軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

734.難しい話と小さなパン

私より先に、イルゼに捕まったレオンは説教を素直に聞き入れる。

「ご両親の寝室であっても、勝手に部屋に入ってはいけません。尊重しないと、次は若様が尊重されなくなります」

「そんちょぉ?」

「大切に扱うことです」

赤子の頃から知っているイルゼは、レオンへ丁寧に何度も言い聞かせた。止め損ねたラルフも一緒に頷いている。飛び起きて靴も履かずに走ったレオンを、慌てて追いかけたけれど間に合わなかった。ラルフはきちんと靴を履いているから、その分遅れたのね。

子供達と視線を合わせると照れてしまうので、目を逸らした。すると泣きながらレオンが抱き着き「もうちない」と洟を啜る。しゃがんで背中をリズムよく叩いた。しゃくりあげて泣くのが落ち着くまで待って、約束をする。指を絡ませて、以前と同じ歌を添えて。

「約束は守らないとダメなのよ?」

「うん」

食堂へ入れば、ユリアーナが澄まし顔で待っていた。目元の化粧が薄いから、しっかり眠れたのね。ほっとしながら挨拶を交わし、それぞれに着座する。レオンがリリーに何かをお願いした。少しだけ椅子を私のほうへ動かしたの?

「食べ終えたら、一緒に絵を描きましょうか」

レオンに誘いをかけると、ぱっと顔が輝いた。叱られてしょげていた息子の変化に、ヘンリック様がぱちぱちと瞬きする。こっそりと私に尋ねた。

「こんなに違うのか?」

「ええ、子供にとって親は世界のすべてですもの」

この家に来たばかりの頃なら、母親の私がすべて。父親のヘンリック様に対しても、今のレオンは距離なく接する。

「だから、もう少ししてレオンが落ち着いたら……ラルフを通いにしようと思っていますの」

並べられる料理を取り分ける侍女を見ながら、そう告げた。以前から考えてはいた。レオンのために、ラルフの幼少期を犠牲にしていいのか。貴族なら当たり前、嫡子でなければ将来を考えて動くのが普通。その常識は貴族特有のものだ。

悪い慣習とまでは思わない。でも、ラルフが大人になったとき……結婚して我が子が出来たら、接し方がわからないのではないかしら? 貴族の親子関係は希薄で、利害で繋がっているような家も少なくない。それは寂しいことだと思う。

説明しながら、手元の料理を口に運んだ。難しい話をしていると思ったのか、レオンは一人できちんとお皿と向き合っている。マーサの手を借りたローズは、パンを小さく千切って並べていた。お行儀が悪いと注意する前に、千切ったパンをあちこちへ差し出した。

「あい、にぃ!」

「ありがと、ろじぃ」

レオンは気にせず、受け取ったパンを口に入れた。それをみてローズが笑う。今度はラルフのお皿に、それからユリアーナにも渡そうとした。椅子の上に立ち上がって腕を伸ばす。危険だと判断したマーサが支え、ユリアーナが立ち上がって受け取りに行った。

お礼を言われて嬉しそうなローズは、残ったパンをなぜか全部口に入れた。頬がぱんぱんに膨らんでいるけれど、それより……。

「お父様にはくれないのか」

しょんぼり肩を落としたヘンリック様が、泣きだしそう。可哀想に思ったのか、レオンがパンを千切り始めた。いいのよ、ヘンリック様には私があげるから。