作品タイトル不明
751.全部食べられるならいいわ
ちょっとしたコツを説明した。骨と肉がくっついている部分って、全体ではないの。きちんと調理されている場合、ほろりと肉が取れるのよ。骨の際まで切ろうとすれば、ナイフの扱いに苦労してしまうわ。簡単に説明して、やって見せる。じっと手元を見たユリアーナが、真似て「本当だわ」と感心した。
シュミット伯爵家では肉はたまに出るご馳走だったから、手で掴んで美味しく頂いていたの。ぎりぎりのところまで齧ったわ。ユリアーナも経験が少ないから、カトラリーを使う作法が苦手なのね。
「肉が残るのは勿体ないわね」
令嬢らしからぬ発言に、くすくすと笑ってしまった。ぷくっと頬が膨れるユリアーナに「ごめんなさい」と謝る。
「最初に肉を切り分けるでしょう? 残った部分を、骨に向かって少しずつ攻めていったらどう? 上手に最後まで取れると思うの」
誰かを不愉快にさせないための作法だもの。上手に綺麗に食べたら、料理人も含めて全員が幸せになるわ。なるほどと頷いて、早速実践するユリアーナが「できた」と笑顔になった。ローズは豪快に手で口に詰め込んでいる。ヘンリック様はさすがの手捌きで、綺麗にお皿の上を片付けた。
「ぼくも!」
レオンが真似をしようと肉に手を伸ばす。それを止めた。
「レオン、一人で全部食べられる? そうでないならダメよ」
「……うん」
食べきれない料理を手元に引き寄せて、カトラリーでつついたら、使用人へ下げることもできないでしょう? 捨てることになるわ。料理も食材も感謝して頂くのよ。説明されて、ラルフが代案を提供した。
「俺とレオンで半分なら食べられます、だろ?」
後半だけレオンに砕けた口調で聞く。私の顔を見て、ラルフを見て、レオンはしっかりと頷いた。
「ぼく、はんぶ、たべる」
ん、が一個行方不明みたい。二人で相談して、お肉の六割をラルフが食べる。パンはなしで、サラダは……すでに食べちゃったのね。スープは最後に飲めたら、と決まった。
こういう自主性は大事だから、好きにさせてあげたい。頑張っても残したら、私が頂くわ。スープを飲みながら、二人の様子を窺った。手前に取り分けた肉はモモの部分だった。従者が関節のところで切ってくれる。脚先のほうを受け取ったレオンは、ゆっくりとナイフを刺した。
かちゃんと音がしても、誰も注意しないし笑わない。真剣に向き合うレオンのお皿に、お肉が転がった。綺麗に取れたのね! 残った骨をナイフとフォークで弄る。ぎりぎりまで削って、でも関節部分だけ上手に出来なくて困った顔をした。
「上手に出来たわね、レオン。ラルフも見事よ」
苦労してバラしたのはラルフも同じ。ただラルフのほうは関節がなかったから、少し楽だったかしら? 二人の苦労を見守ったら、肩に力が入ったみたい。肩こりになりそう。
結局、子供達はお肉でお腹いっぱいにしてしまった。パン、スープは残すことになるわ。でもサラダは食べていたし、今日だけなら許すべきよね。あまり締め付けたら、食事の時間が苦痛になるもの。イルゼにそう話したら「私どもが美味しく頂きます」と笑って返された。