軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第561話

俺がホタテの貝殻の研磨指導をしてもらう間、カトリーヌは一の週・八の日に行われる四大キノコの採集検証に備えて除虫の仕事は休みにしてもらった。俺が単独で危険な作業をする訳でもないのでアンディーもオフだ。コカちゃんは親元に預けてあるし、ワギュとラパンは馬車組合でトレーニング中。

ところでガジェットは何をするんだろう? 昨日の今日だから寝てるのかもしれないし、アルチュールさんと酒盛りなのかもしれない。コウモリなのに夜行性だという訳でもないみたいだ。深夜帯に活動してると思われているけど、それは単に酔客の飲み残しの赤ワインに群がる時間帯がたまたま深夜なだけだった。ヒト族なんかは飲み残しの赤ワインでクルラホーンが釣れるか【カミチスイコウモリ】が釣れるかの賭けをしたりするらしい。まぁ、どちらも捕まらずで賭けが成立しない事の方が多いみたいだけどね。これ、ドワーフ領なら七割の確率でクルラホーンが釣れる。

ちなみに、似た名前のコウモリに【チスイコウモリ】と言う種類がいるけど、名前に反して血は吸わない。チスイはチスイでも治水。 治水蝙蝠(チスイコウモリ) だ。【チスイコウモリ】の生息地は石造りの橋の下。川辺で虫を食べる益獣で、お尻から特殊な分泌液を出して石組みの隙間に塗り付け、橋を補修してくれる。前世風に言えば 治水川守(チスイカワモリ) だな。この【チスイコウモリ】は許可なくテイムすると罰せられる。怪我をしている個体を保護する為などの特別な事情があれば別だけどね。

「君がミーシャ=ニイトラックバーグかな。私はザン=ギュラーだ。宜しく」

「ザン=ギュラー先生、宜しくお願いします」

「もしかして、岩塩で倒れた生徒って君なの?」

「はい。お恥ずかしながら」

「そのせいで岩塩ランプの授業が飛んで日程がズレたんだよね。来週から再生岩塩を作る授業が始まって、年内いっぱいかけてゆっくりと再生岩塩を育てる。どうせ年末年始の休みが入るから慌てないで授業を進める事に決定したよ。年が明けて職校が再開したら岩塩ランプの授業だ」

「申し訳ありませんでした」

「いや、トラブル込みで日程は長めに取られているから気にしない様に。さて、今日は【ホヤッキー】研磨を習いたいとの事だけど、素材を出してもらえるかな?」

そう言われたので鞄からタッキーとチャーモに渡す用のホタテの貝殻を二枚取り出す。

「これです。コカコッコの装備品になります」

「ちょっと見せてね。……うん、中々いい品質の【ホヤッキー】だ。これ、高かったでしょ?」

「いえ、刺し子の非常勤講師の古代エルフのオロール先生から頂いた物なので、ボクは値段がいくらなのか分かりません」

「そうか。【ホヤッキー】は普通に購入したら一枚あたり金貨三枚は下らないよ。これは品質が良いからもう少しするかな?」

ホタテビキニ、高かっっ!! 三枚でビキニを作るとしたら材料費だけで金貨十枚近くするんだ……。そりゃあコカコッコも欲しがるわな。

「た……高かったんですね」

「まぁ、出処が古代エルフだったら仕入れ値は安いとは思うけどね。どうせ北の荒海から拾ってきたんだろうし」

「気安く押し付けてくるのでそんなに価値のあるものだとは思っていませんでした」

つまり、古代エルフ以外から仕入れたらクッソ 高価(たか) いって事だな。

「普通に研磨するならそこまで難しくはないけど、コカコッコが使うという事なら少し面倒くさいかな。ミーシャ君は研磨スキル持ちだよね?」

「はい。持ってます」

「コカコッコに限らず魔獣や従魔に装備させる物は、基本スキルオフでの研磨が必要になるよ。職人のスキルから流れた魔力の痕跡、これは魔力痕と呼ばれているんだけど、その魔力痕が魔獣に魔力干渉するせいで魔獣側の魔力が装備品に流れ辛くなるんだ。職人自らがテイムしている従魔用の装備品を研磨するのであればそこまで神経質になる必要はないけど、それでも魔力痕を帯びない方が望ましいね」

「魔力痕を帯びた状態って確認するための検査法は有りますか?」

「上位の鑑定を掛けると分かるけど、それでも干渉値が少ないと見抜けない事もあるね。実はこの魔力痕は研磨に限らず金属精錬や繊維の精練にも微弱ながら関わってくるんだよ」

「じゃあ常にスキルオフで作業した方が良いって事ですよね」

「そこがまた悩ましいところでね、効率と品質の安定、つまり歩留まりを求めるとスキルを利用した方が遥かに良いわけで、いかに干渉を減らしながらスキルで効率化するかが職人の腕の見せ所だったりもするよ。勿論、スキルオフで素晴らしい作品を次々に作り出せる凄腕の職人もいる。そしてスキル依存は悪い事ではないからね」

「落とし所と兼ね合いが難しいんですね」

「こればっかりは経験が物を言うよ」

そうか、スキルオフか。俺、前世のクセでついついスキルに依存しないで研磨しちゃうんだよね。だって前世はスキルも魔法もない世界だよ。便利な道具は 資金(カネ) さえあれば潤沢に入手できるけど。ハンドリューターが異世界価格なら銀貨数枚で買えるとか、 異世界(こっち) だと絶対にあり得ない。最近は百均でも千円以下で購入できるらしいけど。

そのせいか、人よりスキルオフで研磨するのは得意だったりする。【汎用魔法】で微風を起こして研磨カスを飛ばしたり水を出して研磨対象を濡らしたりしても魔力痕は帯びないと言う事。そこまで封じられたらどうしようかと思ったよ。

タッキーとチャーモ用のホタテ貝殻のスケッチはしておいたので、指導を受けながら研磨していけばいい。その前に俺がスキルオフの魔道具無しで研磨が可能か確かめる為に試験を受ける事になった。

パンパンパンパン 「はい、注目!! ミーシャ=ニイトラックバーグにはこれを研磨してもらいます。成功しても失敗しても売れるから安心して研磨する様に。ちなみに失敗したら売値は銅貨五枚だけど成功したら銀貨二枚だからね」

渡された素材は鮫の歯!! 鮫の歯を研磨して 鏃(やじり) を作るというお題だった。簡単そうだけど、魔力痕が認められるとエンチャントが掛からなくなるから気合を入れて研磨する様に言われてしまったよ。