軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

切実な努力家

朝起きたら窓を開け、まずは部屋の空気を入れ換えて朝日を入れる。

盥の水で顔を洗って、タオルで顔を拭いて、歯を磨き、窓の死角で服を着替える。

髪に櫛を入れて身支度をあらかた調えてから、カレンはいつものように部屋を出た。

「おはようございます……」

「おはよう、ハラルド」

カレンが起きて階段を降りると、ハラルドが目に隈を浮かべフラフラしながら歩いていった。

いつから起きていたのか、むしろ昨晩は寝たのか否か。

ハラルドに注意をしても仕方ないので、カレンは居間で恐らくはハラルドに入れさせただろうお茶を飲みながら優雅にくつろぐユルヤナに抗議しにいった。

「師匠、あんまりハラルドの睡眠時間を削らないであげてください。昼間じゃ休めって言っても、仕事中だからって言って休まないんですから」

カレン的には週休二日制を取り入れたかったのだが、ハラルドからの猛烈な拒絶反応をもらい今のところ断念している。

ハラルド的に、ハラルドがいなくてもいい日を作ろうとするのはカレンがハラルドを解雇するための助走か何かに思えるらしい。

「私が無理やり付き合わせているわけではありませんよ? ハラルドが自らの意思で私から錬金術を学びたがっているのです」

「ユルヤナ様のおっしゃる通りです。ですのでカレン様、僕のことはお気になさらず……」

ハラルドはヒョコッと居間に顔を出すと、またフラフラと家事に戻っていく。

「師匠、そうだとしても、睡眠時間を確保できるように気をつけてあげてください」

「はいはい、わかりました」

「ところで、師匠から見てハラルドってどんな感じなんですか?」

「無魔力素材ポーションに関しては、カレンさんに教わった分野ならほぼほぼポーションを作れるそうです。このお茶も眠気覚ましの効果があるのですよ。ですが、それでも小回復ポーションはあと一歩のところで作れず、という状況です」

カレンの錬金工房をハラルドの指導のために使いたいとユルヤナから申し出があり、錬金釜は元々ユルヤナから譲り受けたものであることもあり、カレンが寝ている間は使用を許可している。

Sランク錬金術師のユルヤナの指導を受けても、ハラルドは小回復ポーションを作れないらしい。

いくら無魔力素材のポーションを作ることができても、小回復ポーションを作れないと錬金術師にはなれない。

カレンは息を吐いて肩を落とした。

「そうですか……残念です」

「残念? それは違いますよ。ハラルドの魔力量はFランク以下ですよ? ないも同然の魔力で、あと一歩で小回復ポーションが作れそうになっている。こんなこと、普通はありえません」

「あ、そうでしたね」

「カレンさんの元々の魔力量である、Dランクの魔力量だって、普通なら小回復ポーションを作るのは難しいのですよ? それなのにカレンさんはその魔力量で小回復ポーションを五十個作れてしまう。それがおかしいんです」

「そうらしいですねえ」

「やはりカレンさんに何か秘密があり、ハラルドはその秘密を受け継いだ、と見るべきですね。しかも、その秘密は女神によって口外を規制されていない……」

物思いに沈んでいくユルヤナに、カレンは大きめの声を出した。

「わたし、今夜建国記念大祭に呼ばれているので! いってきますね!!」

聞いていない時にも適当に手を振ることのあるユルヤナが、カレンを黙らせるためにヒラヒラと手を振った。

「カレン様、いってらっしゃいませ」

「わたし、今夜は遅くなるから、多分エーレルト伯爵家に泊まるけど、もしかしたら帰ってくるかもしれないし、帰ってきたときにハラルドが起きてたらすっごく怒るからね」

「はい」

「ハラルドに言っても仕方ないのはわかってるんだけどさ~」

見送りに出てきたハラルドが苦笑する。

ユルヤナにああしろこうしろと言われたら、ハラルドが断れるはずがない。

「こんなことを言ってはカレン様がご不快になるかもしれませんが、僕はユルヤナ様に無理やり付き合わされているわけではなく、本当に僕自身の意思でご教示いただいているのです」

「それもあるんだろうけどさ」

「僕は、どうしても錬金術師になりたいのです、カレン様。何者にもなれないはずだった僕がどうして、もしかしたら錬金術師になれるかもしれないあと一歩のところまで来ていると、この道の行き着く最果てにおられるはずの方が言ってくださるのです」

「ハラルド……」

ハラルドはカレンに言葉を尽くした。

その言葉を聞けば確かに、ハラルド自身の意思で学びたがっているのが痛いほど伝わってくる。

「カレン様にご迷惑はおかけしません。ですからどうか、気まぐれなユルヤナ様が教えを施してくださるこの機会にできることはすべてやっておきたいと思ってしまう僕をお許しくださいませ」

「……わかったよ。だけど、夜は寝なよ。あと、ご飯は食べるんだよ。寝て食べないと、頭が働かなくなって、せっかく学んでも結局頭に入っていかないからね」

「かしこまりました、カレン様」

ハラルドは目を細め微笑みながらうなずいた。

返事をしながらも、カレンの言葉を聞き入れてくれている気がしない。

ユルヤナもハラルドも、返事だけはいいのである。

「ちゃんと寝てちゃんと食べないと大きくなれないからね!」

「……肝に銘じます」

若干顔色を変えたハラルドに溜息を吐きつつ、カレンは呼んでおいた馬車に乗り込んだ。

建国記念大祭の準備を手伝ってもらうべく、馬車はエーレルト伯爵家へと出発した。