせて、カレンを誘うように切れ長の目で同意を求めてくる。

カレンが「そうですね」とうなずくと、リヒトは目の奥の光を消した。

「わたしたち、どちらもユリウス様が大好きですしね?」

「……そんな言い方をされたら、うなずかざるを得ないだろ?」

リヒトは深い溜め息を吐き、色めいた雰囲気を霧散させた。

光の戻った目でカレンを見やり、リヒトは肩をすくめた。

「ユリウス以外の貴族の男にちょっかいを出されてもそう簡単には落ちることはなさそうだな。一先ずは安心したよ」

「ユリウス様がこれまでリヒト様に会わせてくれなかった理由、なんとなくわかりました」

「俺が君にちょっかいを出すからっていうのもあるだろうな」

「ユリウス様の友人として、ユリウス様が変な女に引っかかってないか心配なんですよね。わかります」

「君はわかるなよ!」

ビシッと鋭い突っ込みが返ってくる。

突っ込み体質なのかもしれない。

「俺が今変な女かもしれないと疑っているのは君だぜ、カレン?」

「どうぞ、好きなだけお疑いください。ユリウス様の大事なご友人に認めてもらえるよう、わたし、頑張ります!」

「――大事なご友人、ね。どうだかな」

リヒトはユリウスの前で見せた明るさとは裏腹な、皮肉な微笑みを浮かべて言う。

「俺はエーレルト領のため、エーレルトの貴族として領都ダンジョンにユリウスと共に挑んだ。困難な道のりだったからね、得体の知れないところのあるユリウスに、ダンジョン攻略のためにもお互いの結束を強める儀式として、秘密を曝け出すように迫ったんだ」

カレンは軽く目を瞠る。

秘密、とは恐らく出生の秘密のことだろう。

誰にも知られたくないと思っていただろうその秘密を、ユリウスはきっと、ジークのためにダンジョンを攻略したくて曝け出した。

有名になることでジークの依頼を達成できる人材を呼び寄せようとしていた。

「俺たちは確かにお互いの秘密を握り合うことで打ち解け合った。ダンジョンの攻略も果たした。今では俺が友人面をしても、ユリウスはそれを決定的には否定しない」

だが、とリヒトは暗い目つきでカレンを見やった。

「ユリウスが自ら秘密を明かした君と、俺は違う」

ジークの命を盾に取ってユリウスの秘密を聞き出してしまった後ろめたさか、罪悪感か。

その贖罪のために狩猟祭を打ち棄ててカレンのもとにやってきたリヒトに、カレンはごくりと息を呑んだ。

「……わたしと違って、片想い、ってことですか?」

「恋愛感情じゃあないからな!?」

そんな雰囲気ではなかったのに、どうしても突っ込まずにはいられなかったらしい。

ユリウスの友人、リヒト。

カレンは彼について、着々と理解を深めていった。