作品タイトル不明
584.娘が本当に猫みたい
幼い子はすぐに熱を出したり体調を崩したりするけれど、治るのも一瞬ね。熱はかなり下がっていた。やっぱり細胞が若いから? この表現を口に出したら、首を傾げられると思う。細胞とか細菌とか、概念自体がなさそうだもの。
一緒のベッドに眠り、抱いていたからか。ローズは私の胸に顔を埋めている。ぐりぐりと頭を動かし、甘える仕草を見せた。起きたのを確認し、侍女がカーテンを開ける。外はもう明るかった。もしかしたら、ヘンリック様はもう仕事に向かったかもしれない。
「おぁか、ちゅいた……」
出会った頃のレオンより幼いのに、年齢のわりに言葉の達者なローズが唇を尖らせる。顔はまだ赤いけれど、食欲があるなら食べさせないと! 病との戦いは体力勝負だもの。パン粥が主流なこの国で、私は卵粥を作らせた。以前も作ってもらったの。
料理長は米を炊かずに直接茹でる。その際に鳥の出汁……この世界だとスープ? コンソメみたいな感じね。それを足していた。米が出汁を吸って、柔らかく煮えたら卵を溶いて混ぜるだけ。卵が固まりすぎないよう、火を止めるのがコツよ。
用意された病人食には、ネギに似たハーブが入っていた。香りと味がネギに似ていて、懐かしい気がする。運ばれた器に目を輝かせたローズは、中身を見てがっかりしていた。スープとパンを期待していたの? まだ胃が受け付けないと思うわ。
「ローズ、あーん」
冷ましてからスプーンで掬う。不満そうに尖った唇を二回ほどつつくと、ようやく開いた。ぱくりと食べた量は、スプーンの半分程度。よほど嫌なのね。どうしようかと考えていたら、袖を引っ張られた。ローズがあーんと口を開けて待っている。
「……どうぞ」
食べるの? と言いかけて、慌てて言葉を変えた。そんな言い方したら、泣いちゃうわね。気に入らないと思ったけれど、食べたらイケる! そんな感じみたい。ぱくぱくと器の半分を食べた辺りで、ぐずり始めた。食べて眠くなったの?
夜中も付き合ってくれた侍女の一人へ器を返し、料理長にお礼を伝えてくれるよう頼んだ。すぐに卵粥が出来てきたのだから、事前に準備していたはず。こんなに愛されているのだと、ローズも自覚してくれたらいいけれど。
もう寝ると横になろうとしたから、抱き留めてぽんぽんと背中を叩いた。猫のような「にゃぁ!」を連発して嫌がる。たぶん、嫌! と言いたいのよ。眠いせいで言葉がおかしい。熱もまだ完全に下がっていないので、冷やしたタオルを用意してもらった。
食べた直後に寝たら、吐いちゃうもの。幼い子はちょっとしたことが危険につながるから、目が離せないわ。けふぅ……ゲップに似た声が聞こえ、ゆっくりと横たえた。近くの枕を抱いて、丸まる娘の髪や背を何度も撫でる。
本当に猫みたい。寝入ったのを確認し、そっとベッドから降りた。大きく伸びをして、体をほぐす。皺だらけのワンピースを脱いで、迷ったけれど入浴する。手早く湯をもらって、楽な部屋着姿で戻った。
まだ寝ているわね。ベッド脇に運んでもらった長椅子に腰掛け、私も手早く朝食を取った。レオン達は食べ終わったかしら?