軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

建国記念大祭

「――アースフィル王国を守るため、アースフィル王国を建国したシビラ王の栄誉を讃えるこの良き日に、シビラ王の子孫、護国の盾たる余が命じる。護国の力を持つ者たちよ、王都ダンジョンを調査せよ」

華やかな王宮の舞踏会。翻る旗とタペストリー。そこに描かれる紋章はドラゴンとペガサス。

確か、かつてアースフィル王国五十階層のドラゴンを倒すために、シビラ王はペガサスを従魔として従えて戦ったのだ。

「護国の剣としていかなる困難をも打ち払い、必ずや吉報を持って帰還いたします、陛下」

代表して答えるのは王国騎士団騎士団長の任に就いている、第二王子のボロミアス。

今回のダンジョン調査隊の隊長を務める人で、ヴァルトリーデの兄でもある。

「護国の剣たるそなたに王家に伝わりし魔剣、フェアリアルクリスを授ける」

「ありがたき幸せ!!」

「そなたらの働きに報いるための用意をして、余は吉報を待とう」

「万事、このボロミアスにお任せくださいませ!!」

ボロミアスは国王から短剣を受け取ると、後ろに居並ぶ聴衆を振り借り、その短剣を細かい彫刻がされた木の鞘から引き抜いた。

刃は波の形にうねっていて、刃にも意匠がほどこされていた。

ダンスホールの一角でエーレルト伯爵家の面々に囲まれながら国王の演説を聴いていたカレンからは何の意匠かわからなかったが、王家伝来の宝剣にふさわしい美しい短剣なのは見てとれた。

「陛下は第二王子を王太子とするつもりだろうか」

「当家にとっては困ったことですわね」

ヘルフリートとアリーセの囁きにカレンがそちらを見やると「ジークの治療を阻んできた方なのですよ」とアリーセがこそりとカレンに教えてくれた。

「力なき者は死ぬべき。自力で生き残る力のない者は淘汰されるべき――そういう考えの強いお方なのです」

「わぁ……」

カレンにとっても上に立たれると困る種類の人物かもしれなかった。

これまでなら誰が国王になろうがただの平民であるカレンには関係がなかったが、Cランクの錬金術師ともなれば話は変わってくる。

「アースフィル王国の繁栄と栄光に、人の版図を守るための戦いに、護国の盾と剣たちに――乾杯!」

国王の合図と共に、カレンも杯を掲げて中のワインを一口呷った。

乾杯を終えると、くるりと踵を返す人々の姿が目に付いた。

「カレンさんも行きましょう」

「はい、アリーセ様」

カレンもくるりと踵を返す人間のうちの一人だ。

国王に招待されたから建国記念大祭には参加しなくてはならない。

だが、ダンジョン調査隊に参加するにあたって、その前にこなさなければならない仕事が山ほどあるのだ。

調査隊に参加を要請される人ほどあとに残していく仕事は多く、時間は貴重だ。

そのため、最低限の義理を果たしたら即座に退室していいと言われていた。

宮廷舞踏会などというものに参加させられると聞いた時にはヒヤヒヤだったカレンも、これ幸いと退室させてもらう。

それに、本当にカレンにもやらなければならないことがある。

「カレン様、グーベルト商会の商会長とその息子が、こちらに近づいて来ようとしています。いかがいたしますか?」

「ああ――」

カレンはCランクの錬金術師になった。上級錬金術師だ。

引き換え、グーベルト商会はBランクの商会であり、イザークはその家の息子というだけで、本人に何らかの特別な能力があるわけではない。

恐らく、カレンとイザークの立場は現在逆転している。

来月の頭には錬金術ギルドからグーベルト商会への抗議声明が発表されることになっていて、それをもしかしたら嗅ぎつけてもいるのかもしれない。

イザークは、そしてグーベルト商会はますます困った状況に追い込まれるだろう。

その前にカレンに謝罪でもして、状況の取りなしを願うつもりなのかもしれないが――

「忙しいから、無視してさっさと行こう」

「かしこまりました」

忙しいのは本当で、待たせている人たちがいる。

カレンはサラが指し示した方角を一瞥もすることなく、アリーセたちと共にまっすぐ目的地に向かって歩いていった。

「わざわざお集まりいただいてしまい、申し訳ありません」

「こちらの台詞ですよ、カレン殿。Cランク錬金術師のカレン殿にご足労いただくより、我々側が集まった方が効率もよいでしょう」

建国記念大祭には国中の貴族に招待状が送られている。

当然、血筋の祝福に病む子どもたちを抱える家々も招待されているので、エーレルトの旗振りで今回、王宮の一室を借りてカレンが診ている子どもたちとその親たちに集まってもらうことになったのだ。

部屋の中にはドレスや燕尾服を着た小さな子どもたちが集まっている。

カレンがダンジョン調査隊の一員として遠征に行く前の、最後の診察である。

部屋の片隅に衝立を立てて、子どもたち一人一人を診て、近頃の様子を聞き、カレンがいない間の方針を相談していく。

ダンジョンの調査にどれだけかかるかわからない。

一応、全員がこれまでのペースでポーションを必要とし続けても半年はもつように解熱のポーションを作っている。

だが、カレンの料理ポーションはあまり長持ちしないので、半年後にどれだけ効果が残っているかは定かではなかった。

カレンが無魔力素材のポーションを作れるようになったと判明してから、まだ一年も経過していない。

だから、実験が不十分だった。

全員の相談が終わったあと、カレンは居並ぶ貴族たちに向かって言った。

「解熱のポーションは複数種類、たくさん作ってエーレルト伯爵家に預けています。わたしがいない間、必要になりましたらヘルフリート様をお訪ねください」

「かしこまりました」

「カレンさま、どっかいっちゃうの?」

「いかないで、カレンさま」

子どもたちが不安そうな顔で口々に言うのに、カレンは眉尻を下げた。

子どもたちからしてみれば、カレンは自分たちの苦しみを拭ってくれる薬を作る唯一の錬金術師だ。

カレンが危険なダンジョンに入ってそのまま戻ってこなければ、また以前と同じ苦しみを味わうことになるかもしれない。

「ごめんなさい。わたし、行かなくてはいけないんです」

「カレン殿を困らせてはいけないよ。カレン殿は護国のためにダンジョンに向かわれるのだから」

親である貴族たちがこのスタンスであることにカレンとしては救われるが、子どもに我慢をさせるのも辛いものだった。

「わたしのことはいいの。でも、妹もわたしと同じかもしれないのっ!」

「生まれたばかりだから、まだわからないでしょう?」

そう言う母親の表情にも、不安が浮かばないわけではなかった。

「でもっ、わたしはいいけど! 妹がこんなふうにつらいのはいやです!」

「ぼくも! ぼくも弟が同じようになったら嫌だ!」

「カレンさま、いかないで。おねがいです。おれのことはもう治療しなくってもいいから」

子どもたちがわらわらと近づいてきて、カレンを引き留めようとする。

常から親に教えられている教え通りに、自分のためではなく、他者のために。

カレンはハラルドのことを言うか迷った。

ハラルドだけは、カレンの無魔力素材ポーションを再現できるようになった。

効果はカレンのポーションより少ないけれど、確かに効果を持つポーションではある。

だが、ハラルドの立場は不安定で弱すぎる。

それでもこの健気な子どもたちを安心させるためならば――とカレンが口を開きかけた時、遠慮がちなノックと共に扉が開かれた。

「失礼しますぅ……カレンさん、こちらにいらっしゃいます?」

「師匠? どうしたんですか?」

常になく遠慮がちな様子で、コソコソと入ってきたのはユルヤナだった。

国王の前でも偉そうだったユルヤナが、ここに居並ぶ貴族たちに配慮するはずがない。

ユルヤナはカレンのところまでやってくるとモジモジしていた。

賢い子どもたちが空気を読んでカレンから離れると、ユルヤナはコソッと言った。

「すみません……ハラルドが無魔力素材ポーションを作れなくなってしまいました」

「は!? な、なんでですか!?」

「えっとぉ、よくわからないんですけどぉ、最初は魔力を使わせすぎたのかなと思って、魔力回復ポーションを飲ませてみたりもしたんですけどぉ」

ユルヤナはもちろんカレンがいない間にハラルド相手に容赦するはずもなく、次々と論文を読ませ、課題を課し、要求を重ねていったらしい。

そうしたら、あと一歩で作れそうだった小回復ポーションがどんどんポーションの形を成さなくなっていき、ついには最初は作れていたはずの無魔力素材のポーションすら作れなくなってしまったという。

「私、何かやっちゃいました?」

ユルヤナがテヘペロをする。

こんなにも最低な「何かやっちゃいました?」をカレンはかつて聞いたことがない。