軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第577話

いきなり降って湧いたドタバタ劇のせいで午前中の作業が遅れました。いや、いきなり降って湧いたのではなく、俺が狙って掘り当てちゃいましたが正解だけど。

まだ見ぬ手持ちマイクログラインダーへの妄想でザン=ギュラー先生はルンルンしている。勿論、俺も楽しみにしてるけどな。ゴーレム機構とは理論や原理が別なのでハーレー=ポーターさんにネタを持ち込んでもジャンル違いで駄目だったのね。いや、駄目ではないかもしれないけど完成まで時間はかかるよねぇ。今はシースルーのゴーレム、いや、透けとるんゴーレムの事で頭が一杯だろうし。

糸鋸の弓に『 鋸(ソーン) 山荒(・ポーキュパイン) 』の歯を取り付けた。ホタテの貝殻を作業台に置き、昨日コカコッコ達に指定された位置に引いた混ぜ墨の輪郭線の少し外側を切り出していくのだ。

「ミーシャ=ニイトラックバーグは糸鋸の持ち方は 騎士(ナイト) ? それとも 暗殺者(アサシン) ?」

「ザン=ギュラー先生、 騎士(ナイト) と 暗殺者(アサシン) というのは?」

「持ち手の握り方だよ。 騎士(ナイト) は順手で持って前に押し出す使い方で、 暗殺者(アサシン) は逆手に持って上に引き上げる使い方だよ」

あ、成る程。順手がナイトで逆手がアサシン。刃物の持ち方から来てるのか。

「ボクは基本的には 騎士(ナイト) です。 暗殺者(アサシン) 使いも出来なくはないですが」

俺は前世で糸鋸を使うときは順手持ちだったよ。百貨店で催されていた伝統工芸・展示即売会で職人さんの実演を見学していた時に、象嵌職人さんやべっ甲細工職人さんが逆手で糸鋸を使っていたので、自宅に帰ってから真似して逆手で切ってみた事がある程度だけど。どう違うのか良く分からなかったというのが俺の素直な感想です。

「まあ、どちらでも問題無いのだけど、ミーシャ=ニイトラックバーグは冒険者登録はしてある? 武器は鈍器? それとも刃物かな?」

「学生枠でF級扱いで登録してあります。メイン武器はバトルピッケルです」

「武器、ピッケルなんだ。だったら 騎士(ナイト) 持ちの方がいいかな? 釘抜きだったら 暗殺者(アサシン) 持ちでも良かったんだけどね」

「メイン武器に準じるって事ですね」

「そうそう。現地採取中に戦闘行為に巻き込まれたりする事が有った時に、咄嗟に身体が動く時には慣れ親しんだ動作が出ちゃうものだからね。私の場合は武器も工具もノミだから、どちらで握っても問題無いんだけど」

「ザン=ギュラー先生はノミで戦うんですね」

「厳密には右手にメイスを持って左手にノミを持つ……だね。まぁ左手は添えるだけなんだけど」

ザン=ギュラー先生、もしかして左手は“ 恨み晴らすメン ” の始末人の三味線の 撥(バチ) で首筋を斬り付けるバトルスタイルですか? しかも二刀流? 右手のメイスで殴りかかって、トドメは左手のノミでキュピーンと。カッコいいな、それ。

当たり前だけどホタテの貝殻は平らではない。小鉢というか深皿というか。胸当てになるぐらいだ、平らな訳がない。オロール先生が古代エルフは鍋代わりに使うとか言ってたしな。

という訳で、糸鋸で外縁を切り落とすのに一苦労するのだ。幸い、作業台は丸太を輪切りにした物で、中心に当て金をはめ込むための穴が空けられている。当て金というのは革や金属にカーブを付けるときに使う工具で、巨大なブナシメジの様な姿をした釘状の工具だ。当然サイズもピンキリで、エノキ茸サイズからブナシメジ、大きくなると大根ぐらいの太さの当て金もある。逆にサイコロみたいに金床や木台に丸い穴の開いた道具もある。

とまぁ、その当て金に革を当て、更に【 水母(プルモ) シート】を被せた物をクッション代わりにすればホタテの貝殻の角度を安定させる事が出来る。手で引く糸鋸を使った事がある人には分かると思うが、切る対象物を固定しちゃうとメッチャ切り辛いんだよ。そして作業台には当て金をセットする前に芭蕉紙を敷いておいた。ホタテの貝殻の削りカスは 木賊(とくさ) に与えるからね。

糸鋸の歯が上下に動き、対象物に食い込む瞬間は何を切るにしても緊張する。大丈夫、こいつは貝殻だ、炭酸カルシウムだ。硬いと言っても鉱石よりはずっと軟らかい。前世でナイフを作っていた職人さんが持ち手に使う黒檀を切り出していた時に

「いくら黒檀が硬い木だと言っても所詮は木だからな。金属よりずっと軟らかい」 と言っていたのを思い出す。

ゴリッゴリッと貝殻が切られていく音が作業場に鳴り響く。この音が結構重要で、順調に切れている時と糸鋸の歯が折れそうになる直前の音は結構違う。前世だと糸鋸の歯の滑りを良くし長持ちさせる為にミシン油を縫ったり蜜蝋を塗ったりしたけど、異世界だと【 運魔(ウマ) 】の油を使うのが定番。【 運魔(ウマ) 】の他にも【 蒲蝦蟇(がまガマガエル) 】の粘液や大型魔獣から採れる脂を塗ったりするし、【 駆魔蜂(クマバチ) 】の蜜蝋を塗ったりする。

【 駆魔蜂(クマバチ) 】は鶏卵ぐらいの大きさでモフモフした毛に覆われた蜂の一種だ。魔蟲種ではない。蜂の中でも非常に温厚な種で人を見ると寄ってくる。寄ってきたときは餌が欲しい証拠なので、パンや果物を与えてやると喜んで巣に持ち帰る。運が良いと、この時に蜜蝋を貰える。貰えなくても巣に行って果物を渡す代わりに蜜蝋をお裾分けして貰えば良いだけなんだが。もし俺が【鉱夫飴】を渡したらどういう状態になるんだろう? 異世界転生の蜂あるあるで巣の中を丸ごとテイムしちゃうとかか? テイムしなくていいから蜜蝋は欲しいけどね。 それこそ動物王国メンバーの登録数が爆上がりするでしょ。いきなり千匹とか増えるパターンのやつだ。

【 蒲蝦蟇(がまガマガエル) 】の粘液は、背中に蒲の穂を生やしたガマガエルの蒲の穂から出る粉とガマガエルの分泌液を混ぜた物だ。これは傷薬にもなるので刃物を使う作業をする時に持っていると安心。ちょっとお高いのが玉に瑕かな。何故、傷薬を刃物に塗って作業すると効果的なのかは不明。きっと上様が生前にガマの油の実演販売を見ていたからとか、大方そんな理由じゃないの?