作品タイトル不明
749.お友達と過ごすのが楽しい年頃
夕方、ヘンリック様を玄関で迎える。いつもと同じ、なんてことない光景よ。レオンとラルフは一日中手を繋いでいたり、ローズが拗ねて「あたちも!」と地団太を踏んだりしたけれど。ごく平凡な日常だった。
「仕事が詰まって大騒ぎだった」
苦笑いするヘンリック様の上着を受け取り、後ろで待つイルゼへ渡す。ずっと持つのは貴族夫人らしくないんですって。私は気にしないけれど、周囲がおろおろするのは気の毒だわ。同行する執事のベルントが書類を運んでいく。
「それは大変でしたね、お疲れ様です」
会話を続けながら、途中まで一緒に廊下を歩く。食堂の前で足を止め、着替えに自室へ向かうヘンリック様を見送った。扉を開けて、こてりと首を傾げる。
「ユリアーナから連絡はあったかしら?」
「いえ」
もうすぐ帰ると思います。そう付け足さず、フランクは首を横に振った。あの子ったら、遊ぶのに夢中で忘れているみたい。騎士が三人も同行しているうえ、専属侍女のアンネもいる。リースフェルト公爵家の護衛も一緒だから、心配はないけれど。
きちんと話さないといけないかしらね。明日は礼儀作法とダンスの授業が入っていた。歴史はすでに終わっており、他国語の勉強は数日先だったと思う。明後日にはお茶会、さらに翌日が春祭りだわ。授業はその次の日に変更していた。
遊びたい年齢なのもわかる。友達と過ごすのが楽しいのよね? でも明日にはユリアンが帰ってくる予定よ。お父様やエルヴィンと合流し、明日の夜には公爵邸へ泊まりに来るの。その前に話をする時間を取りましょう。
「ごめんなさい、お姉様。いま戻りました」
馬車の音を聞き逃したみたい。マーサがローズを椅子に座らせる間、私はレオンの話を聞いていたの。ラルフと捕まえた虫が、いつか蝶々になるとか。人参の葉っぱが大きくなったこと。嬉しそうに話すレオンに夢中になっていたら、外出着のユリアーナが飛び込んできた。
「おかえりなさい、間に合わないかもと思ったら連絡して頂戴。急ぐと危ないわ」
時間に間に合わないからと、御者を急かしたら危ない。騎士もいるけれど、急ぐと人はどこかが疎かになるの。だから無理に間に合わせるより、連絡してゆっくり帰ったほうがいいわ。私も安心できるもの。伝えた言葉に頷くユリアーナに、着替えてくるよう促した。
「このまま頂くわ。お義兄様ももうすぐでしょう?」
「ああ、帰ったのか」
後ろから登場した夫は、ほっとした顔で席に着く。隣の子供用クッションを積んだ椅子で、ローズが手を伸ばした。抱っこを要求し、膝の上に移動して満足そう。レオンがちらちらと私を見た。あなたも? でもラルフが困るわね。
「レオンも来る?」
膝を示せば、ラルフを振り返って首を横に振った。小さな騎士様ですものね。