作品タイトル不明
744.屋敷の見回りは万全でした
屋敷に戻った途端、レオンが棒を持って走ってきた。よく見れば、練習用の模擬剣みたい。腰のベルトに差し込んで、私達の前で敬礼した。敬礼の指先が目にかかりそうで、気になるわ。まだ習っていないから、見様見真似だけど上手だと思う。
「ただいま帰りました、お留守番はどう? レオン」
ちゃんと出来た? と聞かれたら怒ってしまうかも。ヘンリック様と私がいない間、この家の主は留守を任されたのはレオンだもの。きちんと役目を果たしてくれたでしょう。
得意げに胸を張ったレオンは、身振り手振りも添えて説明してくれた。
「ぼく、お屋敷を み(・) わ(・) ま(・) っ(・) た(・) の」
見回ったのね。意味は通じるので頷いた。そこではっとした顔になり、レオンが「おかえりなさい、お母様、お父様」と挨拶する。確かに挨拶が抜けていたわ。ヘンリック様も「ああ、戻った」と返す。
「あっちからこっち、全部歩いて、これ捕まえた」
左のポケットから取り出したのは、小型の虫みたい。茶色い何かを手に乗せて見せた。
「まあ、立派な騎士様ね」
褒めると嬉しそうに笑う。斜め後ろで頷くラルフも笑顔だった。よく見れば、ラルフのベルトにも模擬剣がかかっている。
「ラルフも手伝ってくれたの?」
「はい!」
元気よく返事をするラルフにお礼を言って、レオンは撫でてから抱きしめた。もぞもぞ動き出したレオンから身を離して、次はラルフね。恥ずかしそうにしながらも、拒まれることはなかった。
「ローズは?」
「でぃの部屋、 お(・) し(・) る(・) ね(・) してる」
以前とはまた違うタイプの言葉遣いだわ。言いにくい言葉が、簡単に発音できる音に置き換えられて……可愛いけれど直さないと。
「お昼寝しているの? そう、教えてくれてありがとう」
レオンが案内すると言い出し、数歩先を歩く。ちらちらとヘンリック様を振り返るから、どうやら私をエスコートする役を譲るみたい。そう話したら、ヘンリック様が笑顔で腕を差し出した。絡めて歩けば、レオンが満足そう。
廊下を進んで、ディの子供部屋の前で止まった。中から泣き声がするわ。
「ろじぃ、どしたの? お兄ちゃんだよ」
ノックをせずに扉を開けて、勢いよく駆け込んだ。その後ろ姿を見ながら、顔を見合わせてしまう。やっぱりノックだけはきちんと躾ないと困るわね。先日の朝、思いがけず突撃された記憶が過る。
「礼儀作法の教師を手配するべきか?」
「さすがにまだ早いですわ。私が言って聞かせます」
教育は五歳を過ぎてから。止めようとしたのに間に合わなかったラルフが、大急ぎで後を追って入室する。扉を閉めて、奥のベッドで侍女に抱っこされながら愚図るローズに眉尻を下げた。泣いている理由が母親の不在なら、申し訳ないことをしたわ。