作品タイトル不明
753.不安は潰してしまいましょうね
貴族に生まれたら勝ち組、そう考える人もいるけれど……学ぶことは多いし、求められる資質も高い。嫡子なら将来は安定する。でも、次男や次女、それ以下の者は将来を自分で切り開く必要があった。男児なら騎士や文官、女児も侍女か嫁ぐか。
嫡子に何かあって跡を継げる可能性は低く、幼い頃から身を立てる先を探すのが普通よ。子供にとっては残酷な宣告かもしれない。父母が愛情を示していても、いずれは家を出なければならないの。それは住む場所が変わるだけでなく、他家に属したり生活環境が激変したり。大変なことだわ。
ラルフが心配しているのは、そういう意味でしょう。バルシュミューデ公爵家という高位貴族に生まれても、将来を自ら選ばなくてはならない。年の離れた兄が立派な跡継ぎとなった今、自分の行く先を探そうとしている。まだ守られる年齢なのに。
「不安なのね。大丈夫よ、ラルフはとても優秀だわ。私はケンプフェルト次期公爵となるレオンの側近は、絶対にラルフにお願いしたいの。だから帰すのは、あなたの成長のためよ」
「せい、ちょう?」
驚いたように目を丸くする。こういう表情を見ると、やっぱりまだ子供なのだと安心する。いつも大人びた仕草で、先回りする子だから。聡いからこそ、自分の未来を悟って不安になったんだわ。優秀な証拠よ、と付け足した。
「それに、以前ユーリア様が仰っていたの。ラルフがほかの道を選ぶなら、爵位を用意すると。あなたは愛されているし、見捨てられてもいない。いくつもある選択肢を自分で選んでもいいの」
抱き寄せて、胸に抱えた幼子の背をぽんぽんと叩く。呼吸のタイミングで何度も、繰り返して。まだ不安なのだとしがみつくラルフに、前向きな言葉をかけ続けた。
「妹と仲良くなりたいなら、ローズに接するみたいに優しくしてあげて」
「ヘンリック様は拗ねているけれど、爵位を得るローズと結婚して婿に入る手もあるわ」
「可愛いラルフを見て、ユーリア様が側近に出すのをやめたら困るわね」
優秀なあなたには、いくらでも選ぶ道がある。王宮に勤める文官も、カッコいい騎士様も、美しく成長する娘の婿だって。もちろんレオンの隣に立つ、有能な補佐官も捨てがたいわね。広がっている未来を今から嘆くことはない。
「俺、そんな立派じゃ……」
「あら? 決めるのは私よ。ラルフじゃないわ」
崩した口調で笑って、強く抱きしめた。呼吸が苦しくなるくらい胸へ押し付けて、じたばたしてからようやく緩める。真っ赤な顔のラルフへ「帰ることは怖くない。あなたはレオンの兄みたいな存在だから。この屋敷へ 帰(・) る(・) 選択肢もあるの」と伝えた。
ヘンリック様も私も、レオンやローズ、まだ赤ちゃんのディだって。ここがラルフの帰る場所だと言っても、誰も反対しないわ。