作品タイトル不明
第540話
「オロール先生、 三毛皇(みけおう) 閣下の 重魂(じゅうこん) 状態を見てあげてらえますか?」
「ああ、今回はそれが本題だったね。美味しいお酒が飲めると聞いていたから、スッカリ忘れていたよ」
「吾輩の用意した酒を気に入ってもらえれば嬉しいね」
「では……」
ジャラリ。オロール先生が何もない空間から真っ赤な数珠と黒い数珠を取り出す。俺の時にも使われた数珠玉と数珠玉の間に熊の爪や猪の牙も通されている黒い数珠と、手に持つ用の赤い数珠だ。前回同様、オロール先生は赤い数珠を手にし、黒い数珠を首から下げた。
「あ、ちょっと待って下さい。 三毛皇(みけおう) 閣下の魂の結果を知るのにボクが同席しちゃマズイのでは。退席します」
「いや、吾輩は構わんよ」
「えっ、いいんですか?」
「吾輩としてはミーシャには 立会人(オブザーバー) として見ていて貰いたい」
「分かりました……」
本人がいいというなら仕方ない。ミケヲさん問題に巻き込まれる未来しかないって事かよ。
「では改めて……」
ジャラリ、ジャラリ……。オロール先生が赤い数珠を弄る。一つ二つ、数える様に動かしては両手で揉み込むと空気感が変わってくる。
「ヘレバヘネッテヘルシー、ヘネバヘッタッテヘルシー、ンダバヘネシー!!」
謎の呪文再び。赤い数珠をジャラジャラと弄りながらヘルシー、ヘネシーと唱える。そして一喝。
「音っこしね!!」
訳:(音漏れしない!!)
「ヘネシーと言えば吾輩のいた世界ではコニャックのメーカー名だった記憶があってだね。いきなり酒の名を叫ぶから、吾輩、何事かと思ったよ」
まさかのコニャック。防音の呪文と翻訳の薬。なぜか無駄に繋がるコニャック、酒、古代エルフ。ちょっとだけ神秘を感じる。
「いくら私でも 魂見(たまみ) の儀式に酒の名は叫ばぬよ」
「おや、それは失礼」
(日)「てっきり、酒カス淑女の「酒だ酒、酒持ってこい」発言かと……」
「今、何か?」
「いや、何も」
ミケヲさん、そこ毒吐かない!! そうやってオロール先生に日本語を聞かせてるうちに、いきなり翻訳出来る様になったら困るでしょーが。
「ふむ……、 三毛皇(みけおう) 様は異世界よりの転生者で、むむ…これは 三重魂(さんじゅうこん) か!? 異世界でも一度転生して……その時の記憶持ち、二つの記憶持ち……でいいのかね? あぁ……ヒトと獣と……、このヒトは 番(つがい) ではないな。飼い主か。流石にヒトと獣のオス同士で 番(つが) わぬわな。ヒトの記憶も獣の記憶も…………、そうかそうか、とても悲しいものであったか……、あぁ悲しい話だ」
オロール先生にはミケヲさんの過去がそれなりに 視(み) えてるんだ。そのミケヲさんはウンウン頷いているから間違っていないらしい。それより異世界だと異種族間で同性婚が出来るんですか? そこ、気になります。
「どうやら本当に 視(み) えている様だね」
「魂の記憶を覗かせてもらっているだけだよ。 死人(しびと) であれば魂も呼び出せる」
「それでは先程話に上がったヒト、吾輩の飼い主だった者の魂も呼べるかね?」
「こっちに転生してきていればね。流石に異世界に漂う魂までは呼び出せぬよ。情報は貰えるかね?」
「ヒトの男性で、源氏名がナツメグ、本名は 真棚院(まだないん) 夏恵(なつみ) 。吾輩の大事な人だ」
オロール先生がジャラジャラと数珠を弄りながらさっきとは別の謎の呪文を唱え始める。
「ナーモナモナモ ナーモワモ ナガナニシダガ ナナシタカ ソサワサソワカ ソサソワカ……」
やっぱり謎呪文はスキルでも訳せないんだな。【翻訳コニャック】と日本語の関係性みたいな事なんだろう。
「ふむ……、源氏名=ナツメグ、本名= 真棚院(まだないん) 夏恵(なつみ) 。この者は彼岸の里には来ていない。さりとて生きている訳でもなし。どうやらこちらの世界には転生してきてはいない模様だね」
「ありがとう。それならまだ望みは持てるという事か……。ならば吾輩は待つだけだ」
「時々異世界渡りの転生者が現れると言うからねぇ、想い人と会えればいいね。寿命はまだあるんだろう?」
「吾輩、何事もなければ百年は生きるつもりだよ。そして今の結果を聞いたら死ぬまで長生きしたくなった」
「古代エルフでも死ぬまでは生きているよ」
「違いない」
ふふふ……、ははは……、謎の乾いた笑いが二人から漏れる。俺には分からない、 視(み) た者と 視(み) られた者だから分かる魂の秘密があるんだろう。
そして、オロール先生には俺も転生者な事は 魂見(たまみ) されてバレている訳だけど、ミケヲさんと同郷者だとは指摘されなかったな。ひょっとするとそこまでは見えないのか? それか、死亡時期がズレてるので 魂見(たまみ) を阻害しているとか。俺は令和の世に命が尽きたけど、ミケヲさんの場合は多分、平成の世なんでしょ? 流石に昭和ではないと思う。
それか、オロール先生が結果を言わないだけなのかもしれないが。
「さて、 三重魂(さんじゅうこん) をどうするかねぇ……。向こうの世界には戻りたいかい?」
「いや、吾輩、こちらの世界でナツメグを待とうと思う。今生で会うのが無理なら巡り合うまで転生してみせようぞ」
熱い思いだ。そして重い。ホトトギスもビックリだ。
「元の世界に戻らないのであれば【 臥蝶(テコナコ) の 腕輪(わっか) 】は不要なれど、【 秋津(ダンブリ) の 腕輪(わっか) 】では少し弱いか……」
「そうなんですか?」
「転生を考えているという事だしねぇ……、さてどうするか」
オロール先生は暫く黙り込むとブツブツ呟きながら次元収納に手を突っ込んでは戻し……を繰り返す。これで酒のツマミが出てきたらドン引きするけど。
「【 秋津(ダンブリ) の 腕輪(わっか) 】を基本にして、【蝉コ】を足して……、いや【 臥蝶(テコナコ) 秋津(ダンブリ) 】がいたな。あの、【 臥蝶(テコナコ) 】なんだか【 秋津(ダンブリ) 】なんだか分からない生き物だ。そこに【蝉コ】を……」
どうやらミケヲさん、俺の腕輪よりも遥かにゴージャスでハイパーな物を装着する事になる模様。