作品タイトル不明
755.貴族夫人の注文が経済を動かす
翌朝、ラルフは少し照れているようだった。私の顔を見ても視線を逸らすの。指摘するとレオンが気にするから、放置することにした。少ししたら落ち着くでしょう。
明日のお茶会のため、今日はティム達が用意した鉢に土を入れる作業をする。汚れるからとレオンは半袖半ズボン着用よ。本当は靴も長靴がいいのだけれど、大人の作業用しか見つからなかった。
特注したら、何度も履かないうちにサイズが合わなくなるわ。そこを「勿体ない」と考える私は、やっぱり貴族夫人らしくないのよね。フランクやイルゼが注文しようとしたけれど、止めてしまった。だって、本当にすぐ大きくなるのよ?
せめて十歳を超えてから……と思うけれど、その頃には靴に泥がつく作業をしないかも。
「奥様、こういった品を貴族が積極的に注文することで、平民にも広まります」
経済を動かす立場なのだから、発展させるべきだと進言された。フランクの言葉の意味もわかる。私が注文すれば、予備を含めて複数作るわ。余った在庫は、他の貴族や裕福な平民に流れる。そこから注目を浴びて、また注文が入る。たくさん作れば、それだけ原価が下がって、平民にも手の届く品になるの。
説明に納得したので、今回は間に合わないけれど長靴を注文した。経済を回すのも貴族夫人の役割なのよね。ラルフとレオン、ローズの分も。ディは靴を履く年齢になったら、改めて発注しましょう。色を……と思ったら、きょとんとされた。
「え? だって、ピンクとか青とか……」
「奥様、長靴は特殊な樹液を使います。すべて、茶色ですが?」
なるほど。まだゴムに染料を入れて着色する技術がないのね。わかったと承諾した。へんなこと言って、周囲を混乱させる必要はないわ。特殊な樹液って、ゴムの木でしょう。ティムやハンスの長靴も、茶色だったわ。
子供達と温室へ向かい、庭師の用意した鉢を前にしゃがみ込む。
「ここに土を入れるの。いっぱいより少し下、このくらいよ」
ティムの用意した鉢を見せる。レンガの上へ見本として置いて、それを見ながら作ることにした。ふかふかになった土は、腐葉土や肥料が入っていて臭う。
「くちゃ!」
ローズが顔を顰めた。嫌ならやめても……と思ったら、文句を言いながらもスコップを離さない。入れては臭いと顔をきゅっとする。中央にパーツが寄る感じ、小さい子がすると可愛いのよね。
「変な……にぉい」
レオンは土の臭いを確かめて笑う。笑気ガスとかないわよね? 一緒に臭いを確かめ、肩を震わせているラルフが鉢を引き寄せた。彼が動くとレオンも真似する。大好きなお兄ちゃんの行動を見て、ローズも頑張って土を詰め始めた。
さあ、私も頑張らなくちゃ!