作品タイトル不明
第563話
データを書き込んだノートと共にホー・ジロー鮫の歯を研磨して作った 鏃(やじり) を提出した。そしてここからドキドキの検分タイムだ。提出したのが土器だったらドキドキしなかったかもしれない……いや、するな。
ザン=ギュラー先生は 鏃(やじり) とノートとを見比べている。芭蕉紙製のメモ用紙をピッと切って切れ味の確認をしたり、【 水母(プルモ) シート】の端材に突き刺してみたり。
「まぁ、いいと思うよ。さてミーシャ=ニイトラックバーグ、今回の 鏃(やじり) 製作で素材の鑑定を終えて研磨に入る前、一番最初にやらなければならない事を抜かしています。それは一体何だったのでしょうか? はい、一分以内に答える」
「えっ? 最初にですか? えっと……何だろう。分からないので教えてください」
「はい、今回の作業で一番最初にやる事は、私に仕様を確認することでした」
「あっ、それか!! でもギザギザをバランスよく残しつつ研磨という説明でしたよね」
「確かにそうは言ったよ。それでも念の為形状やサイズの確認はしないとね」
「言われてみれば確かにそうです」
「ちょっと意地悪しちゃったみたいだけどね。偶にいるんだよ、こんな風にしてくれと頼んだ覚えがないとか、こうして欲しかったのにとか因縁……いや文句を付けてくる相手がね。トラブルになるのも嫌だけど、それで素材と時間を損して更に工賃も貰えないとバカ臭いもの。丸損だけならまだよくて、もっと酷い場合だと弁償しろだのお詫びに代わりの品をタダで納品しろだのと言われちゃうし。クソっ、あのヒト族め……私の力作の石像に……」
ザン=ギュラー先生、最後に私怨が入ってますよ。
まぁ、仕様云々はさておき俺が説明をする番になる。 鏃(やじり) を作った事がない事、形状を有効利用しつつ殺傷力を高めようと自分なりに考慮したこと、ギザギザ部分の拘り等をプレゼンしてゆく……。
「一回も作った事が無いなら、尚更、仕様確認しなきゃね」
「はい。勢いでいけると思いました」
「十中八九いけないから安心して」
安心しちゃったらダメなのでは?
「根元側のギザギザを活かした形状が面白くていいと思うよ。ちゃんと返しになってるし。【 水母(プルモ) シート】を貫通したから武器としては合格だね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、魔力痕の有無を確認してみようか。部屋を移動するよ」
一階の奥の方に連れて行かれる。そこは素材や製品の品質をチェックする検品部屋だった。大量の製品が床やテーブルに所狭しと置かれている。
「うわっ、沢山ある」
「ここでは超大型の物以外の検品をしているんだよ。魔道具の検品機と検品ゴーレムが仕事をしてくれる。検品機の設定を変更すれば弾く弾かないも自由自在かな」
冷静に辺りを見回すと見慣れた手習いポーチを発見。あんなのでもここで最終チェックされてたんだ。
「そうだね、ここに布製品が二つある訳だけど……」
ザン=ギュラー先生はそう言いながら手習いポーチと職校ツナギを手に取る。
「こちらの手習いポーチは最低限のチェック項目の “ 血液染みが無いか ” “ 針が残っていないか ” これだけの判定で済むけど、職校ツナギは更に縫い目のチェック、布に穴が空いていないか、ボタン付けの確認、サイズ確認、後は……布目の確認もあるね。兎に角、色々とチェックされるんだよ。流石に職校ツナギはヒト族の貴族には卸さないから布の色ムラや紋章の確認はしないけど」
「確かにツナギに紋章は付けないですよね」
「いや、貴族お抱えの庭師や馬番なんかは背中に所属する貴族家の紋章を染め抜いた揃いのツナギを着てたりするよ」
◯◯組とか◯◯造園って感じ?
そして魔力痕の有無を確認する検品機に乗せられた俺の 鏃(やじり) の判定結果は…………、緑判定。魔力痕を認めず。合格でした。良かった……。そもそも俺って研磨スキルを持ってるのに研磨スキルを使って作業した事が無いんだよな。なのでスキル依存に伴う魔力痕が発現する訳がない……と思う。断言はできないけど。
「凄い凄い。 鏃(やじり) は作った事が無くても尖端武器や簡単な刃物研磨はした事があるでしょ? それこそ釘を叩いて鍛冶師ごっことか。スキルを得ると経験量の関係で若者ほど依存するのか、似た物を作る時にスキルを意識するのか漏れ出た魔力が付着したりするんだよね。まぁそれがスキルが生える元になるから否定しちゃいけないんだけど、コントロール出来ない場合、製品に魔力痕が乗っちゃう……と」
「それがスキルが生える原因なんだ」
「そればかりが原因でもないけどね、既に持っているスキルと似た系統が生えてくる理由はそこかな。スキルで生産するのは数打ちするには便利だから皆生やしたがるもんなぁ」
俺は生産に便利というよりも、生活を豊かにする為にスキルを生やしたいクチですが。
「それで、合格なんですよ……ね?」
「あ…、うん。合格。ミーシャ=ニイトラックバーグはスキルオフ研磨が出来る様だという報告は上がっていたけど、初見の異素材で二回成功してるなら、スキルオフ研磨を会得してると考えて大丈夫そうだね。むしろ “ スキルオフ研磨 ” のスキル持ちかもしれないけど……」
「そんなスキルが?」
「無い無い。そもそもスキルだったら依存した時点で 鏃(やじり) に魔力痕が乗ってる」
「無いんですね」
「無い。魔道具を使えば強制的にスキルオフに出来るから、そんな無駄スキルを生やす必要は無いからね」
ちょっと不思議な思考の持ち主のザン=ギュラー先生は、ラリー・アートという美術品の応酬の研究をしているらしい。お題に対して交代で芸術作品を呈示していくとか何とか。 芸術作品(アート) の 打ち合い(ラリー) でラリー・アート。プロレス技は関係ないと思う……多分。
一コマ漫画大喜利バトルかよ。