軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

583.感染予防のために我慢よ

ヘンリック様達の帰宅で、玄関付近が騒がしくなる。距離はあるけれど、人が移動するざわざわした感じで察した。お迎えは無理と伝えたので、レオン達はきっと別の部屋に……。

ノックの音がして、リリーが扉を開く。ヘンリック様がちらりと顔を覗かせた。首の先だけひょこっと見せて「大丈夫か?」と小声で尋ねる。小さく頷きながら、ローズが寝ていることを伝えてもらった。普段から部屋に人がいる貴族の子女は、人の気配ではなかなか起きないの。

ぐっすり眠るローズが起きたら、何か食べさせましょう。お薬を飲むときに空腹はよくないわ。

「ろじぃ」

レオンの声に、私はやや身を乗り出した。覗き込んだ先は、ヘンリック様の膝のあたり……その高さに黒髪が覗いていた。紫の瞳がこちらを見ている。だから自分の口で伝えた。

「おかえりなさい、レオン、ヘンリック様……ランドルフもいるのかしら? ローズの風邪がうつるといけないから、今夜は私もこの部屋で休むわ。食事も別になるけれど……明後日には元気になると思うの」

レオンが首を傾げようとして、扉に頭をぶつけた。ごつんと音がして、小さな手が黒髪の頭を抱える。もぞもぞして「ぼく、にいたん、だから」と口にした。どうやら後ろのランドルフに心配されたみたい。お兄ちゃんだから平気と意地を張るレオンに駆け寄り、ぎゅっとしてあげたい。

いまの私は風邪をうつす可能性があるから、接触できないわ。じっと見つめるレオンに、「ごめんなさいね」と呟くのが精いっぱい。こういうとき、子供がたくさんいると辛いのね。他の子にうつさないため、私も我慢よ。

「レオン、うつるとローズが泣くよ」

ランドルフ様が上手に話しかけ、手を繋いで扉から離れる。開いた隙間から見ている私が、分裂して二人いたらいいのに。魔法が使えたら、最初にこれをお願いするかも。先ほどの絵本の単語が頭をよぎった。都合のいい魔法はないのよね。

「お母様、あちた……」

あら、また言葉が崩れてきた。寂しかったり悲しかったり、感情がぶれると言葉が足りなくなる。レオンは情緒豊かな子で、感情が溢れて制御できなくなるのよ。

「ええ。お母様も寂しいわ、だから……お父様と寝てあげて」

はっとした顔で振り返ったレオンは、勢いよく頷いた。それからランドルフがちらりと覗いて、ぺこりと頭を下げる。最後にヘンリック様が「無理をしないように」と言い残して立ち去った。

医師の話から、うつる病気だとフランクに説明しておいてよかった。ヘンリック様が風邪を引いて寝込んでも可哀想だし、部下の方々にうつしてもいけない。王宮の中枢が止まってしまうもの。今日だけ我慢、明日の夜までに熱が下がれば、一緒に過ごせるはず。

やっぱり、治療関係の魔法があればいいのにと願いながら、ローズの汗を拭った。早く良くなるのよ……お兄ちゃんのレオンもランドルフも、私やヘンリック様……皆が心配しているわ。