作品タイトル不明
第608話
寮の部屋に戻りカトリーヌの様子を確認しないとね。一頭で何をしているのか気になるのでコッソリ覗こうと思う。静かにドアを開ける。隠密系のスキルは無くてもコソッとドアを開けることぐらいは出来るからな。
プ〜 ププ〜 プキプキ〜〜
プップププ〜〜
籠の上でご機嫌な鼻歌? を歌うカトリーヌ。適当にワンフレーズを歌うとポワッと口から煙を吐き出す。楽しそうだなぁ。
クッキーを食べては歌い、尻尾を振っては歌う。
(「ボクが居ない時ってあんな感じなの?」)
(「ぶたさん うたうの ちらなかったの」)
あ、アンディーも知らなかったか。もしかして俺、乙女の秘密を覗き見しちゃったとか? 気不味い。そして申し訳無い。
ムキュウ
(「ただいま なの」)
プッ… プ〜〜
(「あっ……、おかえりだし〜」)
「カトリーヌ、ボクこれからハーレー=ポーターさんの研究室に行くけど、カトリーヌは行く? それともお留守番?」
プープ プープ
(「あのゴーレム好きのドワーフさんの所?」)
「そうだよ」
プープー プープー
(「あそこの紅茶は美味しいしー。マジ絶対行くー」)
どうやらカトリーヌはハーレー=ポーターさんの事は気に入っている模様。短い四脚を高速で動かし俺に向かって駆け寄ってきた。
◇◇◇◇◇
「だからぁ、ポンチ絵はあれから急速に進捗して、別システムの回転システムを採用する様になったしぃ、上手く魔石と接続させれば記録媒体として使えそうだよぉ。透明ゴーレムはボディの配合比率の研究が始まったよぉ。魔石滓がたぁ〜くさん必要でぇ、ヒト族から買い付けしないとぉ。わたし的にはナナシーさん印の食品が輸出で役立つと思うんだよねぇ。それと、馬車、ポーター氏族本業の馬車がもう大変!! 大変過ぎるから【カミチスイコウモリ】の飛翔システムは錬金術ギルドにあげちゃっていいよねぇ? あとぉ……(延々延々)」
ハーレー=ポーターさんの研究室に行ったら興奮状態なのかやたら 早口(マシンガントーク) で語りかけられた。
プープ プーププー!!
(「落ち着こ!!」)
カトリーヌがスパイシーシトラスな香りを吐き出した。これ、前世のメンズ向け商品を思い出すなぁ……。何だかとっても懐かしい。
「あっ、カトちゃんありがとね。少し落ち着いたかも」
「ハーレー先輩落ち着いて話して下さい。ゴーレムは逃げませんから」
「逃げないけど急がないと。ミーシャも新ネタ有るんでしょお?」
「新ネタというか、派生ですね。ネコ車運用の新形態です」
「おおっ、ネコ車ぁ!! こっちは 基本形(スタンダード) から水平軸を安定させる為の 回転姿勢検知器(ジャイロスコープ) 付きまで、色々開発しちゃったぁ。もう何台かは現場で試用されてるハズだねぇ。で、どんな派生ぃ?」
「一人乗り用の馬車って有るじゃないですか。その横にネコ車を取り付けて 側車(サイドカー) にする事を思いつきました」
「なかなか過激な乗り物だねぇ」
「別に乗客を乗せなくても良いし、作業現場にネコ車を運ぶ場合に使えると思うんです」
「取り外し可能っていいよねぇ。変型合体って憧れるよねぇ」
プープ プープー
「えっ、カトちゃんはサイドネコ車に乗りたいのぉ? それなら試作一号に乗せてあげるよぉ」
プププ ププププ プププ ププー
それ、前世のマフィア映画のテーマ曲!! 単車で暴走するヤンチャな若者がラッパで鳴らすアレじゃないか!!
「カトちゃん、それって馬車の接近を知らせる警笛に使えそうだよぉ。その曲、登録しようよ。登録料が入ったら、それこそ【虫 不来(こず) 草】をお腹いっぱい食べれるよぉ」
プープ プププププーー?
(「マジ、 卍(まんじ) ?」)
「えっ、登録って従魔名義でも出来るんですか?」
「一応出来るよぉ」
ヤバい、前世では有名な日曜の夕方のTV番組で、カラフルな着物に身を包んだ噺家さん達が小洒落た回答で座布団の枚数を競い合う番組のテーマ曲を思い出した。
{ ―― 山姥(やまんば) くん、全部持ってって ―― }
奪衣婆が衣服を剥ぎ取るが如く座布団を持ち去ってしまう 裏方(スタッフ) の 山姥(やまんば) くん。黒子スタイルならぬ白い布を被った彼の手にかかれば後一枚でささやかな商品が貰える状態であっても憐れ座布団は消滅してしまうのだ。アレは御長寿番組だし、俺が日本から居なくなっても続いているんだろうなぁ。
(「カトリーヌ、“ プッププ ププププ プップー ” って鳴いてみて」)
プッププ ププププ プップー
「カトちゃん、ちょっとちょっと。それもいいよねぇ……」
ヤバい、そっちもハーレー=ポーターさんのツボに嵌ったか?
ハーレー=ポーターさんがサラサラとカトリーヌの鳴き声を譜面化し登録用紙に記入する。運用目的は馬車の警笛。
あっ、屋台のラーメン屋のチャルメラの曲、それこそあれも聞かせてみたい。
プ〜?
(「カトリーヌ、 “ プププ〜ププ ププププププ〜 ” これも鳴いてみてよ」)
プププ〜ププ ププププププ〜
ヤバい。可愛らしい夜鳴きそば屋さんだ。クソっ、めっちゃラーメンが食べたくなった。ミケヲさんに聞かせたい。そしてラーメンの口にさせて悶えさせてやりたい。俺だけ苦しむなんて損だからな!!
「カトちゃん、天才なのぉ? それも採用!! 間の抜けた感じが警笛とは別な何かに使えるってば。他の豚さんが鳴かないうちに登録しちゃおう。きっと【 魔増(マゾ) 草】も食べ放題になるよぉ」
ププッ? プキッ?
(「ご主人様、これマジ? アタシ真似して鳴いただけだし」)
(「いっ、いいんじゃないの?」)
ムキュウムキュウ!!
(「ぶたさん うたうの あたち ちゅき」)
プー
(「ありがとだし」)
「それより、登録申請用紙が常に手元にあるって凄いですね」
「う〜ん、わたしの場合、申請が珍しくないからねぇ。ミーシャも一枚ぐらいは持ってた方が良いかもだよねぇ」
「そうなんですか?」
「些細な思い付きが他の誰かの役に立つ事が多いからね〜。最近だとアレだよねぇ、ワーム素材の改良」
あれかよ、輪ゴムを飛ばしただけなのに事件。輪ゴム狙撃の何発かで感謝料が貰えたから申し訳無くて仕方がないやつな。
「書いた〜。はい転送。行き先は商業ギルドでいいよねぇ?」
まさか 研究室(ここ) に小型の転送陣が置かれているとは思わなかったよ。