軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

735.今日はお絵描きの日よ

人参を確認しに行くローズのために、ティムが仕事の手を止めてくれた。お礼を言って送り出す。孫のいる年齢だから、ティムは幼い子の扱いにも慣れていた。使用人の立場を守りながら、微笑んで接する。本当に賢い人だわ。

ローズの付き添いはマーサが引き受けた。他にも二人の侍従が同行し、四人の大人に囲まれたローズが埋もれてしまう。手を振って見送り、待っていたレオンと手を繋いだ。反対の手をラルフに預けるレオンは、嬉しそうに歌う。

子供って即興の歌が得意よね。上手下手はあるのかもしれないけれど、誰もが独創的な自分の音を持っている。レオンの鼻歌が、心地よく響いた。

「この歌、素敵ね。私は好きよ」

感情のままに伝えたら、天使は幸せそうに笑った。

「今日から数えて五回目の朝が、お茶会の日よ。鉢植えを準備しましょうね」

「うん」

「その次の日はお祭りよ。春祭り、覚えている? ユリアンがその前に帰ってくるから、一緒に音楽を楽しみましょうか」

「しんばる!」

飽きることなくお気に入りのシンバルを思い出したのか、レオンはそわそわし始めた。

「今日は楽器の練習はしないの。お絵描きでしょう?」

約束したと話す私に、レオンははっとした顔で頷く。小さいうちは気持ちが揺れ動くたびに、あちこちへ気が逸れてしまう。中には忘れることもあるけれど、周囲の大人が軌道修正すれば済む話よ。

勉強部屋に入り、レオンはお絵描き道具を引っ張り出した。ラルフは隣で文字の勉強をするの? せっかくだから、一緒に絵を描いたらいいのに。

「ラルフ、お勉強は忙しいの?」

「いいえ。予習をしようかと……」

「素敵な考えね、でも一緒に絵を描いてみない? ユーリア様に差し上げたら、すごく喜んでくれると思うわ」

母君の名を出すのは卑怯だったかしら? 準備の手をぴたりと止めて、ラルフは迷う。それから頷いて勉強道具を片付けた。インク瓶やガラスペン、文字を書きとる帳面も。すべて箱に収めた。代わりにレオンの隣に紙を準備する。

絵を描くのに最適な画用紙は、この世界では見つからない。プロの画家はキャンバスに油絵を描くのが主流だった。でも水彩画も存在する。レオンに買ったクレヨン、絵の具、色鉛筆を並べて、白くて厚い紙を並べた。

「私は……そうね、レオンを描くわ」

「ぼく、ねことろじぃ」

あら、私ではないのね。

「母上の絵を」

それぞれに題材を決めて、あとはひたすら無言で手を動かす。夢中になる時間は大切だわ。刺繍をする令嬢や夫人も同じ気持ちかしらね。