軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒炎の勇者

◇【女神ヴィシス】◇

「――待ちかねましたよ、勇の剣」

アライオンの女神のもとへ、軍魔鳩から待望の報せがもたらされた。

目をつけた地域を長らくヴィシスは勇の剣に捜索させていた。

ハズレが続いたが、ようやく当たりを引き当てたらしい。

「最果ての国……ふふ、これで最後の禁字族もおしまいですっ。今日は、よき日ですねっ」

ヴィシスは配下に指示を出し、人を呼ばせた。

ほどなく、その人物はヴィシスの部屋を訪れた。

「この僕に、西へ赴けだと?」

トモヒロ・ヤス。

先の戦いで切断された指は【 女神の息吹(ヒール) 】で治してある。

眠りにつかなかったのは、幸運と言えよう。

「はい、実はとてもとても大事な任務がございまして」

「大事な任務だと? 大魔帝の軍勢はまだ滅していないであろう。我は大魔帝に復讐を果たさねばならん……ッ! なのに、西へ行けだと!? そんな任務は綾香やその取り巻きにでも任せておけばいい! この僕には不釣り合いな任務だ!」

「んー、そうでしょうか?」

安のこめかみが、ピクッ、と反応した。

その顔は怒りに満ちている。

「なんだと?」

「実を言いますと……あの、ここだけのお話しですよ?」

「む?」

ヴィシスが神妙な顔で前かがみになった。

ただならぬ様子に、安は興味を惹かれたようだった。

「この任務は、実は大魔帝討伐より重要なものなのです」

「……なんだと?」

小声になって、安が表情を変える。

「他の勇者さんたちに頼むのも考えたのですが……いかんせん、どこまで信用してよいのかわからなくて……」

ため息をついてから、ヴィシスは安の手の上に自分の手を添えた。

「ですが――ヤスさんでしたら、信用できると思うのです」

「……そういう、ことか」

安は真剣みのある表情を作っている。

が、頬の緩みを完全には隠せていない。

「よかろう。桐原や聖では、無理な任務なのだな?」

「ヤスさんもご存じの通りS級の方々は、その……頭で戦えない方ばかりでしょう?」

「確かに」

「その点、ヤスさんは一つ下のA級ですが頭の切れる方です。そういう方でなければ、この任務は決して務まりません。あなたしか――いないのです」

「――――――――」

安が、感銘を受けているのがわかった。

しかしヴィシスはそれに気づいていることをおくびにも出さず、言う。

「このたびの極秘任務はこの国……いえ、ひいてはこの世界の今後を左右すると言っても過言ではありません。お願い、できますか?」

ふん、と鼻を鳴らす安。

「そういう話であれば、仕方あるまい。我にしかできぬのであれば、我がやるしかあるまい……」

にこっ、とヴィシスは微笑んだ。

「私の見込んだ通りですね。ヤスさん、さすがです」

安が去った後、ヴィシスは第六騎兵隊の隊長を呼ぶよう配下に伝えた。

「単細胞とは――時に哀れですが、まあとても扱いやすいこと」

書類の束に視線を這わせるヴィシス。

処理すべきものは山積みである。

大魔帝降臨以降、女神のやるべき雑務は格段に増えた。

究極、ヴィシスは他者を信用しない。

短命の人間など、特に信用を置くべき生物ではない。

短命とは愚かしさの証明である。

深い知見や悟りを得る前に、頭の中が弱って死ぬ。

賢くなるには――あまりに、短すぎる生涯。

「愚かな人間ども」

あらいけない、と口に手をやる。

それからニコニコ笑い、再び、ヴィシスはペンを手に取った。

数日前、トモヒロ・ヤスと第六騎兵隊がアライオンを発った。

ヴィシスはその日、いつも通り自室で執務をこなしていた。

と、

「ヴィシス様、失礼いたします!」

男が血相を変え、部屋に飛び込んできた。

書類に落としていた視線を上げる。

配下の一人であった。

「あらあら……おうかがいも立てずに入室とは、一体何事でしょう? ええっと……おそらく大魔帝軍に何か動きが出たのですね? ふむ、もう立て直しましたか。んー困りましたねぇ……本当に、今回の根源なる邪悪は手を煩わせてくれま――」

「ち、違うのです!」

「? 大魔帝軍関連の報ではないのですか? では、なんでしょう?」

「きょ、狂美帝がっ――」

一旦息を整え、配下は、今も驚きを隠せぬ様子で続けた。

「ミラ帝国が我がアライオンに、宣戦布告しました!」

「…………………………………………………………………………は?」