軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族

戻ってみると、血のニオイがした。

「トーカ殿」

俺の姿を認め、セラスが胸を撫で下ろす。

「――ピギ丸殿もスレイ殿も、ご無事で」

地面の雑草に付着した血を見下ろし、聞く。

「誰か来たな?」

「はい。勇の剣の者が、一人」

「勝ったか」

「はい」

「怪我の方は?」

「ありません」

「……ルインとサツキ以外のヤツは、どんぐりの背比べな感じだったからな。強いには強いが、俺が確実に相手をすべきはサツキとルインの二人に絞ろうと考えてた」

一人足りないのはルインたちに【パラライズ】をかけた時に把握していた。

サツキとナンナトットとは別に行動していた者がいた。

もしルインかサツキと遭遇したら一応逃げろと指示してあったが――

「カロだな?」

「はい。ですが、斬り捨てました。ニャキ殿の目にずっと入っているのもよろしくないので、死体はあちらに」

声にやや鋭さがあった。

セラスを怒らせたのだろう。

大方、ニャキのことで。

「わかった。なんつーか……悪かったな、任せちまって」

「いいえ……信頼していただけて、私は嬉しいくらいですよ?」

「サツキとルイン以外のヤツなら、セラスは勝てると踏んだんだ。だから、任せた」

やや茶目っ気まじりに、小さくガッツポーズするセラス。

「これでも、蠅王ノ戦団の副長ですから」

「今後も頼りにさせてもらう」

「はい、頼りにされたく思います」

花のように微笑んでから、セラスはシリアスな表情を取り戻す。

「そちらの首尾は?」

「全員、潰してきた」

ピンッ、とニャキが耳を立てる。

「ゆ、勇の剣さんたちを……トーカさんは、倒してしまったのですかニャ!?」

「ああ」

「ふニャぁあ……」

ニャキは心底、驚いているようだった。

「粗方、必要な情報も得てきた。こいつは戦利品だ」

魔導具っぽいのやら。

不足しがちな旅の道具やら。

「大荷物にならない程度に、持ってきた」

「勇の剣を排除できたということは……しばらく休めるでしょうか?」

「いや……最果ての国へは、早めに向かった方がいいかもしれない」

クソ女神が、動くかもしれない。

「ニャキは、動けるか?」

今のニャキは各所に包帯を巻いていた。

セラスが処置を施したようだ。

「打撲痕に効く塗り薬なども使いましたが、その……それ以上に、ニャキ殿には少し休息が必要かもしれません」

そうか。

ニャキは、睡眠も不足してる。

と、

「だ、だいじょぶですニャっ! ニャキは、まだまだがんばれるのですニャ!」

ニャキは元気さをアピールしてきた。

が、

「スレイ、頼めるか」

「ブルルルッ」

「はニャ〜……」

ニャキには、スレイに乗ってもらった。

「そのまま寝てもいいぞ。スレイなら、転がり落ちないように上手く支えてくれる」

「そ、そんニャわけには! 皆さんが起きて歩いているのに、ニャキだけ寝るなんてとんでもない話ですニャ!」

「わかった」

俺は近づき、腕を上げた。

「【スリープ】」

ニャキのまぶたが閉じていき。

次いでその小さな身体が、脱力する。

「ふ、ニャぁぁあ〜……」

前のめりに上体を折るニャキ。

スレイが巧みに衝撃を吸収し、背で受け止める。

ニャキはそのまま、スレイの上で眠りについた。

「ピギ丸、一応おまえも落ちないように手伝ってやってくれるか?」

「ポヨーン!」

ローブから飛び出し、ピギ丸もスレイの上に飛び乗る。

ニョキニョキと、ピギ丸はニャキの頭の下へ器用に滑り込んだ。

なるほど。

クッションというか、枕みたいな感じにもなれるわけだ。

「ふふ。相変わらずお器用ですね、ピギ丸殿は」

「ピユ♪」

「――ところで、おまえたちは休まなくていいのか?」

俺がセラスたちにそう尋ねると、

「最果ての国の位置を考えると、近づけば近づくほど魔群帯の深部から遠ざかります。休むのなら、進めるところまで進む方がよいかと」

「ピッ」

「ブルルッ」

ピギ丸とスレイも、同意を示した。

「わかった。ならもうしばらく、このまま進もう」

「トーカ殿は、大丈夫ですか?」

「問題ない。あの廃棄遺跡に比べりゃあ、ここは天国みたいなもんだ」

ルインたちの死体がある場所の近くまできた。

俺たちは、そこを避けて先へ進んだ。

光玉のせいか。

あるいは死体の放つ血臭のせいか。

勇の剣の死体がある場所に、魔物の気配が集まっている。

……死体は、魔物たちがこのまま”処理”するだろう。

今のうちに通り抜けてしまうことにする。

そうして歩き続け――

空が微かに白んできたところで、ようやく休憩を取ることにした。

「ふニャぁ〜? ……、――はニャ!? る、ルインさん、勇の剣の皆さん、申し訳ないですニャ! にゃ、ニャキはついウトウトとしてしまって――、……ふニャ?」

掛け布を跳ね除け飛び起きたニャキが、ピタッと硬直する。

視線の先には、座っている俺とセラス。

「飯だぞ、ニャキ」

「ふニャニャ……?」

干し肉と水、それから栄養補助食品を渡す。

栄養補助食品は皮袋から送られてきたものだ。

が、ニャキがびっくりするかもしれないので中身だけ渡す。

「こ、これはまさか……ニャキ一人分なのですか、ニャ?」

「ん? そうだが?」

「こんなにっ――い、いいのですかニャ!?」

「……ああ、全部おまえのだ」

ニャキが口に干し肉を運びかけて、一度、俺の顔をうかがう。

「いいから、食えよ」

ニャキが、干し肉にかぶりつく。

そしてそのまま、目を輝かせて食べ進めた。

俺は内心、舌打ちする。

勇の剣のヤツら。

どんだけ少ない量の飯を与えてやがったんだ。

その上でいやがらせとしか思えない睡眠妨害をしながら荷物持ちをさせてたとか、本気でイカれてやがる。

「ふぐニャぅ!?」

ニャキが、喉に肉を詰まらせた。

俺は腰を上げかける。

が、俺より近くにいたセラスが先に駆け寄った。

素早く水を与え、背をさすってやっている。

セラスは苦笑していた。

「慌てて食べなくても、お肉は逃げませんよ」

「も、申し訳っ……ないの、ですニャっ……けほっ」

「……急いで食べる必要もないぞ」

ああ、と。

俺は理解した。

そうか。

急いで食べてたのは――

時間をかけて食べることを、許されていなかったから。

俺は、干し肉を噛み千切る。

口内で咀嚼しながら、思う。

本当にここでニャキと出会えてよかった。

出会っていなければ、ニャキはこうしてまともな寝食を得られぬまま死んでいたかもしれない。

「ふ、ぐ……ふニャぁぁ〜……」

「ど、どうしたのですかニャキ殿……っ?」

セラスがおろおろし始める。

ニャキは食べかけの干し肉を片手に――泣いていた。

「す、すみませんニャぁ……ニャキは……久しぶりに、お食事の時に気持ちがぽかぽかしたのですニャ……こんな風に胸いっぱいに嬉しさが溢れて、あったかい気持ちにニャれたのは……ねぇニャやまいニャたちと一緒に暮らしていた頃以来なのですニャぁ……ふニャぁ〜……」

ニャキは、泣きながら笑顔を浮かべていた。

口の端に肉のカスをつけながら。

それからニャキは、何度も何度も礼を口にした。

「礼はいいから食えよ。ただ……今度は詰まらすなよ?」

柔らかく、冗談っぽく言ってやると、

「はいですニャ♪」

ニャキはまだ涙を滲ませたまま、可愛らしく笑った。

干し肉の次に手をつけた栄養補助食品に感動しているニャキに、俺は尋ねた。

「……実は、俺たちの目的地も最果ての国なんだ。ちょっとした縁があって入国に必要な”鍵”を譲り受けてるから、入国にニャキが必要ってわけじゃない。ただ、俺はニャキを連れて行きたいと思ってる。ニャキは……とりあえず、俺たちと最果ての国に行くって感じでいいか?」

「は、はいですニャ! ご迷惑でなければ、ニャキはどこまでもお供いたしますニャ!」

「わかった。何かあったら全力で守ってやる。そこはひとまず、安心していい」

「トーカさん――ありがとうございますニャっ。このご恩は、いつか必ずお返しいたしますニャ!」

俺は苦笑する。

「つくづくおおげさだな、ニャキは」

……そういえば。

「ところで、ニャキ」

「ふニャ?」

「その”ママさん”と”ねぇニャ”と”まいニャ”について、少し教えてくれないか?」

女神の隠密部隊である勇の剣。

神獣のニャキはそいつらに随伴していた。

となると、ニャキの身内――”ママさん”と”ねぇニャ”と”まいニャ”(おそらく母、姉、妹だろう)とやらは、アライオンの住人である可能性が高い。

何かの間違いで戦いの場とかで遭遇して殺してしまうのは避けたい。

確率はゼロではない。

なので、特徴や名前を把握しておこうと思った。

「ママさんは……一人ぼっちだったニャキを、拾って育ててくれた人なのですニャ。でも、ママさんは寿命で死んでしまったのですニャ……」

悲しげな顔をするニャキに、慰めるようにして微笑みかけるセラス。

「ママさんは、とてもお優しい方だったのですね」

「はいニャ……ママさんが、ニャキは大好きでしたニャ」

「…………」

そのママさんとずっと平和に暮らしてられれば、よかったんだろうけどな……。

「……ねぇニャとまいニャは、生きてるんだよな?」

「はいですニャ!」

パッと表情を輝かせるニャキ。

「ねぇニャやまいニャたちと、ニャキは血の繋がりはありませんのニャ」

てことは、神獣はニャキだけか。

「でもでも、ねぇニャもまいニャも、ニャキを本当の家族のように扱ってくれるのですニャ♪ みんな、とっても優しい人たちなのですニャ♪ ニャキはそんな家族が、大大大好きなのですニャ♪」

本当に、嬉しそうに話す。

「そうか……いい人たちが家族で、よかったな」

「はいニャっ!」

「そのねぇニャやまいニャたちの名前は、なんて言うんだ?」

「はいですニャ。まず、ねぇニャのお名前は――」

憧れすら灯した顔で、ニャキは言った。

「ニャンタン・キキーパットと、言いますニャっ」