作品タイトル不明
第609話
ハーレー=ポーターさんは興奮を落ち着かせる為に紅茶を淹れ始めた。【鉱夫飴】を舐めて紅茶を飲むのが最近のお気に入りなんだとか。
「この飴、美味しいよねぇ」
「水分を抜くのが難しいので胡麻や麦焦がしを混ぜたりしてますけどね」
「それはそれで香ばしいし、食事代わりにもなるからいいよぉ〜。【 魔増(マゾ) 草】も混ぜちゃおうよ」
いや、それ食事にしちゃダメなやつですから。
「水分を分離しようとしてみたんですけど、結構魔力を持っていかれるので……」
「自家消費ならそれでもいいけど、大量生産だと術者が倒れちゃうか……」
「はい。先ずは『 生命之水(蒸留酒) 』の度数を上げる事から始めていって、水分除去や水分分離に慣れたら水飴に移行して貰えば良さそうですけど」
「蒸留しなくてもお酒から直に水分を抜けば……って、割に誰でも思いつくけど実際には推奨されていないんだよぉ」
それ、魔力消費で水分は抜けるけど同じだけ魂も抜けるからだろ。生命を削ってお酒の水分を抜いて、濃いお酒を飲んで寿命を縮める……。古代エルフもビックリな悪循環だ。岩塩でやらかした俺だから言える。
「ハーレー先輩、多分、それは先人達が試していると思います。それなのに魔法処理しないという事は現実的じゃないって事ですよね?」
「多分、非効率なんだろうねぇ。塩作りだって海水を水分除去魔法しない訳だしぃ」
「そうか、海塩もあるんだ」
「鍋で煮て水と塩を手に入れる方法か、海藻に掛けて塩を育てるのが一般的だよぉ」
「でもどうしてお酒も塩も水分除去魔法の効きが悪いんでしょうか?」
「定説だと “ 命に直結する物質には効きが悪い ” って言われてるねぇ。濃いお酒は美味しいけど身体に悪いし、濃い海水はマーマンや 半魚人(サハギン) の身体に悪いもん」
あ、そう言う理由? 設定? なのか。という事は上様が制限を設定しちゃった可能性があるな。
「そうなんですね」
「それに、最初から水分除去魔法で作ると美味しくないって聞いたよぉ」
「美味しくないんですか?」
「ピュア過ぎて美味しくないって話ぃ〜。手間暇が美味しさを作るのか、除去される水が腹を立てて旨味を連れて出ていっちゃうのか分からないけどぉ。美味しくないと言えば再生岩塩も美味しくないよねぇ……」
「ボク、ハーレー先輩ってゴーレム至上とかゴーレム上等って感じに見てたので、効率とか機械的とか、そう言う生産がお好きなのかと思ってたんですけど違うんですね」
「ゴーレム上等って、ぷっ……。◯◯上等って過去の転生勇者のマントに書いてあったって呪文だよねぇ。気合が入るって噂のぉ。戦闘職なのにターンアンデッドの呪文が書かれた黒いローブも着てたって聞いたなぁ」
それ多分、喧嘩上等。
「勇者だとターンアンデッドぐらい使えそなイメージですけど」
「確か、 “ ノーモア アーミー ダムン ” って読む呪文だって文献に書かれてたってぇ」
ノーモア アーミー ダムンな成仏系呪文。多分それは響き的に南無阿弥陀仏だ。南無阿弥陀仏の文言が書かれた黒いローブ……それ特攻服だろ。いつの時代の不良さんだったのか知りたい。
「カトちゃん、淹れ終わった紅茶の茶葉だよぉ。今日はカトちゃんの為にドライフルーツ入りにしたんだぁ」
プープ プープ
(「やったじゃん」)
千切れるぐらいにブンブンと尻尾を左右に揺らすカトリーヌ。分かりやすい。
「んふふ、喜んでくれたぁ?」
プー!!
「ハーレー先輩、ありがとうございます。カトリーヌも凄く喜んでます」
ムキュウ?
(「おいちいの?」)
「アンディーも食べてみる?」
「カーバンクルも気になるんだねぇ」
ムキュ……ウ
(「おいちいけど おてて べたべた なの」)
「あー、美味しいけど手が汚れちゃうのか」
「そうなのぉ? 今度、別の茶葉を手配しておくよぉ」
ムキュウ キュウ
(「たのちみ たのちみ」)
「ハーレー先輩、お高い茶葉なのに、この子達にありがとうございます」
「わたしは美味しい紅茶が飲めてぇ、ゴミ捨てしなくていいから有難いんだよぉ」
「それより、ハーレー先輩の方でも色々あったんですよね?」
「有ったよぉ。馬車事業が大変な事になるねぇ。原因はミーシャだよぉ」
何ですと!? 俺が何をしたと???
「ボク…ですか?」
「そう。ミーシャが『スワロー』を広げちゃったから、馬車の運用が増えるぅ」
そんな、風が吹けば桶屋が儲かるじゃないんだから。
「真面目に話そうか。『新・スワロー』は外壁二重円構造で南北を通す大通りを持つ事になる訳だけど、そこで乗り合い馬車の定期運行をさせてみようかって話がポーター氏族内で出たよ。運行ルートは循環系統と南北系統」
前世風でいうなら、市バスというよりコミュニティバスってやつか?
「乗り合い馬車ですか。疲れた時にいいかも」
「【 履筒(タイヤ) 】の生産も目処が立ったっていってたし、【 運魔(ウマ) 】不足がちょっとだけネックだけど、馬型ゴーレムの開発話が上がったから、将来的には御者ゴーレムと馬型ゴーレムの二本立てで運用していくと思う」
「そんな重要な話をボクみたいな部外者にしていいんですか?」
「えっ、身内みたいなモンでしょ? フィオナお祖母さまの身内枠で、 三毛皇(みけおう) 様の義妹。ポーター氏族が万歳三唱してるよ。ネコ車も、ポーター氏族に名を連ねる時の手土産代わりにで登録したって事にされてるんだよ」
「マジかよ……いや、本当なんですか?」
「ね。口が悪くなっちゃうよねぇ? 本当だから安心してねぇ〜」
勝手に話が大きくなってるんだけど!! ネコ車が氏族入りの手土産ってどういう事なの???
「その馬型ゴーレムって開発はハーレー先輩がするんですか?」
「八割方は本家で対応するみたいだよぉ。わたしは御者ゴーレムとの連動システムの構築と、後は名付けかなぁ。【 車動馬(シャドバ) 】って名前にしてみたよぉ」
基本は動く(歩く)、走る、止まるの三パターだから大きさの割にゴーレム機構の負荷は少ないんだな。
「あっ、それでハーレー先輩が警笛に興味を持たれたんですか?」
「ふふ…当たりぃぃ」