軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第578話

自慢じゃないけどホタテの貝殻は二枚とも綺麗に切れた。切り落としはコカコッコが食べるらしい。パンの耳みたいだな。

切った箇所はそのままだと危険だし、混ぜ墨で引いた輪郭線より数ミリ外側なので砥石と 木賊(とくさ) を使って滑らかに削り落とし整える。俺、この作業が結構好きなのだ。貝殻の固定にはさっきの当て金と中敷きがあると安心だし便利なのでそのまま使う。これ、透かし作業をするなら特殊な形状の当て金、もしくは作業台を作らないといけないやつなんじゃ?

少し遅いお昼ご飯になった。今日のメニューは煮た芋とパンと刻みパスタの入ったスープだ。どう見ても炭水化物の重ね食いだと思う。そこにエールが加わったら糖質祭りだな。そうか、今更気付いたがドワーフは炭水化物の重ね食いが好きだったんだな。前世の日本人と大差ないだろ。ラーメンライスに餃子、そこにビールだな。可能ならばドワーフを日本にご招待してみたいところだ。

エネルギーを補給し十分に休憩を取った後はホタテの貝殻に魔力痕が乗ってないか検査に行く。俺としてはスキルオフで作業しているハズなのでセーフだと思うけど、ザン=ギュラー先生的には作業中に何度もチェックするものなのだそうで。

「私は魔力痕が見えないからね。検査機に乗せるのが簡単だし確実かな」

「魔力痕が見える人もいるんですか?」

「鍛冶師は大抵が見えるんじゃないのかな?」

「そうなんですか? でも何故、鍛冶師が?」

「私は鍛冶師じゃないから正確な理由は分からないけど、素材の金属に魔力や魔力痕が乗っているかどうかを見定める為だと思うよ」

「あ、なるほど。ボクの庇護保証人が 大(おお) 鍛冶師なので後でその話を聞いてみます」

判定結果は魔力痕を認めずで、ザン=ギュラー先生が感心しまくりで、ちょっと面はゆい。

「ミーシャ=ニイトラックバーグの作業を見ていると、そこそこの数のスキルを取得済みなんだろうと思うんだけど、それなのにスキルオフでしっかり仕事が出来ているから大したものだよ」

「あ、ボクなんですけど、職校に入校する前は僻地の集落で老ドワーフに囲まれて暮らしていたんです。なので、スキルを持っていたのか否かよく分かっていなくて、そこで見様見真似で作業をしていたので、それが原因なのかなぁ……と」

「そうだったの!? 苦労してきたんだね。それで氏族名がそうだったんだ」

「はい」

こういう時に便利な脳内設定。後でミケヲさんのストーリーも聞かせてもらおうっと。

「そうだ、スキルオフ作業は凄い事なんだけど、ミーシャ=ニイトラックバーグは狙った初期スキルが付かなくて困ったりはしてない?」

「初期スキルですか?」

「そう。派生スキルは意識していなくても勝手に生えてきたりするでしょ? 逆に起点となる初期スキルは意識して狙っていかないとなかなか取得しなかったりするんだよ」

「あっ……言われてみれば」

もしかして、【 襷着る(タスキル) 】と髭を浮かせるスキルがなかなか付かないのはそのせいなの?

「その顔だと心当たりがあるでしょ」

「はい。実は……」

勇気を出して告白したのに、プッ…とザン=ギュラー先生に笑われました。もっと深刻なスキルで悩んでいると思われてしまっていたのか。

「プッ……まさか、髭を浮かせるスキルッッッ、くくっ、うふふふ」

「ボクにとっては深刻なんです」

「ごめんごめん。確かにお爺だらけの僻地だったら、一緒にお風呂に入って髭の浮かせ方を習ったり出来ないよね」

あ、髭を浮かせるスキルを取得出来てい

ない理由はそういう理論になるのか。髭が生えてくる前から、親と風呂に入っている時にそれとなく教わるって事なのね。

「髭に関するスキルや魔法って言うのは派生し過ぎちゃってて、何が起点か分かり辛くなっちゃってるんだよ。ちなみに『ベアードハック系』と纏められているけど、『ベアードハック』というスキル名は存在していないね」

何その髭のライフハックっぽい名称。

「でも『汎用魔法』ですよね」

「『汎用魔法』だからゴチャゴチャしてるんだよ。その、何にでも使えるっぽい名前は変えるべきだと思わない? 総合魔法とか、万象魔法とか」

万象(ユニバーサル) 魔法(マジック) 、響きのせいなのかちょっと中二……いや格式高く感じない?

今直ぐ身に付かないスキルはさておき、ホタテの貝殻の研磨に戻ろう。

外縁のバリは削り終わった。スルスルでツルツル。これなら外縁に引っ掛かって肌や服が切れたりしない。貝殻の断面って結構危険だからね。都市伝説で、恐怖のフジツボ伝説ってあったよね。海岸沿いの岩場で遊んでいて、転んだ時に膝を割れた貝殻でパックリ切っちゃって、そこにフジツボが寄生するって恐怖伝説。よくよく考えたらそんな事が起きる訳はないんだけど、子供の頃はフジツボに侵された膝の内部を想像して恐怖に震えたものよ。

今の俺はフジツボの恐怖より、ホタテビキニの方が怖いけどな。着けたら最後、外れなくなるホタテビキニアーマー、……それだと呪われた装備じゃねぇか。羞恥心と引き換えに防御力を得る装備。ヘイトというか注目度もハンパないだろうな。そして売り払おうとすると 「それを売るなんてとんでもない」 って店員さんに買い取り拒否されるんでしょ? 俺、知ってる。

まぁ、それは兎も角、コカコッコへの納品で練習させてもらえるのは有難いな。そうだ、チャーモ用の【ホヤッキー】に透かしの細工を試してみたらどうだろう。桜の花びらを抜くってデザインで。勿論、勝手に作業しないでチャーモに確認してからだけどね。