軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

S級勇者、再集結

勇者装に身を包んだ桐原拓斗。

彼はこちらへ近づいてきた。

そして、綾香の前で足を止めた。

「よかった……桐原君、無事だったのね」

「こういうことか?」

「え?」

「十河が――おまえが、このオレを心配していた?」

「え? ええ……東には、大魔帝が現れたって話だったから。それで――」

「おまえはこのオレが、まさか大魔帝に負けるとでも……? 想像力の不足か?」

何か、気に障ったらしい。

すると、東軍にいた他の上級勇者二人も広場に姿を見せた。

高雄姉妹。

見たところ、負傷した感じはない。

(聖さんも樹さんも無事みたい……よかった)

「あ――それよりね、桐原君……」

綾香は話題を変えた。

「もう、知っているかもしれないけど……その、小山田君が――」

「自然と耳に入ってきたぜ、十河……」

「ええ……小山田君は、今――」

「大魔帝の側近級を、殺したらしいな?」

言葉を遮り、桐原が尋ねた。

(え?)

動揺する綾香。

(小山田君の話じゃ、ない……?)

「聞けば、第二誓とかいう大物だったとか……今のステータスをひけらかしたいなら、オレに止める義務はない……」

「今のイインチョと自分のステータス差が気になるって、素直に言やいいのに」

独り言っぽく割り入ったのは、高雄樹。

呆れ顔で、前髪を後ろへ撫でつける桐原。

「わかってねーな、樹。明白でしかねーだろ……十河が仕留めたのは側近級の第二誓で、片やオレの方は、あの大魔帝が尻尾を巻いて逃亡……差が歴然すぎて、もはや明白以上の何ものでもねーぞ」

そんな中、綾香の動揺は続いていた。

桐原は小山田翔吾が心配ではないのか?

背後の桐原グループを見る。

最初、彼らも桐原が近づいてきた時に駆け寄ろうとした。

が、今は躊躇している感じだった。

樹が、綾香に話を振る。

「けど、イインチョもついに固有スキル覚えたんだろ?」

「え? ええ、まあ……」

「くくく、桐原もこれでイインチョにもうでかい面できねーな?」

「? オレが? でかい顔を……?」

桐原は首の後ろを撫でさする手を止め、樹へ不快げな視線を飛ばす。

「記憶がなさすぎてな。都合よくねつ造してんじゃねーぞ、樹……」

睨み返す樹。

「うるせーよ……てめーこそ、大魔帝の退却が自分だけの手柄みたいに語ってんじゃねーぞ。あれはな、姉貴あっての――」

「いいのよ、樹」

聖が、樹を止めた。

「けど、姉貴……ッ」

「桐原君の成長した固有スキルが敵の東侵軍の波を押しとどめたのは、事実だもの」

「オレへのごますりのフェーズに入ったか、聖。しかし、まあ……」

鼻を鳴らす桐原。

「おまえの中にはわずかながら 王の視点(キリハラ) が見えないこともない。腰巾着気質の樹も、これは聖を見習わざるをえねーか……いいぜ、見習え。同意しろ」

樹が唸って、姉の腕に組みつく。

「う〜」

そのまま樹は、額を姉の腕に押しつけた。

「ほんとこいつ、話通じなくてしんどい」

「仕方ないわよ、異世界だもの」

答えになっていないような答えを言って、聖は綾香へ向き直った。

「それより十河さん、身体の方は大丈夫なの?」

聖のその気遣う言葉がなんだか嬉しくて、思わず頬が緩む。

「リカバリーはきくと思うんだけど……本調子に戻るまではもう少しかかりそう、かな」

聖が次に口を開くまで、かすかな間があった。

「第二誓という側近級にやられたわけではないの?」

ツヴァイクシードにやられた傷が原因ではない。

むしろ血の刃で切られた箇所はあまり気にならない。

極弦使用による負荷の方が、何倍も効いているのだ。

が、身体が”壊れ”てはいない――それは、わかる。

あくまで回復に時間がかかっているだけだ。

ただ、

(勇者の補正値込みで、これほどの負荷だなんて……)

綾香が生成した”弦”は一本。

遥か昔にはその弦を何本も束ねられる達人などもいたという。

当時は” 極(きわ) め 人(びと) ”と呼ばれていたらしい。

(二本だけでも、想像がつかないのに)

自分も鍛え続ければその領域に届くのだろうか?

今よりも遥かに――強者と呼べる、その領域に。

「実は――」

「それについては、答えなくていいわ」

「?」

一瞬、聖が桐原へ視線をやった。

(もしかして……)

桐原には負荷の原因を明かさない方がいい。

そう考えたのかもしれない。

「てかさ」

後頭部に両手をやり、樹が言う。

「イインチョって、側近級とかゆーのぶっ殺したんだろ? どんくらいレベル上がったん?」

「今、私のレベルは……」

そういえば今、レベルはいくつだったか。

何もかもが目まぐるしくて、側近級を倒した後の確認を怠っていた。

「ステータス、オープン」

基本、ステータス表示は本人か女神しか確認できない。

なのでこういう場合、口頭で伝える必要がある。

綾香は、表示されているレベルを口にする。

「ええっと……LV499、って表示されて――」

――ヒュッ――

「――――――――」

ガキィインッ!

「……え?」

綾香の身体は――自然と、動いていた。

が、ミスをした。

身体が”動ける”ものとして反応してしまった。

本来、そんな風に動ける状態にはないのに。

その状態で無理に動かそうとしたので、

「――ッ」

全身に、痛みが走る。

「……………………桐原君、今、あなた」

かすかに咎める響きの載ったその声は、聖のもの。

見れば――

桐原の刃が、綾香の目の前で止まっている。

否――防がれている、と言うべきか。

綾香の傍には聖が立っていた。

抜き放った長剣を、横に突き出した姿勢で。

心臓が、早鐘を打っている。

何が起こったのか?

それは――

突然、桐原が綾香に 斬(・) り(・) か(・) か(・) っ(・) た(・) のである。

そこへ聖が反応し、飛び出した。

聖は、己の剣身を割り込ませて桐原の斬撃を防いだのである。

綾香の全身から、ドッと汗が噴き出た。

汗が、冷たく感じられる。

聖の問いかける冷たい刃のような視線が、桐原へと向けられた。

「今のはどういうつもりかしら、桐原君」

聖の声に厳しい響きがまじっている。

つまり。

彼女も、感じ取ったということか。

そう、

(桐原君の、今の斬撃――)

明確な 殺(・) 意(・) が、乗っていた。