軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルフの理解

「申し訳……ございません、カレン様……」

エーレルト伯爵家に泊まって帰ろうと思っていたものの、カレンは家に戻ってきた。

するとハラルドは熱を出して厨房にへたり込んでいて、カレンの仕事はまずハラルドを地下の寝室に運ぶことからはじまった。

次に、ユルヤナ曰くハラルドが飲み食いしていた記憶がないというので、麦粥を食べさせた。

ただの麦粥で、ポーションではない。

「ハラルドが謝ることないよ。わたしが師匠に言っておかないといけなかったよ」

「ですが……」

「たとえハラルドにとって師匠から受ける教えが嬉しくても、嬉しくない時でも同じように、師匠を止めることなんてできないでしょ?」

どっちにしろ、ハラルドがユルヤナの暴走を止められるはずがない。

カレンなら止められるのかという話になるが、ユルヤナは話せばわかるエルフである。

「ここで熱を下げるポーションを作ってあげたらまたハラルドは動き出しそうなので、今夜はもう大人しく眠っていてもらいます」

病気の熱ではない。無理が祟った風邪か知恵熱か、魔力回復ポーションを飲まされすぎたせいである。

カレンの厳しい意見に、ハラルドは素直にうなずいた。

「はい……カレン様の貴重なポーションを、僕なんかのために使っていただく必要はありません……せっかく作れるようになった無魔力素材のポーションを、作れなくなった、僕なんかの……」

「元気になればまた作れるようになるよ、きっと」

「作れるように……なるのでしょうか……? Sランク錬金術師の……ユルヤナ様から教えを受けて……この体たらくなのに……」

「作れるようになるまで一緒に考えよう。ね?」

「はい……」

ハラルドは涙をこらえようとしたものの、嗚咽をこらえきれずに漏らしていた。

カレンは溜息を吐くとハラルドの部屋を出て、ユルヤナが待つ居間に向かった。

「師匠、お話いいですか?」

「はいぃ」

背筋を伸ばしてみせる仕草から、ユルヤナが何らかの罪悪感を抱いていることは伝わってくる。

とはいえ、ハラルドを哀れに思っているわけではないと、カレンは理解している。

この何百年も生きているらしいエルフの意識を変えようなどとはカレンもさすがに思わない。

なので、ユルヤナにも理解してもらえるように、カレンは言葉を選んで言った。

「ハラルドは師匠にとっても、稀な人材ではないでしょうか?」

「はい……」

「これまでハラルドほどの少ない魔力量でポーションを作った人、見たことがないんですよね?」

「そうです……」

「だったら、そういう貴重な人材を、潰すのは錬金術の発展のためにならないんじゃないでしょうか?」

「まったく、おっしゃる通りで……」

「ご理解いただけたならよかったです」

「ですが私、あの程度でハラルドが潰れるなんて思わなくってぇ」

唇を尖らせてしょぼくれた顔をするユルヤナに、確かに悪意はなかったのだろう。

カレンはなんと説明しようかと首をひねった。

「ハラルドは魔力が少ないので、体が弱いんです。師匠が思っているよりずっと弱いものだと思って接してあげてほしいです」

「ですがハラルドの肉体の強度は、魔力を抜きにすれば同年代の人間とほぼ変わりませんでしたよ? 調べましたけど」

一体何をどう調べたのか、ユルヤナがきょとんとした顔をする。

ユルヤナに命じられれば、ハラルドは唯々諾々と何でも従ったのだろう。

そして確かに、肉体的な強さという意味では、ハラルドはそこまで弱いわけではないだろう。

「多分師匠はエルフなので感じたことがないと思いますが、この世界って、魔力がない状態だと、それだけで常に若干辛い場所なんですよ」

「辛い、ですか?」

「辛いんです。息がしづらいし、動きづらいし、常に圧迫されている感じがするんです。わたしも魔力を使い切ると、そういう感覚を覚えます。ハラルドはずっとそんな感じで、辛くて苦しいはずなんです。本人は生まれてからずっとそうなので、自覚もないと思いますけど」

「人間は魔力がなくても生きていけるのだと思っていましたが、やはりそれは違うということですか?」

「生きていけるのは確かです。多分、魔力がない場所だともっと生きやすいですけど……」

「ダンジョンの周辺であるこの辺りには、ほとんど魔力はないかと思いますが」

「それでもあるんですよ、絶対」

カレンが言い切ると、「ふむ」とユルヤナが口を噤んだ。

「魔力がほとんどない人間は三食食事をバランスよく取らないといけないし、夜は八時間は眠りたいところです」

「えー、ホントですかあ? ハラルドをサボらせようとしているのではなくってですかぁ?」

「本当ですよ、師匠」

今思えば、かつてライオスに振り回されて何日も徹夜したり、食事を抜かしたりしつつも学校まで通えていたのは、若さのおかげだけではなく、魔力のおかげでもあったのだろう。

無茶をしても耐えられるように、魔力が体を補ってくれていたのだ。

カレンはユルヤナを見上げて言った。

「断言します。ハラルドにはそれが必要なんです」

「……カレンさんがそう言うのなら、そうなのかもしれませんね」

カレンが言えば何でも本当にそうかもしれないと、ユルヤナは考慮してくれるところがある。

ユルヤナに作れないポーションを作れるカレンは、ユルヤナが理解できていないことを理解しているかもしれないからだ。

それを利用してカレンは言い切った。

これぐらい、最初から雇い主として、ハラルドのために言っておいてあげるべきだったのだ。

カレンがダンジョンに行ってしまう前にわかって、ユルヤナの暴走を止められてよかったのだと思うことにして、カレンは着替えるために自室へと戻っていった。

朝、目が覚めて熱が下がっても、ハラルドは無魔力素材のポーションさえ作れる状態には戻らなかった。

ダンジョン調査隊出発までの間、水を蒸留してみたり、素材をすりつぶしてみたり、濾過してみたり、茹でてみたり、分離してみたりと錬金術的な様々な工夫を凝らしたが、それでもハラルドは無魔力素材のポーションを再び作れるようにはならなかった。