作品タイトル不明
733.甘えるヘンリック様を抱きしめて
「俺も同行する。絶対だ」
今度こそ、会議があっても断る! 言い切ったヘンリック様に、私は苦笑いしながら頷いた。今日の会議が延期できなくて、よほど悔しかったのね。なんでも、他国と合同のお祭りに関する相談らしいわ。まだ公表されていない話に驚く。
「周辺の国々と順番でお祭りを?」
「ああ、一つの国が祭りを催し、観光に訪れた民を別の国へ誘導する。それを繰り返して、三つの国で祭りを開催する予定だ」
移動に関する乗り合い馬車の手配など、細かな調整をしている。そんな話を聞いて、素敵ねと微笑んだ。お祭りは民の気持ちを軽くしてくれる。素敵な話だと思うわ。全面的に肯定していたら、ヘンリック様から思わぬ続きを聞いた。
「この話は先代の時から出ていたんだが、あの王は金がかかるし面倒だと断ってばかりだった」
溜め息を吐きながらの言葉に、複雑な思いを抱く。マルレーネ様の夫だから悪く言いたくないけれど、あの方は王らしくなかったのね。民の幸せを祈ることもなく、仕事もせずに丸投げ。誰かの犠牲の上に成り立つ砂の玉座だった。
まあ、亡くなられた方の愚痴を言っても仕方ないわ。
「大変だったのね」
寝室なので、遠慮なく夫の頭を抱き寄せる。レオンと同じ黒髪を撫でながら、首筋に顔を埋める大きな子供を包んだ。可愛い人、きっと幼い頃はレオンそっくりね。瞳の色だけ青い。顔立ちも黒髪も同じで、愛おしさが増した。
何も言わずに甘えるヘンリック様が、少し重くなる。これは経験があるわ。子供が眠ると重くなり、同時にふにゃんと柔らかくなる。同じ現象に口元が緩んだ。首にかかる温かい呼吸が擽ったい。
「おやすみなさい、ヘンリック様。今度は会議が重ならないことを祈っていますね」
もしかしたら、ティール侯爵も同じようにハンナ様に愚痴を言って甘えているかも。以前にハンナ様から「可愛いと思うこともありますの」と聞いたもの。
天蓋越しの天井を見上げ、二階の妹に思いを馳せる。心配が薄れて、今日はぐっすり眠れるでしょう。気持ちが緩んで、熟睡したらいいわ。目の下の隈を化粧で隠さなくていいように、心が愛する人を疑わなくていいように。
いろいろ考えながら目を閉じて、ヘンリック様を抱き寄せたまま……意識を眠りの海へ沈めた。
「すまない……」
眉尻を下げて謝るヘンリック様の顔が、本当にレオンそっくり。くすくすと笑いながら、痺れた腕を伸ばす。ヘンリック様に触れると、ぴりっとする。痺れさえも愛しくて、甘えるように飛びついた。抱きとめたヘンリック様は、どこなら平気かと触れる位置を迷っている。
「ぎゅっとしてください」
要望を伝え、ヘンリック様が応じたところに……ノックもなく扉が開いた。
「若様、いけません! あ……っ!!」
「お父様とお母様、なにしてるの?」
慌てて離れるも、息子に目撃されてしまい……恥ずかしさで赤くなるのが分かった。ノックだけは早急に学ばせましょう。