作品タイトル不明
第555話
キイキイ…… アルチュールさんの背中に【カミチスイコウモリ】が張り付いた。サイズとビジュアルのせいで、前世のロボットアニメ、魔神ガッデムZの飛行ユニット魔神ウイング展開状態のアクションフィギュアを思い出すな。背中のウイングスロットで魔神ウイングを抜き差し出来るんだけど、ウイング側のパーツが破損して小破状態で遊ぶ羽目になるんだよな。まぁ別売りでグレートウイングだのハイパーウイングだの追加オプションは買えた訳だが。
いかんいかん、そんなウイング破損という不幸な記憶に思いを馳せるなど不謹慎なこと極まりない。
「おっ、よろしく頼むぜ相棒」
キィキキキ キイ
(「姐さん、酒ヨロ」)
「アルチュールさんもコウモリさんも無理しない程度で頑張ってください。無事に生還したら赤ワインが待ってますので」
「だとよ相棒」
キイキイ
(「いっちょ飛びますか」)
見学者全員が息を飲んでクルラホーンが飛ぶのを見守る。コウモリが羽を広げ羽ばたき始める。アルチュールさんの足が徐々に浮き上がる。そしてアルチュールさん、なぜ両手を横に広げてるの? バランスを取ってるってやつか?
「凄え、俺、空を飛んでやがる」
いや、まだ浮いただけです。そして俺の脳内では某有名・豪華客船沈没映画の印象的なワンシーンと共にあのBGMが再生される。原因は横に広げた両手のせいだな。
「おお、浮いたぞ」
「浮きましたな」
「動いてみてー」
「補助羽でも浮ける…と」
クルラホーン観察日記かよ。合体だの飛行だの男のロマンだもんなぁ……後はドリルだ、ドリル持ってこーい!!
キイキイ キイキイ?
(「アニキ、大丈夫っすか?」)
「キイキイ五月蝿えなぁ……。いいぜ、ゆっくり移動してくれ。先ずは水平移動からだな」
キイキイ
(「了解っす」)
アルチュールさん、コウモリの声が聞こえてる訳じゃないんだな。……ってちょっと待て、俺は今帽子を装備してねぇぞ。って事は『シン・動物王国』のカッコ内の一頭はあのコウモリって事???
コカちゃんの時の事を考えればコウモリが暫定メンバーって事だろう。でも、残りの+1が分からないままなのだが。何処かで会う事があれば会話で分かるんだろうけど、そもそも良く知らない相手と直ぐには話さないか。
いかん、暫定枠から正規メンバーに昇格する前に森にお帰りさせないと。
前傾姿勢のままアルチュールさんが水平移動してゆく。ちょっとインプっぽいな。
「バックは出来るのか?」
キイキイ
(「無理っす」)
その場でホバリング停止するコウモリ。自力飛行でないから連係が大事。仲違いしたらアルチュールさんの方が不利だ。
「斜め上方に飛び上がってくれ」
「そこから下方に降下」
キイキイ
(「コウモリ使いが荒いっすよ」)
「コウモリさん、頑張ってくれたら赤ワインを奮発しますから」
「俺にもくれよー!!」
「勿論です!!」
見学者は無言で観察している。
プキィ〜〜
(「コウモリ頑張るし〜」)
ムキュウ!!
(「とばないこうもり、だめこうもり」)
キイキイキイキイ
(「俺、野次られてるっすか?」)
これ、カトリーヌとアンディーの声がコウモリに届いているのかいないのか気になるわ。
「最後に全速力で思いっきり前進してくれ。そこからゆっくり最初の位置に戻ってくれたら終了だ」
キイキイキイ
(「へいへい」)
コウモリはアルチュールさんの指定通りに飛行し、アルチュールさんは落下することなく最初の立ち位置に生還した。生きる、生きている……。良かった。
「お疲れ様でした。休憩して下さい」
「まだ飛べるかね?」
「リクエストしたい動作があるんだが」
「おいおい、ドワーフは貪欲だなぁ。俺はいいけどカミチスイ次第だな」
「ちょっと待って下さいね。コウモリさん、お疲れ様でした。少し赤ワインを補給して下さい。皆さん、コウモリさんの飛行をもっと見たいって事なんですけど、まだ飛べるならお願いしたいです」
キイキイ キイキイ
(「まぁ、いいっすけど。終わったら腹一杯飲ませてくれるっしょ?」)
「勿論!!」
キイキイ キイキイキイ
(「仕方ないっすよねぇ……」)
「皆さん、コウモリさんのOK取れました!!」
「悪いが場所を変えては貰えぬか? 集塵の魔道具の側で飛行して貰いたい」
「良いですな」
有無を言わせず砕石場に場所移動させられる事になったよ。ジャミ禁こと集塵の魔道具に抗って飛行してもらうのかよ。それ、アルチュールさんの鬼門魔道具だよ。コウモリも吸われるんじゃないのか?
「アルチュールさん、コウモリさん、もしかしたら少し危険な飛行実験になるかもしれません。なので、修了したらさっきまでの赤ワインとは別に良い赤ワインを提供します」
「そうしてくれ。あの魔道具の側で飛ばせるとか、ドワーフは魔族かよ」
集塵の魔道具は一番弱い設定で稼働させ、どの位置まで吸われずに近付けるかを確認するらしい。後は吸引からの脱出実験。
アルチュールさんにコウモリが張り付き、ゆっくりと浮上する。そして両手を広げるアルチュールさん再び。そのせいで俺の某有名・豪華客船沈没映画の脳内再生もおかわり。
設定を変え何度か実験を繰り返された後にアルチュールさんと【カミチスイコウモリ】は解放された。最後のあたりは会話は通じていないものの 「いくぜ相棒」 (「いくっしょアニキ」) と、いいコンビネーションを繰り広げていたよ。
見学者、特に研究職組は良いデータが取れたみたいでホクホクしていた。ハーレー=ポーターさんなんて目をキラキラさせていたし、学園長先生もウンウンと頷いていた。それと俺の知らないうちに記録の魔道具で録画されていたらしい。梁の修理とは違って公開はしないみたいだけど。まぁ申請したら見れるとは思うよ。
そして校長先生が俺とアルチュールさんと【カミチスイコウモリ】に校長室に来るように伝えてきた。